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有名なカフェ、ドゥ・マゴの目と鼻の先、赤と青のひさしが目印のボナパルトはサン=ジェルマン・デ・プレ地区の中でも最も美しいカフェの1つ。このカフェのテラスからのサン=ジェルマン・デ・プレ教会や広場の眺めといったら最高です。ここはサン=ジェルマン・デ・プレという独特の地域の中で、落ち着いた時を過せる空間なのです。何十年か、ボナパルトは近くの国立美術学校の学生達の行きつけの店でした。店内は最近リノベーションされたばかりですが、この店の心意気を失うことはありません。改装されてから目をひくのは何と言ってもトイレ専用エスカレーター。豪華ホテルのように木目調のエスカレーターで下に降りると、ナポレオンやマリー・ルイーズの美しい写真がゆっくりと出現します。パリでこんな豪華なエスカレーターのあるカフェはきっとここだけ! お料理に関してもこの店は通りいっぺんじゃありません。ブラッセリーでもレストランでもないのに、ボナパルトはとてもいい素材を使った美しい料理を提供しているのです。この店のオーナーのミッシェル・タファネル氏は、オーガニックにこだわる人物。ノルマンディでサレール牛を育てている彼にとって、オーガニックはもはや当たり前のことなのです。 ボナパルトのメニューでは、緑色で書かれた料理はオーガニックの素材を使っていることを示しています。トーストされたパンの上に盛られたオーガニックのサレール牛生肉のタルタルステーキ(18ユーロ)にはじまり、プリプリして味わい深いタイの海老(25ユーロ)やスモークサーモン、オムレツ(9ユーロ)や鶏肉の シーザーサラダ(17ユーロ)も皆オーガニックな素材を使っています。 タファネル氏は出身地のカンタル県の料理も大事にしています。例えば「農家のメニュー」(16ユーロ)のリンゴのコンポートとキャラメリゼされたフルーツの上に盛られたブーダンは、ハムと同じくカンタル県から直送されてきたものです。お食事の後にはとびきり美味しいデザート、特にイチゴのムースがおすすめ。…

ワインの世界には「テロワール」という言葉があるが、テロワールとは何かを理解するには時間がかかる。だがローラン・コンビエの畑を訪れ、ローランさんの説明を聞くうちに、テロワールとは日本語で言うと「大地」なのだと腑に落ちた。テロワールを感じるというのは、それが育った大地の力強さを感じ、味わうということなのだ。だからこそ、ブドウの生育環境をどう扱うか、それがワインの味に直結するのだろう。 ドメーヌ・ローラン・コンビエはローヌ北部、クロズ・エルミタージュを中心に50haもの畑を持つが、この規模で全て有機栽培というから驚きだ。「もうビオを始めて46年になります。父はフランスの有機栽培のパイオニアの一人で、クロズ・エルミタージュでは初のビオ生産者。今でこそビオも増え、認められるようになりましたが、当時はおかしい人だと思われてたんです」とローランさん。彼らがビオにこだわるのは、最高のワインの原材料を求めているからだ。「ブドウの樹や土壌が元気になり、健康でバランスのいいブドウができると、ワインの味わいも良くなります。土壌が生き生きしていると、ワインに一層のミネラル感が生まれます。土の良い状態がブドウの樹に伝わって、テロワールの特徴をブドウに伝えていくのです。」祖父の代に植えたというブドウ畑に入ると土のふわっとした感じがわかる。「土を耕し、空気を取り込むことが大切です。土が固いとブドウの根が深く入っていきません。根は地中15mまで張ることもあり、ブドウの樹は根を通して大地のエネルギーを吸収しています。樹の方は毎日太陽にさらされて、太陽のエネルギーを浴びています。ブドウの樹はその周りの自然にとても影響を受けているのです。」 黒ぶどうのシラーを収穫中のローランさんが醸造のこだわりも教えてくれる。「とにかくワインの原料であるブドウの状態が大切です。クロズ・エルミタージュは平地なので収穫機も通せますが、うちは全て手摘みにします。ブドウの房部分も取り除き、その後のブドウの選別も人手で行います。ブドウをタンクへ入れる時も、チューブではなくコンベアを使い、ブドウが傷つかず、繊細な味わいを守るために細心の注意をしてるんです。」醸造にはコンクリートタンクも使用し、熟成には卵型のタンクも使う。「シラーは酸素を必要とする品種です。コンクリートタンクはステンレスよりもワインが呼吸しやすく、壁も厚いため温度変化もゆっくりです。この卵形のタンクは99年から使っています。地球の自転にそって中の液体がゆっくりと回転し、自然にバトナージュをしてくれるんですよ。」 ローラン・コンビエのワインを口に含むと、なるほどと身体で合点がいってしまう。シラー100%の赤、「Crozes…

シュミット・キャレールのブドウは背が高く、畑に足を踏み入れると緑に包み込まれるかのようだ。朝露が残る土の上にはチョウがひらりと舞っている。畑には早朝から15人程が集まり、白ブドウのリースリングを収穫中。薄緑の小さな粒を口に含むと、凝縮された甘酸っぱい味わいが口一杯にサッと広がる。冗談を言い合いながら収穫する人の中には、ベルギーから休暇をとって参加する親子の姿も。シュミット・キャレールは、深い温かみのあるビオワイン生産者。ロランさん夫妻と娘さんを中心とした、小ぶりだけれど味わい強いドメーヌだ。 2012年からビオとして認定され、土の香りがふわっと漂う畑にはタンポポや雑草が生えている。ロランさんはビオに移行した理由をこう語る。「僕や家族にとって、ビオは自然なことでした。アルザスでは悪いものが土に染み込みやすいし、子供や次世代にいいものを残したかった。化学肥料を作り、薬品を作り、ロビーイングしてっていうサイクルで、毒まみれになるのをもうやめたいなって。」彼はもともとワイン畑出身ではないが、アルザスにブドウ畑をもつ奥さんと出会い、ワイン造りに関わるように。三人の娘が育ち、今では次女のアンヌ・セシルさんが右腕として働いている。「私にとってワインの仕事は小さい頃から当然そうなるといったもの。父は何度も『本当にいいのか?大変な仕事だぞ?』って、今ですら私に聞くんです。でも今更他に何したらいいのよ」と笑う。今の仕事が本当に幸せなのと語る、情熱的なセシルさん。まさに地に足がついた仕事をしている彼女はとても25歳とは思えない知識とやる気に満ちている。「親子で醗酵方法などで意見が異なることもあります。でも二人ともまだまだ学ぶことだらけ。ワイン造りは一生学ばないといけません。」とロランさん。今年は圧搾後に産業廃棄物となり、蒸留所に運ばれる大量のブドウの房や葉をコンポストとして利用する計画をたてている。「自分の畑で採れたんだから自分の畑に戻したっていいでしょう?でもフランスではやたらと手続きが面倒でね!」と嘆きながらも計15トンになる茎や房を畑に戻そうと奮闘中。 手で収穫されたブドウは小ロットごとに醸造され、合計30近くの種類を生産。基本的に品種のブレンドはしない。醸造所には小ぶりのステンレスタンクが並び、その上から豊富な水が流れている。「これは醗酵温度を保つための仕組みです。14~15℃になるように、醸造所の裏にある川から水をポンプでひくんです。使った水はちょっとだけ温度が高くなるけど、またその川に戻るんですよ。」と、ここでもしっかりリサイクル。ロランさんはビオに対して強い思い入れはあるものの、現在フランスで注目されている「ヴァン・ナチュール」には抵抗がある。「うちがビオにしたのはより素晴らしい品質を手にいれるため。ビオには細かい規定書があり、少量の酸化防止剤の使用が許可されています。自然食品店などで流行っているヴァン・ナチュールは酸化防止剤無添加といいますが、私たちにとって、ワインを安定させ、酢にさせないためには酸化防止剤は必要不可欠。もちろん出来る限り量は減らしています。素晴らしいワイン造りにはブドウ畑も大切ですが、今の技術、特に醸造技術は重要だと思います。 家庭的なあたたかさのある試飲室にはデンマークからやってきた賑やかな一行も。輸入業者の方がここに惚れ込み、毎年デンマーク人を連れてやって来るという。美味しいワインを通して気付けば隣人と会話している。やがてその人が収穫の手伝いにやって来る。そうして口コミで根強いファンが増えるのは、ロランさん家族のあたたかさだけでなく、やはりワインの味わいあってこそ。シュミット・キャレールのワインはどれも非常に味わい深い。凝縮して味わいのギュッとつまったブドウからできるワインはやはり違うと思わせる。 Vin…

フランスワインの話でよく耳にするAOCとは、アペラシオン・ドリジン・コントロレの略。日本では原産地呼称統制と訳されます。AOCは生産地と歴史に深く結びつく製品の特徴を確実に定義づける品質保証制度。AOC表示が許可された特産品は、その土地にとても強く結びき、何世紀も前から作られている製品で、その土地由来の信頼できる素材を使おうと心がけてきた、人々の歴史的営みの証でもあるのです。AOCにはボルドーやブルゴーニュ地方のワイン、ロックフォールやカマンベールチーズのようなものが指定されています。 AOCの概念は1935年にフランスで、ワインやチーズのような食品の原産地を詐称から守るために誕生。例えば、ロシアで作った発泡性ワインを「シャンパーニュ」と名乗らせないようにしたり、カルフォルニアワインを「シャブリ」と名乗らせないようにするためです。 フランスにはAOC獲得済み製品が455品存在します。そのうち364品は、ワインやコニャック等のアルコール、49品はチーズで、42品が果物、野菜、オリーブオイル、お肉や蜂蜜、桃製品や香辛料、飼料、エッセンシャルオイル等、様々な農産物が指定されています。 AOCの概念はEU内でも採用され、AOP(アペラシオン•ドリジン•プロテジェ)という表示になっています。フランスのAOCようにAOPは世界に対してヨーロッパの食品を守る働きをして、例えばイタリアのパルメザンチーズがこれに指定されています。…

驚く程美味しいものに出会った時、何かが自分の中を駆け抜けていくのを感じたことはないだろうか。感動的な味わいに触発されて、思ってもいなかったイメージや言葉が突然流れ出してくる。もちろんそんな経験は滅多にできるものではない。 けれどもパトリック・ボードアン氏の貴腐ワインを口に含んだ瞬間に、イメージが頭の中を駆け抜けた。ロワールの古城の傍らで戯れる美しい貴族の女性達。さわやかな木陰で仲間とはしゃぎあっている・・・ ドメーヌ・パトリック・ボードアンはロワール地方のアンジュー地区にあり、辛口の赤、白ワインと甘口の貴腐ワインを生産。パトリック氏は2005年から有機栽培を実践し、ロワールではこだわりの人物として知られている。訪れた午前中は一帯が激しい霧に覆われており、100メートル先は何も見えない。「朝の霧はこの地の大切なミクロ・クリマです。霧と湿気があるお陰で貴腐菌が育まれるわけです。とはいえ、貴腐菌はリスクでもあり、辛口用の白ブドウにはいい効果をもたらしません。全てのバランスがうまく整った時、素晴らしいワインができますが、湿度が高いだけだとまずくなってしまいます。だから最高ランクの貴腐ワイン、キャール・ド・ショームは1樽しか造らなかったり、悪天候だった2011年は造ること自体を諦めました。」 貴腐ワインは造るのが難しい。自然発生する貴腐菌がブドウの皮に付着した後、凝縮されて糖度が高くなったブドウを搾り、黄金色のワインが造られる。とはいえ、自然にまかせただけでは十分な糖度が得られず、人工的に糖分を加える生産者もいる。そんな中、パトリック氏は一貫して補糖しないという立場を守る。「ロワールではあと1年間、補糖する権利が法律で認められています。でも消費者の多くは補糖が認められているなんて知らずにワインを買うのです。合法的だとはいえ、貴腐ワインのコンセプトとして消費者を裏切っているようで、補糖したくないんですよ。」補糖するくらいなら造らない。いいものができなかったら諦める。計14ヘクタールという小規模生産で、良くなかったら造らないという選択は生易しいものではないはずだ。周りが何と言おうと自分のこだわりを貫き通すパトリック氏は、どの流派とも一線を画している。「有機栽培で、できるだけ自然なものにしているとはいえワインは文化でもあります。ワインとともに食卓を囲む人間の文化であり、長い歴史ある農業の文化です。何もかも自然にまかせる「ヴァン・ナチュレル」というワイン造りの潮流もありますが、何千本ものブドウを植えるワイン造りという行為自体がすでに「自然のまま」とはいえません。私は酵母は加えず酸化防止剤も最小限におさえた上で、テロワールの味をしっかりと表現できるワインを造りたいと思っています。」 …

 ドメーヌ・ボリー・ラ・ヴィタレルのブドウ畑は森の中に存在する。四方を森に囲まれたこの醸造所は他とは随分様子が 違う。鳥のさえずり、樹々のざわめき、森の中にこつぜんと現れる小さな醸造所。そのすぐ横にはデッキチェアがプールサイドに並んでいる。あたりを一目見た ただけで、心地よい暮らしがあるのがすぐわかる。 オーナーのジャン=フランソワさんはビオワインで知られる人物。98年から有機栽培を始め、もう15年程になる。「ブドウ畑は全部で19ヘクタール。まわ りの山も合わせると60ヘクタールにもなります。このあたりはとても環境がよく、まわりに化学肥料を使う生産者は誰もいません。僕が造りたいのはテロワー…

ラングドック地方には地中海沿いに美しい干潟が広がる一帯がある。干潟のすぐ近くにあるペリヤック・ド・メールという小さな街の、商店が並ぶ一画からブ ドウの醗酵の香りが漂ってくる。街のど真ん中にある醸造所、クロ・ペルデュはビオ・ディナミで知られるドメーヌ。オーナーのユーゴ・スチュワートさんがイ ギリス人ということもあり、ここでは英語が飛び交っている。両腕が紫色に染まった元気な若者達。大きめのガレージのような空間に、人の背丈ほどの小ぶりの タンクが処狭しと並んでいる。醸造所、というよりも、どことなくNPOやアトリエを思わせるような雰囲気だ。 ユーゴさんがビオディナミという特別な栽培法でワイン生産を始めたのは2003年からだった。ビオディナミというのは有機栽培なだけでなく、シュタイ…

この畑はいい匂いがする。あちこちにハーブが茂り、タイムの香りが漂っている。ブドウ畑のはずなのに、鳥や虫の鳴き声が聞響き渡り、山の中に居るような心 地よい風が吹く。ドメーン・ドゥ・ラ・プローズはベルトランさんの父親が始めたドメーン。1995年からベルトランさんがワイン造りに参加し、2004年 からはビオワインを生産している。「僕がビオを始めたのは情熱でもあるし、エゴイストでもあったから。どうせ造るなら美しいものがいいと思うし、それに化 学薬品を使うのが嫌だったんだ。病気になりたくなかったからね。」2年間ボルドーでワイン造りに関わっていたというベルトランさんは、10日ごとに農薬散 布する姿を疑問に思っていた。「それにここだと事務所の中でプログラムを組むんじゃなくて、ちゃんと畑仕事ができますからね。」…