一方、南部のアヴィニヨン周辺には、AOC「コート・デュ・ローヌ」や「コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ」が広がっている。こちらは主にカフェやビストロで気軽に楽しむタイプの若くてフルーティなワイン。リーズナブルで味わいが良く、パリのビストロで昔から愛されている。近年では特にカフェ、レストラン業界でローヌの赤ワインの需要が高まり、AOC「ボルドー」に続いてAOC「コート・デュ・ローヌ」は2位の地位を占め、約70%の店のワインリストに掲載されるほど。
とはいえ南部にも「ジゴンダス」、「ヴァケイラス」のようなクリュもある。特に有名なのは「シャトー・ヌフ・ド・パプ」で、1309年から1418年までアヴィニヨンに移住していたローマ法王の名にちなみ、「シャトー・ヌフ・ド・パプ(法王の新しい城)」という名になった。この地のワインラベルに天国の守護聖、サン・ピエールの鍵と教皇の紋章が描かれているのはそうした歴史的経緯によるものだ。「シャトー・ヌフ・ド・パプ」はパワフルでスパイシーさを感じるワインで、日本の百貨店のワイン売り場でも大抵は扱っている。
コート・デュ・ローヌでは、南に下っていくほど、シラーに加えて黒ブドウのグルナッシュやモルベードルが一緒に使われるようになる。「GSM」と呼ばれる、グルナッシュ、シラー、モルベードルの組み合わせはあまりに成功しており、オーストラリアでも再現されるほど。ローヌでは画一性を好まない生産者にも選択肢が多くあり、優しい味わいのサンソーやクノワーズはじめ、約20品種の使用がAOCで認められている。そのため、コート・デュ・ローヌは幅広いスタイルをもったワインとなり、愛好者に好まれている。また、ローヌの白は全生産量の7%とはいえ、繊細で複雑な味わいがあり、高級フランス料理に合わせるのに優れたワインとして重宝されている。



ローヌ地方はワインツーリズムにも力をいれている。特に南部のワイン産地はプロバンス地方にかけて広がり、ブドウ畑とオリーブ畑がラベンダー畑と共存する景色が圧巻だ。2017年春以降には、アヴィニヨン中心部に、ローヌワインの良さを知るための中核となる施設がオープンし、さまざまなローヌワインを気軽に味わえるようになる。太陽の恵みをたっぷり受け、味わいがはっきりしているものの、重すぎず、柔らかすぎることもないグルナッシュ主体のローヌワインは和牛とも非常に相性がいい。とはいえローヌ好きのアメリカに比べ、日本でのローヌワイン消費量は微々たるもので、輸出量は輸出全体の2%にとどまっている。「今はローヌ品種、シラー、グルナッシュ、モルベードルが人気の時代。だからこそ、がっかりさせるようなものを作るわけにはいきません。」とローヌワイン委員会代表のミッシェル・シャプティエ氏。2015年に続き、2016年の赤ワインも素晴らしい年になりそうだ。