Browsing: ボルドーワイン

サン・テミリオンの市街地から少し車を走らせるとクロ・デ・ジャコバンに到着する。目の前には平地となだらかな丘が広がり、夕焼けにそまったブドウ畑が見事に美しい。 優しい笑顔で迎えてくれるティエボーさんは、2004年からこちらのシャトーを所有。もともとサン・テミリオンのグラン・クリュとして格付けされていたこのシャトーを見事にその名にふさわしいものに立て直したティエボーさん夫妻。二人はブドウ畑に面したお家でわんぱくな子供達を育てながら、いつでもワインとブドウのことを考えている。 2004年に父親とともにシャトーを購入したティエボーさんはもともとは商業を学んでいたという。「でも昔から自然が好きで、もっと土に触れていたかったんです。僕みたいに農業が好きで、食に興味があり、ワインも好きな人間にとって、最高にうまく結びついたのがワイン生産者という仕事なんですよ。」6ヘクタールの畑を自ら手入れし、ワインの品質を向上させ、センスの光る食卓でワインを楽しみ、商業の勉強も活かせるという仕事は彼にうってつけだった。「それにサン・テミリオンはポストカードのように美しいでしょう」と目をキラキラさせて語るティエボーさん。彼の生き様は、まさに夢が実現したらこうなるというのを示しているようだ。 とはいえワインの仕事には心配がつきものだ。ブドウづくりは天候に左右され、夫妻は雷が遠くで光る度に空を見上げ、心配そうに眺めている。一番熟成度合いが素晴らしいはずの収穫日を決めたものの、雨やあられにやられてしまうと元も子もなくなってしまう。とはいえ焦って収穫すると味はぶれてしまうだろう。我慢か、それとも動いてしまうのか。稲妻が遠くで光っても「もう決めたんだから」と腹をくくってみるしかない。シャトー暮らしは夢のようだがお金もかかる。所有者になってから醸造所に大きな木製のタンクを新設するなど、初期投資も相当なものだった。「シャトーを買ってなんとか収支のバランスがとれるようになるには10年かると言われます。」それでも一歩ずつ、着実に上を向き、素晴らしいものを生み出していく。そんな姿勢が二人の丁寧な暮らしぶりから伝わってくる。…

ペサック・レオニャンのシャトー・ブラウンの醸造所の横手には、広大なブドウ畑が一面に広がっている。こちらが所有する畑はおよそ30ヘクタール。中世に始まり、900年以上続くこのシャトー。 現在は、有名なネゴシアン一家、モー家の5代目、ジャン・クリストフ・モー氏によって経営されている。取材した10月初旬はブドウ収穫の真っ最中。こちらのブドウは全て手摘みで、収穫に必要となるのは50人。ボルドーではブドウの手摘みは義務ではないが、品質にこだわるシャトー・ブラウンは人手を選ぶ。できる限り最高のブドウをつくり、醸造にも手間をかける。「農薬もなるべく使わないようにしています。ハチの巣も20個以上畑において、エコシステムを大事にしようとしてるんです。ハチがブドウ畑にいるというのは畑が元気な証拠です。」と広報のアガット・ドゥ・ラングさん。 醸造所を見せてもらうとブドウ選果の真っ最中。房の茎は機械で全て取り除き、機械による選果の後は人の手でブドウを選り分け、計3回の選果を行う。ステンレスタンクの並ぶ室内は少しひんやり。「ここでは温度を6度にしてマセラシオン(ブドウのつけこみ)をするんです。それからゆっくりと醗酵させて、オーク樽で熟成させます。」熟成庫には様々な樽屋の樽が並び、約半分は新樽を使用。樽には畑の区画や収穫日ごとにワインを分けて入れている。白ワインは8ヶ月、赤ワインは14ヶ月、個々の特徴を保ったままで熟成される。「ワインづくりで一番大切なのは収穫するタイミングとアッサンブラージュの選択なんですよ。」とアガットさん。アッサンブラージュさせた後は1~2ヶ月タンクで寝かせ、ようやくワインの完成だ。 [pro_ad_display_adzone id= »1569″]…

コート・ド・ブールはあたたかい。日本の田舎に遊びに来たような、人間味を感じていられる出会いがある。そんな中でもシャトー・オー・ムソーは特にあたたかみを感じる場所だ。降りしきる雨の寒さも忘れるほどに、人のぬくもりに打たれてしまう、そんな真心を感じるシャトー。 10月初旬の醸造所はムワッとするほど醗酵の匂いで満ちている。醗酵中のタンクに耳をあてながら「ちょっと来て、耳をつけてごらんなさい。聞こえない?お父さん、ちょっと音をとめて!」と言って仕事を中断させて、静けさの中、ふつ、ふつと湧き上がるブドウの音色を聴かせてくれるオロールさん。「醗酵の音を聴くのが幸せなのよ~」とうっとりした表情でタンクに耳をあてている。こちらのブドウ畑を始めた父親譲りの、ワインに対する愛と情熱があるのが伝わってくる。シャトー・オー・ムソーの畑は3ヘクタールから始まって、今では33ヘクタールに広がった。ネゴシアンを通さずにできるだけ顔の見える相手に販売しようと、父のドミニクさんはドイツ語を学び、ドイツまで何度も交渉にいったそう。「それでね、うちの父は時間に厳しい方なんだけど、ドイツ人はもっと厳しくってね、5分遅れて行ったら『今度は5分前に来て下さい』って言われて追い返されたのよ」と笑うオロールさん。それでもめげないドミニクさんの努力によって、今ではドイツはよき仕事相手になっている。 [pro_ad_display_adzone id= »1569″] シャトー・オー・ムソーはまさに家族経営の小さなシャトーで、こぢんまりした空間に全ての設備が揃っている。試飲室の奥の扉を開けると、芸術的な絵柄の年代物のワインが並び、さらに奥にはラベルを貼る機械が設置されている。「よかったらやってみる?」とラベル貼りの機械を体験させてもらう。ブドウ栽培から醸造、瓶詰め、ラベル貼り、そして販売や発送に至るまで、ワインに関する全ての行程がここで、家族の手を通して実現される。ワイン生産者という仰々しいイメージとは違い、日本の小規模農家に近い雰囲気だ。日本でフランスワインを手にした時に目にする »Mis…

降りしきる雨の中シャトー・メルシエに到着すると、悪天候をものともせずに働き続ける人たちがいた。醸造所には収穫されたばかりのブドウを載せたトラックが到着し、ただちに選果が始まっていく。 選ばれたブドウの中にはオーク・チップがパラパラと投入される。「これは味ではなくて色のためなんです。今年はかなり大変な年で、皮がすでに痛んでいるとワインがいい色になりません。そんな時にはオークチップで色を定着させるんです。」と生産者一家のイザベルさん。 シャトー・メルシエは300年以上前からボルドーの右岸、コート・ド・ブールで続くシャトー。合計で48ヘクタールのブドウ畑をもち、環境に配慮した栽培方法、アグリクルチュール・レゾネを実践。悪天候な中で中心となり指示を出すのはイザベルさんの父親だ。お兄さんも醸造を担当し、イザベルさんは主にマーケティングを担当。「私はここで育ったんだけど、長いことアメリカのホテル業界で働いていたの。それで1年前に戻ってきたわ。」今は販売促進や輸出入を主に担当し、今でも年に4ヶ月くらいは海外で過ごしているという彼女。「20年前はここに戻ってきたいとは思わなかったけど、帰ってみたら、今の生活の方が100%いいって断言できるわね」と笑う。家族の他にも7人のスタッフがおり、収穫時にはいつも10人以上の大所帯で食を囲み、冗談を言っては笑い合っている。華々しい生活に区切りをつけ、家族の絆で結ばれて、しっかりと地に足のついた生活を心底楽しんでいる、そんな様子がうかがえる。 [pro_ad_display_adzone id= »1569″]…

2013年11月末、赤坂のインターコンチネンタルホテルにて、「ユニオン・デ・グラン・クリュ・ド・ボルドー試飲会」が開催された。 ユニオン・デ・グラン・クリュ・ド・ボルドーは、1973年にボルドー地方の名門シャトーが、ともに力を合わせてフランスはじめ、世界中で自分たちのワインを広めるためにつくった団体。現在では格付けシャトーを中心とする134のシャトーが加盟している。東京会場には108のシャトーの生産者や代表者が来日し、2010年のワインを振る舞っていた。ホテルの巨大な宴会場は見渡す限りグラスを手にした人の山で、一歩歩けば誰かにぶつかりそうな程。4時間のイベントには約900人ものワイン関係者が訪れた。 選りすぐりのワインだらけの会場内でも、特にハッとさせられたワインにいくつか出会った。1つ目はボルドー地方、シャトー・マルゴーで有名なマルゴー地区の、「Château Lascombes シャトー・ラスコンブ」。こちらは1855年に2級に格付けされたシャトー。 シャトー・ラスコンブ、2010年の赤は、ボルドーの上質なワイン特有の香りがふわりとグラスからたちのぼる。口に含むとタンニンはしっかりしているのに女性的な柔からさがあり、非常にエレガントで、口一杯に香りが広がる。こちらの品種はメルロー50%、カベルネ・ソーヴィニヨン45%。シャトー・ラスコンブは118ヘクタールものブドウ畑をもつ、メドック地区で最大のシャトー。…

11月8日から10日の週末に、東京の赤坂サカスで「ボルドーワイン収穫祭」が開催された。このイベントはボルドーで開催されている »Bordeaux Fête le vin »の日本版で、昨年に引き続き2回目の開催となる。ボルドーでは30万人もが集まるというこのイベントは、香港、ケベックなどでも開催され、世界に広がりをみせている。今年の来場者数は3日間で約3千人。ボルドーワインを愛する人にはたまらないこのイベントの認知度は、今後上がっていくに違いない。 [pro_ad_display_adzone…

ポツリ、ポツリと雨音が天井に響く中、薄暗い空間に蝋燭の大きな炎が揺らめいている。その後ろには樽で熟成中のワインが静かに眠る。いくつもの蝋燭の光の下、赤黒く映るワインを静かに注いでもらう。グラスを鼻に近づけただけで、香りがスッと立ちのぼる。このワインはただものではない、それがすぐに伝わってくる。ワインというのはきっと造り手に似るのだろう、ふとそんなことに気がついた。 [pro_ad_display_adzone id= »1569″]…

なだらかに続く坂をどこまでも上がっていくと、ようやくシャトー・ドーフィネ・ロンディロンの看板が見えてくる。標高約100メートルのルピアックの丘で、サンドリンヌ・ダリエ=フロレオンさん生産するのは貴腐ワイン。  「貴腐ワインは、ブドウの皮にボートリティス・シネレアっていう菌がついてできるのよ」と貴腐の進み具合が描かれたボードを片手に説明してくれる。「でもこれより畑に行った方が断然わかりやすいわよね?」と案内されたブドウ畑には白ブドウ、セミヨンが美味しそうに熟していた。セミヨンは白ブドウだが、貴腐菌がつくとはじめは小さな黒点がつき、だんだんとその範囲が拡大し、最後には黒ブドウのような外観になる。 「皮の厚さをよく見てちょうだい。普通に熟しているのに比べて、貴腐菌がしっかりついているのは皮が薄いでしょ。皮がタバコの巻き紙みたいに薄くなって、中の糖分が凝縮してジャムのようになっているのがいいブドウ。でも皮が破れて汁が出たら駄目なのよ。」ブドウを試食させてもらうとこれが自然の味かと驚くほど甘い。収穫中の畑を歩き「これはいい、これはまだダメ」と房ごとにチェックする彼女。一房ごと、いや一粒ごとに貴腐菌の成熟度合いが違うため、人の目でしっかりと確かめないと収穫は不可能だ。「だから収穫にはすごく時間がかかるのよ。天候にもすごく左右されるしね。同じ畑でも成熟度合いに応じて3回くらい収穫するの。あんまりに大変だから、今は辛口白ワインをメインにする生産者も増えてるわ」 年代物の家具に囲まれた自宅のサロンで昼食とワインをいただいた。はじめに出されたのは「Château Rouquette…

2013年10月初旬、シャトー・ラトゥール・マルチヤックに到着すると、まさにブドウ収穫の真っ最中。早速オーナーのトリスタン・クレスマンさんに様子を見せてもらうと、ブドウの選果場は巨大な機械が占領している。 「この機械はすごいんですよ。中にカメラが入っていてね、ここを通るブドウの粒を全部チェックしてるんです。基準に満たないものは自動で選別してくれる。これだと手作業に比べて2倍も早くできるんです。」これはフランスでもまだ珍しい、最新式の非常に高価で巨大な機械。今年はレンタルにしたそうだが、性能には非常に満足しているという。「うちのブドウは手摘みですが、人間の目で選果をしてても見落としがあるものです。シャトー・ラトゥール・マルチヤックが目指しているのは可能な限り最高なワインをつくること。素晴らしいワインをつくるために、うちだけ努力を惜しんでいたら競争になんて勝てないですよ。」 [pro_ad_display_adzone id= »1569″] いつだって何か改良できる点はないかを探しているというトリスタンさん。このシャトーは有名なネゴシアンだった彼の祖父が1930年に購入。1953年からシャトー・ラトゥール・マルチヤックはボルドー地方、グラーブ地区のグラン・クリュとして格付けされている。彼の父親は大きすぎたグラーブ地区に、新たにペサック・レオニャンというアペラシオンを創設するのに貢献したという。代々ワインに情熱のあるクレスマン家。トリスタンさんも同様で、ワインについての話は尽きることがない。…