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ボルドーのシャトー・ブティネに到着すると、古いシャトーのまわりにブドウ畑と草原が広がっている。2011年からこちらの畑を始めたナタリーさんは、ボルドーワインスクールでワインの講師を務め、ワイン産地の外国人向けガイドとして活躍してきた経歴をもつ。ワインに並々ならぬ思い入れがあり、ワインスクールで出会った夫のジェロームさんと共に生産者になることを決め、こちらの畑を取得。 12haという小さな畑で主に栽培されている品種は黒ブドウのメルローで、シャトー・ブティネが最も注力しているのはボルドー・クレレ。クレレは赤ワインとロゼの中間のような味わいで、ハッとするような濃く、透明感あるフランボワーズ色が特徴的だ。シャトー・ブティネのクレレは、ロゼよりボディがしっかりしており、赤より軽やかで、夏にも冷やして飲める。ロゼとクレレの違いはマセラシオン(ブドウを皮ごと漬け込むこと)の時間の長さ。ロゼは数時間だけマセラシオンし、ほんのり赤い色になるが、クレレは24〜62時間マセラシオンするため、よりしっかりしたボディのワインになる。 4人の母であるナタリーさんは、ブドウ栽培を始めた際に夫が農薬を撒き、そこを子供が走ることに嫌悪感を感じていた。ワイン学校で農薬は大切だと学んだものの、夫や家族に病気になってほしくないという気持ちが募り、2014年からビオをはじめ、2017年に認証を取得。もともと森や牧草地もあり、花やコウモリ、ハチもいたので、その生物多様性を守りたかったという。 2017年には霜の害にやられ、90%もの収穫が減ってしまった。生産者になって初めて経験した、一晩で全てをなくすという衝撃の出来事であり、生産者というのがどういう仕事か痛感したという。とはいえ情熱的なナタリーさんはそれにもめげず、自然をどうにかすることはできないから、私たちが対応していくしかないという。2022年も雹のせいで25 %の収穫をすでに失ったが、「情熱がある間は大丈夫。生産者というのは情熱的な仕事なのよ」とナタリーさんは笑顔で語る。…

シュミット・キャレールのブドウは背が高く、畑に足を踏み入れると緑に包み込まれるかのようだ。朝露が残る土の上にはチョウがひらりと舞っている。畑には早朝から15人程が集まり、白ブドウのリースリングを収穫中。薄緑の小さな粒を口に含むと、凝縮された甘酸っぱい味わいが口一杯にサッと広がる。冗談を言い合いながら収穫する人の中には、ベルギーから休暇をとって参加する親子の姿も。シュミット・キャレールは、深い温かみのあるビオワイン生産者。ロランさん夫妻と娘さんを中心とした、小ぶりだけれど味わい強いドメーヌだ。 2012年からビオとして認定され、土の香りがふわっと漂う畑にはタンポポや雑草が生えている。ロランさんはビオに移行した理由をこう語る。「僕や家族にとって、ビオは自然なことでした。アルザスでは悪いものが土に染み込みやすいし、子供や次世代にいいものを残したかった。化学肥料を作り、薬品を作り、ロビーイングしてっていうサイクルで、毒まみれになるのをもうやめたいなって。」彼はもともとワイン畑出身ではないが、アルザスにブドウ畑をもつ奥さんと出会い、ワイン造りに関わるように。三人の娘が育ち、今では次女のアンヌ・セシルさんが右腕として働いている。「私にとってワインの仕事は小さい頃から当然そうなるといったもの。父は何度も『本当にいいのか?大変な仕事だぞ?』って、今ですら私に聞くんです。でも今更他に何したらいいのよ」と笑う。今の仕事が本当に幸せなのと語る、情熱的なセシルさん。まさに地に足がついた仕事をしている彼女はとても25歳とは思えない知識とやる気に満ちている。「親子で醗酵方法などで意見が異なることもあります。でも二人ともまだまだ学ぶことだらけ。ワイン造りは一生学ばないといけません。」とロランさん。今年は圧搾後に産業廃棄物となり、蒸留所に運ばれる大量のブドウの房や葉をコンポストとして利用する計画をたてている。「自分の畑で採れたんだから自分の畑に戻したっていいでしょう?でもフランスではやたらと手続きが面倒でね!」と嘆きながらも計15トンになる茎や房を畑に戻そうと奮闘中。 手で収穫されたブドウは小ロットごとに醸造され、合計30近くの種類を生産。基本的に品種のブレンドはしない。醸造所には小ぶりのステンレスタンクが並び、その上から豊富な水が流れている。「これは醗酵温度を保つための仕組みです。14~15℃になるように、醸造所の裏にある川から水をポンプでひくんです。使った水はちょっとだけ温度が高くなるけど、またその川に戻るんですよ。」と、ここでもしっかりリサイクル。ロランさんはビオに対して強い思い入れはあるものの、現在フランスで注目されている「ヴァン・ナチュール」には抵抗がある。「うちがビオにしたのはより素晴らしい品質を手にいれるため。ビオには細かい規定書があり、少量の酸化防止剤の使用が許可されています。自然食品店などで流行っているヴァン・ナチュールは酸化防止剤無添加といいますが、私たちにとって、ワインを安定させ、酢にさせないためには酸化防止剤は必要不可欠。もちろん出来る限り量は減らしています。素晴らしいワイン造りにはブドウ畑も大切ですが、今の技術、特に醸造技術は重要だと思います。 家庭的なあたたかさのある試飲室にはデンマークからやってきた賑やかな一行も。輸入業者の方がここに惚れ込み、毎年デンマーク人を連れてやって来るという。美味しいワインを通して気付けば隣人と会話している。やがてその人が収穫の手伝いにやって来る。そうして口コミで根強いファンが増えるのは、ロランさん家族のあたたかさだけでなく、やはりワインの味わいあってこそ。シュミット・キャレールのワインはどれも非常に味わい深い。凝縮して味わいのギュッとつまったブドウからできるワインはやはり違うと思わせる。 Vin…

山道を曲がり、中世のお城のような門をくぐると、一面の深い緑の中、道はどこまでも続いてく。丘の頂上まで行くとようやくシャトーが現れて、シックな女性のアンヌさんと大きな犬が迎えてくれる。シャトー・ラモット・ド・オーは、彼女の両親が購入したシャトーで、今は彼女の子供世代が継いでいる。「1956年に父がここに来て、始めは主にリンゴとか桃を栽培していたの。あんなに美味しいリンゴは食べたことがなかったわ。でも70年にあられが降ってね、果物に傷がついたら売り物にならなくなるでしょう。ちょうどその頃ボルドーでは果物栽培が多すぎて、それをやめてブドウにしたら補助金を出すという制度ができたのよ。それでブドウをメインに変えたのよ。」現在は80ヘクタールを所有し、年間50万本のワインを生産している。フランス国内だけでなく、輸出にも力を入れており、現在85%が輸出されているという。 [pro_ad_display_adzone id= »1569″] 貯蔵庫を見せてくれるというので曲がり道を下っていくと、山の中に掘られたカーヴの入り口がある。扉を開けると真っ暗な洞窟のように深い闇が広がっている。こちらは17世紀にできた貯蔵庫で、洞窟自体は11世紀からあったそう。バイキングの侵略が来た時や、大戦中のレジスタンスの逃げ場にもなったという歴史を感じさせる場所だ。かつてこのあたりでは石を掘っていたそうで、このシャトーの下には地下道がいくつもあるそうだ。非常にひんやりとしたカーヴの中は、天井や壁が鍾乳洞のようにでこぼこと黒光りしていてまさにフランスのワイン貯蔵庫といった雰囲気。「ここは本当に静かでワインにとっては理想的な場所。温度は自然と13℃前後に保たれています。ここには赤ワインの樽が200個貯蔵されていて、ワインが蒸発して壁が黒くなるんですよ。」とアンヌさん。 [pro_ad_display_adzone…

2014年6月中旬、東京、白金台の八芳苑にてフランス産食品・飲料展示商談会が開催された。併催された来日出展社26社によるフランスワイン試飲展示会では、数多くのロワールワインが待ち構えていた。 ロワール地方は全長1000キロ以上のロワール川流域に有名な古城が点在する地方。美しい城だけでなく、AOCワインのフランス第3の産地としても有名だ。生産するワインは赤、白、ロゼにスパークリング、甘口ワインまで幅広い。広大なロワール地方のブドウ畑はペイ・ナンテ、アンジュー&ソーミュール、トゥレーヌ、中央フランス地区の4つの地域に大別される。 ロワール・プロポリエテのブースで « Muscadet sèvre…

5月21日、東京のホテルオークラにてボルドー、サン・テミリオンの格付けシャトーが集まるサン・テミリオン・グラン・クリュ・クラッセワイン試飲会が開催された。会場には18のブースがあり、業界関係者たちが生産者と会話しながら、真剣な表情でグラスを傾けていた。今回試飲が行われたのは2008年と2010年のヴィンテージ。数ある中で特に印象深かった3シャトーを紹介したい。 シャトー・ダッソーの2008年は香り高く、口当たりがフレッシュで、しっかりしたボディとエレガントさを合わせ持っている。シャトー・ダッソーはサンテミリオンに24ヘクタールをもつシャトー。こちらはブドウ収穫は全て手摘みで14~15ヶ月間樽熟成をさせている。新樽の比率は85%。「瓶詰めする直前まで、畑の区画や品種ごとに別れて熟成させることで、細かい味わいに最後までこだわれるのよ。」と生産者のローランスさん。品種はメルロー65%、カベルネ・フラン30%、カベルネ・ソーヴィニヨン5%。プランタン銀座や楽天などで手に入る。こちらのシャトーが所有しているシャトー・フォーリー・ドゥ・スシャールの2008年は、口当たりがスッキリ、フレッシュなのが特徴的。タンニンはしっかりしているのにさわやかで飲みやすい。 さわやかな水色のラベルがひときわ印象的なシャトー・フォジェールの2008年は口に含むと味わいが口一杯に広がっていく。口当たりがやわらかく、甘みを感じるが、タンニンも豊かで後味はしっかり。サン・テミリオンらしいワインが並ぶ会場内で、ハッとさせる味わいのあるワイン。こちらは37ヘクタールとサン・テミリオンでは大規模だが、ブドウ栽培に非常に気を使い、農薬や化学物質を使わずに育てているという。ビオとしての認定は受けていないものの、環境マネンジメントシステムの国際規格、ISO14001を取得しており、厳しい環境基準の中でブドウを育てている。ブドウは全て手摘みで、最先端の機械を使用してブドウを選別し、樽醗酵も行っている。2008年の品種はメルロー85%、カベルネ・フラン10%、カベルネ・ソーヴィニヨン5%。楽天などインターネットサイトで入手可能。 18あるブースの中で一番最後に位置していたシャトー・ヴィルモリーヌは7ヘクタールという小さなシャトー。こちらの2010年のワインはグラスに注がれた瞬間から熟れた果実の香りが豊かに広がる。女性的な柔らかさを感じさせるワインで、口の中で様々な味わいが穏やかに変化していく。品種はメルロー95%、カベルネ・フラン5%。2008年のワインは12000本のみと小規模生産だったため、フランスにもう6本しか残っていないという。フランスでは1本約45ユーロ。日本では銀座のレストラン、ベルジュにて味わえる。…

ルイ・ヴィトンやシャネルのように、シャンパーニュはグラン・メゾンやブランドにしっかりと保護されている高級品だ。シャンパーニュは特に輸出向けに高価格で販売されている。偉大な年のミレジメ(ヴィンテージ)のシャンパーニュを除き、グラン・メゾンは醸造家とともに、毎年異なる収穫年や異なる畑のワインをアッサンブラージュさせて同じ味わいをつくるよう心がけている。各社はそれぞれシャンパーニュに糖分を加える「門出のリキュール」の調合等、企業秘密を持っている。フランスでの競争にさらされたグラン・メゾンは一層の利潤を追求し、アジアへ輸出する傾向がある。輸出量の90%はグラン・メゾンのシャンパーニュが占めている。 シャンパーニュにある300のメゾンのうち、LVMHグループに属しているモエ・ヘネシーのような巨大企業が有名だ。 他には シャルル・エドシック クリュッグ…

 ドメーヌ・ボリー・ラ・ヴィタレルのブドウ畑は森の中に存在する。四方を森に囲まれたこの醸造所は他とは随分様子が 違う。鳥のさえずり、樹々のざわめき、森の中にこつぜんと現れる小さな醸造所。そのすぐ横にはデッキチェアがプールサイドに並んでいる。あたりを一目見た ただけで、心地よい暮らしがあるのがすぐわかる。 オーナーのジャン=フランソワさんはビオワインで知られる人物。98年から有機栽培を始め、もう15年程になる。「ブドウ畑は全部で19ヘクタール。まわ りの山も合わせると60ヘクタールにもなります。このあたりはとても環境がよく、まわりに化学肥料を使う生産者は誰もいません。僕が造りたいのはテロワー…

ラングドック地方には地中海沿いに美しい干潟が広がる一帯がある。干潟のすぐ近くにあるペリヤック・ド・メールという小さな街の、商店が並ぶ一画からブ ドウの醗酵の香りが漂ってくる。街のど真ん中にある醸造所、クロ・ペルデュはビオ・ディナミで知られるドメーヌ。オーナーのユーゴ・スチュワートさんがイ ギリス人ということもあり、ここでは英語が飛び交っている。両腕が紫色に染まった元気な若者達。大きめのガレージのような空間に、人の背丈ほどの小ぶりの タンクが処狭しと並んでいる。醸造所、というよりも、どことなくNPOやアトリエを思わせるような雰囲気だ。 ユーゴさんがビオディナミという特別な栽培法でワイン生産を始めたのは2003年からだった。ビオディナミというのは有機栽培なだけでなく、シュタイ…

この畑はいい匂いがする。あちこちにハーブが茂り、タイムの香りが漂っている。ブドウ畑のはずなのに、鳥や虫の鳴き声が聞響き渡り、山の中に居るような心 地よい風が吹く。ドメーン・ドゥ・ラ・プローズはベルトランさんの父親が始めたドメーン。1995年からベルトランさんがワイン造りに参加し、2004年 からはビオワインを生産している。「僕がビオを始めたのは情熱でもあるし、エゴイストでもあったから。どうせ造るなら美しいものがいいと思うし、それに化 学薬品を使うのが嫌だったんだ。病気になりたくなかったからね。」2年間ボルドーでワイン造りに関わっていたというベルトランさんは、10日ごとに農薬散 布する姿を疑問に思っていた。「それにここだと事務所の中でプログラムを組むんじゃなくて、ちゃんと畑仕事ができますからね。」…

シャトー・トロロン・モンドはサン・テミリオンの小高い丘の頂にそびえ立っている。グラン・クリュ・クラッセ(特別級)として格付けされたトロロン・モンドはサン・テミリオンでも一番大きなシャトーの1つで計33ヘクタールを所有。品質向上の目覚ましいシャトーとしても有名だ。シャトーのすぐ隣にあり、サン・テミリオンの街を見下ろす斜面は日当りも水はけも抜群に良く、糖分の凝縮したメルローがすくすく育つ。シャトーの隣にはサン・テミリオンでも名高いレストラン「レ・ベル・ペルドリ」がある。ここではブドウ畑を見下ろすテラス席や豪華なインテリアが目をひく店内で、採れたての野菜を使った料理が味わえる。シャンブル・ドットも併設されたこちらのシャトーはさながらサン・テミリオンの贅沢な観光拠点のよう。モダンで洗練されているのはなにもレストランや外観だけではない。醸造所に足を踏み入れるとピカピカに磨き込まれたステンレスタンクが並ぶ。その奥ではブドウの選果が始まっている。ブドウは機械と何人もの人手を使って選りすぐりの粒だけ使用。 トロロン・モンドでは樽醗酵も行っている。「この樽を使い始めて今年で5年目となります。中には水が通る管が入っていて、温度を一定に保てるようになっています。樽の上は開閉可能になっていてガスを逃がすことができます。手でピジャージュもできるんです。この樽のいい点は少量ずつ分けて醗酵できるから、畑ごとに醗酵させやすい点ですね。」と醸造長。600リットルのこの樽は1つ20万円以上するといい、裕福なシャトーが多いサン・テミリオンの中でも特に恵まれたトロロン・モンドだからこその選択ともいえる。熟成はもちろん樽熟成。しんと深く眠りこけたような樽が並ぶ貯蔵庫の電灯をオンにすると、ロウソクの火のような薄明かりがぼうっと灯る。樽に入ったワインは美しく整然と奥まで並ぶ。2012年の樽は瓶詰めされていない状態で全て購入済だという。トロロン・モンドでは昔からネゴシアンを通して販売しており、広報担当のミリアムさんは「ネゴシアンのいい点は、彼らのお陰で私たちはワイン造りに集中できるということです。自分たちで売ろうとするとワイン造りとは全く別の仕事ができますからね。」と語る。試飲したトロロン・モンド2006は鼻の奥まで熟した黒果実の香りが漂ってくる。甘さを感じ、わりと軽やかで心地よい余韻が長く続く。こちらはメルロー90%、カベルネ・ソービニヨン5%、カベルネ・フラン5%。日本でもエノテカや三国ワイン、ネット通販などで手に入る。 レストランのランチは35ユーロ〜。予約をしないと入りづらいという人気のお店でサン・テミリオン気分を満喫してみては。ブドウ畑のすぐ隣にある優雅なシャンブル・ドットは1泊160ユーロ〜。