Browsing: フランスワイン産地

10月5日、東京の西麻布にて、シャンパーニュ・マスタークラスが開催された。シャンパンという愛称で親しまれているシャンパーニュは、フランス北部のシャンパーニュ地方で伝統的な製法で造られた発泡性ワインのみを指す。使用可能な品種はピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、シャルドネの3種類のみで、主にモンターニュ・ド・ランス、ヴァレ・ド・ラ・マルヌ、コート・デ・ブランの3つの地区で生産されている。 今回のマスタークラスは、その中でもヴァレ・ド・ラ・マルヌの多様性を知るというもの。マルヌ川沿いに広がるヴァレ・ド・ラ・マルヌは、黒ブドウのピノ・ムニエの栽培が盛んな地域。生産者も数多く来日し、解説と細やかで的確なテイスティングを行ったのは銀座レカン、シェフソムリエの近藤佑哉さん。シャンパーニュの3つの品種のなかで「シャルドネは凛とした酸、ピノ・ムニエはまろやかさ、ピノ・ノワールはストラクチャーが特徴的」と近藤さん。各メゾンのブレンド比率を見ると、生産者の方向性がわかるという。 ここでは12種類のシャンパーニュを試飲した中で、特に印象的だった3種類をご紹介したい。シャンパーニュ・フィリップ・デシェル Champagne Philippe…

ボルドー、サン・テミリオンのビニョーブル・ジャドが所有する、シャトー・フルール・ド・リッスの扉を開けると 、目に飛び込むのは開放的な空間に整然と並んだワインの本と、その奥の棚にずらりと並ぶワインの瓶だ。その反対側には美しいブドウ畑が広がっている。 キャロリーヌ・テシュネさんが社長を務めるビニョーブル・ジャドは、1837年から続く家族経営のワイン生産者。家族経営といっても、単なる小規模生産者ではなく、ここには隅から隅までキャロリーヌさんのこだわりが詰まる。ビニョーブル・ジャドはボルドー右岸のサン・テミリオンに合計32haを所有し、2016年から有機栽培とビオ・ディナミでブドウを育てている。 黒ブドウのカベルネ・フランが育つブドウ畑に行くと、ブドウの樹の間には下草が生えている。80年代のボルドーでは下草を生やすのはもっての他だったが、今日では栄養になるとして重宝されている。ビオ・ディナミでは月の暦を大事にしており、それに合わせてカモミールなどを使った肥料を撒く。また、フランスのワイン産地でよく目にするオレンジ色の「コンフュージョン・セクシャル」も活躍中。これはカプセルが蝶のフェロモンを発し、蝶を混乱させることで、ブドウに卵を産ませないようにするものだ。 ビニョーブル・ジャドは家族経営とはいえ、並々ならぬこだわりがあり、収穫後にはブドウを2日間冷やしてから発酵させる。皮についている埃を冷たくすることで取り除き、8日ほどかけてゆっくりと発酵させるのだ。…

ボルドーのアントル・ドゥー・メールに位置するヴィニョーブル・デュクールは1858年から続く歴史あるワイン生産者。家族経営で代々続き、ジョナタンさんは6代目にあたる生産者。ヴィニョーブル・デュクールと日本とのつながりは深く、日本には40年ほど前から輸出をし、ジョナタンさんはコロナ前は年に2回も来日していたという。 6世代続くとはいえ、規模が大きくなったのは祖父、アンリ・デュクール氏の代からだ。近くの畑やシャトーを購入し、叔父も叔母もワイン生産に参加した。そのおかげで今ではボルドーに450haに及ぶブドウ畑と14のシャトーを所有。ヴィニョーブル・デュクールはボルドーで最大規模の家族経営企業のひとつである。 ソービニヨン・ブランの畑を見せながら、ジョナタンさんは気候変動の影響について教えてくれた。今年のボルドーは約2ヶ月にわたって雨が降らない日が続き、土の表面はカラカラに乾いているため、土を触るととても硬い。今年のフランスは日照りが問題になっており、ボルドー付近では山火事が起こり、パリでも街路樹の葉が7月にすでに散り始めている。日照りが続いても、しっかりと根を張ったブドウの樹は、表面ではなく地下の水分を吸い取ることができるが、問題は樹齢5-6年くらいの若いブドウの樹だ。若いとまだ根が表面にあり、表面には水が少ないため上手に育つことができないという。 また、温暖化により冬の気温があまり下がらないため、ブドウの樹がしっかり休めなくなってしまった。しっかり冬眠できないため、普段よりも早く芽がでてしまい、そこに霜の被害が来ると危険性がかなり高い。 ヴィニョーブル・ドゥクーには大規模な瓶詰め工場もあり、瓶同士がぶつかり合う激しい音のなか、1時間に5400本ものワインが瓶詰めされている。広大な敷地を持つため、瓶詰めしたワインを数年寝かせておく余裕があり、赤ワインは3−4年寝かせてから出荷するという。…

5月31日、ブルゴーニュワイン委員会主催の「シャブリ・シンフォニー」が池袋の自由学園明日館にて開催された。このイベントは、かの有名な白ワイン、シャブリを音で表現するという試みだ。レカン・グループ飲料統括マネージャーの近藤佑哉さんによる解説とテイスティングの後、シャブリの音色に耳を澄ませた。 ブルゴーニュ地方の北に位置するシャブリでは、単一品種のシャルドネで白ワインを生産している。シャブリという名前は世界的に有名とはいえ、ブルゴーニュ地方の白ワインの中で、生産量は18%にすぎない。シャブリには「プティ・シャブリ」、「シャブリ」、「シャブリ・プルミエ・クリュ」、「シャブリ・グラン・クリュ」という4つのAOC(原産地呼称)が存在する。 今回の試みは、その4つAOCの違いをシンフォニーで表現するというもの。この難しい試みに挑戦したのは作曲家の松波匠太郎さん。近藤さんに直接指導してもらいつつ、その違いを肌で学んでいったという。音楽とワインという、一見関係なさそうな二つの世界だが、そこには聴五感を磨くという共通項がある。「聴覚と味覚という全く別の世界だが、感覚を研ぎ澄ましてきたという点で、近藤さんと私は同志のようなもの。話をしていくうちに、共鳴する点が非常に多かった」と松波さん。ソムリエは味わいを言葉で表現して伝え、音楽家はメッセージを音楽を通じて表現して伝えようとする。伝えるための手段は違えど、表現者という根っこは同じかもしれない。 今回のために造られたシャブリ・シンフォニーはそれぞれ1分半の4つの曲から構成され、「プティ・シャブリ」から始まっている。試飲に提供されたドメーヌ・ビヨー・シモンの「プティ・シャブリ2019」はレモンや柑橘系のフレッシュな香りで、思わずグッと飲み干したくなる心地よさ。音楽もとても軽快でハツラツとし、バイオリンの弦を指で弾くなど、軽やかで高い音を多く使用。「シャブリ」の方は、よりしっとりとした、大人の恋を思わせる甘く切ないメロディだ。「シャブリ・プルミエ・クリュ」はフランスの秋のような切なさ、大人の人生の喜怒哀楽を感じさせる。ぜひ下記の動画でその音色に触れてみてほしい。 そして最後が「グラン・クリュ」。こちらはまさにクライマックスという言葉がふさわしい、荘厳さが溢れる音楽だ。軽やかな若い娘を思わせる「プティ・シャブリ」とはうって変わって、人生のさまざまな経験を重ねた後で、成熟した大人になってからようやく華開くような、雄大なメロディ。夜がふけて、妖艶な魅力を放つベネチアのサン・マルコ広場のカフェで堂々と演奏されそうな曲である。「ストラクチャーや、奥行きを感じる味わいがある。いろんな要素が見事に合わさり、グラン・クリュのワインをそのまま音に変換したのが今の曲だと思う」と近藤さん。…

ロワールはフランス第3位のワイン産地。全長1000キロ以上の広大なロワール河のまわりには、68ものアペラシオンが存在している。透明感ある白ワイン から黒みをおびた赤ワインまで、あらゆる種類のワインがある。絶対的な静寂から野性的な顔まで見せるロワール河同様、スティルワインから発泡性ワインま で、多彩な表情があるのもロワールならでは。ロワールワインを表すのはまさに多様性だといえる。 ロワールワインはフランス南部のコート・デュ・ローヌやラングドックのワインとは対照的に、アルコール度数は低め。この地方の特徴的な品種としてはムロ ン・ド・ブルゴーニュ、シュナン、ガメイなどが挙げられる。ロワールワインは「フランスの庭」と呼ばれる華やかな地域で王達の色恋沙汰に付き添い、詩人に…

コート・デュ・ローヌのワイン産地は南北に大きく分かれており、南と北では味わいや生産方法も異なっている。南部は赤の場合、いくつかのぶどう品種をアッサンブラージュするのに対し、北部はシラーのみを使用。シラー?あのコショウの香りでパワフルな?とあなどることなかれ。ローヌ北部のシラーは計り知れない魅力に満ちている。力強そうなイメージとは裏腹に、驚くほどのエレガントさと柔らかさをあわせ持ち、鴨から子羊、ジビエに至るまで、どんな肉料理もより豊かで味わい深くさせてしまう。北部でも特に高品質でコストパフォーマンスの良さで知られるAOCサン・ジョセフ。今後のワイン選びのために、是非この名を覚えていてほしい。 ローヌ北部には8つのクリュという、特に品質の優れたワイン産地が存在する。その中で一番南北に長く、規模が大きいのがAOCサン・ジョセフ。サン・ジョセフは高名なコート・ロティやコンドリューの南から、高級ワイン産地、エルミタージュの対岸を通り、コルナスの北まで、ローヌ右岸の花崗岩主流の丘に約50キロにかけて続いている。サン・ジョセフの地形の特徴は何といっても急斜面。ローヌ川と、その支流沿いに連なる丘の、立っているのもやっとなほどの急斜面にブドウ畑が広がっている。水はけがよく、日照量にも恵まれたこの土地のワインづくりの歴史はフランスでもダントツに古く、ギリシャ時代からブドウ栽培を行っていた。ミストラルという北風がぶどうの木についた湿気を乾かしてくれるため、病気にもなりにくく、ビオへと移行する農家も増えている。あまりに急斜面なので、トラクターや収穫機を通すことは不可能で、作業は人手に頼らざるをえない。結果として質のよいブドウだけが収穫され、サン・ジョゼフのワインは非常に高品質なワインとしてパリでも認知度が高まっている。 ローヌ北部ではネゴシアンの役割が重要だ。パリのワインショップでローヌ北部のワインを探すと、ネゴシアン名が書かれているものが半数以上を占める。もともとネゴシアンは農家が生産したブドウを購入するか、醸造されたワインを樽で購入し、ネゴシアンの名前で瓶詰め、販売する形をとっていた。次第にネゴシアンはその経済力を活かしてより大きな役割を担うようになっていく。南北に長く広がる産地の中で、客観的で広い視点を持ちながら、上質な畑を見極め、購入するのも、世界に向けてこの産地の名を広めていくのもネゴシアンの役割だ。最近ではネゴシアン自体が巨大な生産者のように、畑を持ち、ブドウ栽培から深く関与する形が増えている。 1834年創業の伝統的なネゴシアン、ポール・ジャブレ・エネ(Paul Jaboulet…

フランス第2の規模を誇るAOCワイン産地、コート・デュ・ローヌはリヨンの南からアヴィニヨンまで、南北に約250㎞渡って広がっている。ローヌ川はリヨンの市街地を横切り、マルセイユの西で地中海に注ぐ広大な河川。この地でのワイン造りは、マルセイユがローマ帝国の植民地だった紀元前600年から始まり、北部でも1世紀にはワイン造りが始まった。 ローヌ川沿いに広がる産地は北部と南部に大別され、それぞれ8つのクリュ(特に秀でたAOCワイン産地)が存在する。「セプタントリオナル」と呼ばれる北部は、リヨンの南、ヴィエンヌ付近から始まり、ローヌ川沿いに「コート・ロティ」、「コンドリュー」、「サン・ジョセフ」「エルミタージュ」などの高名なワイン産地が続く。これら偉大なワインは赤の場合はシラー、白はヴィオニエやマルサンヌ、ルーサンヌという品種を使用。赤はもっぱらシラーといっても、AOCやテロワールごとに味わいは多様な表情を見せ、力強さだけでなく、うっとりするようなエレガントさを兼ね備えており、鴨や子羊、ジビエに至るまで、さまざまな肉料理と見事に調和する。北部のブドウ畑は立つのもやっとという急勾配のローヌ渓谷に段々に広がり、機械の使用が難しく、収穫はもちろんほとんどの作業が人力となる。そのため収穫量も限られ、値段も1本15€を超えることが多くなるが値段以上の深い味わいを楽しむことができるだろう。パリのほとんどのスーパーやワインショップでは「クロズ・エルミタージュ」や「サンジョセフ」など、北部のワインも扱っている。 一方、南部のアヴィニヨン周辺には、AOC「コート・デュ・ローヌ」や「コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ」が広がっている。こちらは主にカフェやビストロで気軽に楽しむタイプの若くてフルーティなワイン。リーズナブルで味わいが良く、パリのビストロで昔から愛されている。近年では特にカフェ、レストラン業界でローヌの赤ワインの需要が高まり、AOC「ボルドー」に続いてAOC「コート・デュ・ローヌ」は2位の地位を占め、約70%の店のワインリストに掲載されるほど。 とはいえ南部にも「ジゴンダス」、「ヴァケイラス」のようなクリュもある。特に有名なのは「シャトー・ヌフ・ド・パプ」で、1309年から1418年までアヴィニヨンに移住していたローマ法王の名にちなみ、「シャトー・ヌフ・ド・パプ(法王の新しい城)」という名になった。この地のワインラベルに天国の守護聖、サン・ピエールの鍵と教皇の紋章が描かれているのはそうした歴史的経緯によるものだ。「シャトー・ヌフ・ド・パプ」はパワフルでスパイシーさを感じるワインで、日本の百貨店のワイン売り場でも大抵は扱っている。 コート・デュ・ローヌでは、南に下っていくほど、シラーに加えて黒ブドウのグルナッシュやモルベードルが一緒に使われるようになる。「GSM」と呼ばれる、グルナッシュ、シラー、モルベードルの組み合わせはあまりに成功したため、オーストラリアでも再現されている。ローヌでは画一性を好まない生産者にも選択肢が多くあり、優しい味わいのサンソーやクノワーズはじめ、約20品種の使用がAOCで認められている。そのため、コート・デュ・ローヌは幅広いスタイルをもったワインとなり、愛好者に好まれている。また、ローヌの白は全生産量の7%とはいえ、繊細で複雑な味わいがあり、高級フランス料理に合わせるのに優れたワインとして重宝されている。…

ブルゴーニュワインが日本人に好まれるのは、繊細な味わいだけでなく、歴史やテロワールとの結びつきにもよるのだろう。というのもブルゴーニュワインの名声は、品種とテロワール、そして造り手とが合い重なって形成されているものだから。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フラン等の複数品種をアッサンブラージュするボルドーワインに対し、ブルゴーニュでは赤ワインにはピノ・ノワール、白ワインにはシャルドネの単一品種を使用する。ブルゴーニュ地方では白ワインが60%、赤ワイン40%の比率で生産されている。 ブルゴーニュワインはヨーロッパとフランス の歴史に深く根ざした、世界で最も歴史あるワインのひとつ。千年前、まだ領主達の手に権力が委ねられており、フランス国家が小さな領地しか支配していなかった時代、僧侶達は修道院を建設した。ブルゴーニュではクリュニー会とシトー会の修道僧たちが品種を選び、土壌や気候の違いによってコート・ドール地区の畑 の境界を定めることで、偉大なワインのベースを築く。15世紀にフランス国王より強い権力を持っていたブルゴーニュ公爵の果たした役割も見逃せない。彼は ピノ・ノワールの価値を認め、ガメイという多産で現在ボジョレー地区の主要品種となっているブドウの栽培を禁止する。今日でもブルゴーニュのグラン・クリュは修道僧たちが区切った、石塀で囲まれた畑の小区画を継承している。石塀に囲まれた小区画は「クロ」と呼ばれる。…

日本では年代物のブルゴーニュワインに愛着のある人が多いとはいえ、世界でフランスワインを象徴する産地といえばボルドーだ。アメリカ人や中国人は、整然と手入れされたブドウ畑とシャトーが連なる、ザ・ワイン産地というイメージをボルドーに抱いている。とはいえボルドーを理解するのは簡単なことではない。というのもボルドーには高名なものからあまり知られていないものまで含め、65ものAOCが存在するからだ。 愛好家たちはボルドーという名の下にこれほど多くのアペラシオンがあることに混乱してしまう。ジロンド川左岸のメドックはいいとして、右岸の細かいAOCまでは手がまわらない。ブラインド・テイスティングで一方がコート・ド・ブールで他方はコート・ド・ブライと簡単に見抜ける人がいるだろうか?ボルドーにはよいワインもあればそうでないものも存在する。非常に高価なものからリーズナブルなものまで値段もピンキリだ。ボルドーワインの評判は、1980年頃からブドウ農家やネゴシアン達に栽培面積拡大の動機を与え、これまで全くブドウを栽培したことがなかった土地にも植えるようになってしまった。90年代初頭に10万haだったAOCボルドー全域のブドウ畑は、2005年には12万3千haにまで拡大。その後は小さな生産者では維持していくのが厳しくなり、ブドウの樹を引き抜くことに。 ボルドーは同名の市街地同様、何世代も前から存在する、表立たないネゴシアンとの商取引で成り立ってきた。歴史的にもボルドー市街はワイン商人たちのお陰で潤い、海運貿易で栄えた18世紀の黄金時代にはブルジョワ風の豪華な建物が建てられた。14世紀の英仏百年戦争の間、ボルドーワインはロンドンに運ばれた。イギリス人は何世紀も前からボルドーワインを愛し、アメリカ人にボルドーを伝えたのもイギリス人だ。ボルドーのドメーヌに多くの英国名があるのもそのためだ。 ボルドーは海洋性気候で湿気がある。この湿気がブドウに貴腐菌を付着させ、ソーテルヌのような偉大な貴腐ワイン造りを可能にする一方で、他のブドウ畑では農薬散布を行う一因ともなっている。乾燥していて風通しの良いラングドックやプロヴァンス地方に比べると、ボルドーでビオが少なめなのはブドウにカビがつきやすいからだ。 関連記事…