Browsing: サンテミリオン

ボルドー、サン・テミリオンのビニョーブル・ジャドが所有する、シャトー・フルール・ド・リッスの扉を開けると 、目に飛び込むのは開放的な空間に整然と並んだワインの本と、その奥の棚にずらりと並ぶワインの瓶だ。その反対側には美しいブドウ畑が広がっている。 キャロリーヌ・テシュネさんが社長を務めるビニョーブル・ジャドは、1837年から続く家族経営のワイン生産者。家族経営といっても、単なる小規模生産者ではなく、ここには隅から隅までキャロリーヌさんのこだわりが詰まる。ビニョーブル・ジャドはボルドー右岸のサン・テミリオンに合計32haを所有し、2016年から有機栽培とビオ・ディナミでブドウを育てている。 黒ブドウのカベルネ・フランが育つブドウ畑に行くと、ブドウの樹の間には下草が生えている。80年代のボルドーでは下草を生やすのはもっての他だったが、今日では栄養になるとして重宝されている。ビオ・ディナミでは月の暦を大事にしており、それに合わせてカモミールなどを使った肥料を撒く。また、フランスのワイン産地でよく目にするオレンジ色の「コンフュージョン・セクシャル」も活躍中。これはカプセルが蝶のフェロモンを発し、蝶を混乱させることで、ブドウに卵を産ませないようにするものだ。 ビニョーブル・ジャドは家族経営とはいえ、並々ならぬこだわりがあり、収穫後にはブドウを2日間冷やしてから発酵させる。皮についている埃を冷たくすることで取り除き、8日ほどかけてゆっくりと発酵させるのだ。…

5月21日、東京のホテルオークラにてボルドー、サン・テミリオンの格付けシャトーが集まるサン・テミリオン・グラン・クリュ・クラッセワイン試飲会が開催された。会場には18のブースがあり、業界関係者たちが生産者と会話しながら、真剣な表情でグラスを傾けていた。今回試飲が行われたのは2008年と2010年のヴィンテージ。数ある中で特に印象深かった3シャトーを紹介したい。 シャトー・ダッソーの2008年は香り高く、口当たりがフレッシュで、しっかりしたボディとエレガントさを合わせ持っている。シャトー・ダッソーはサンテミリオンに24ヘクタールをもつシャトー。こちらはブドウ収穫は全て手摘みで14~15ヶ月間樽熟成をさせている。新樽の比率は85%。「瓶詰めする直前まで、畑の区画や品種ごとに別れて熟成させることで、細かい味わいに最後までこだわれるのよ。」と生産者のローランスさん。品種はメルロー65%、カベルネ・フラン30%、カベルネ・ソーヴィニヨン5%。プランタン銀座や楽天などで手に入る。こちらのシャトーが所有しているシャトー・フォーリー・ドゥ・スシャールの2008年は、口当たりがスッキリ、フレッシュなのが特徴的。タンニンはしっかりしているのにさわやかで飲みやすい。 さわやかな水色のラベルがひときわ印象的なシャトー・フォジェールの2008年は口に含むと味わいが口一杯に広がっていく。口当たりがやわらかく、甘みを感じるが、タンニンも豊かで後味はしっかり。サン・テミリオンらしいワインが並ぶ会場内で、ハッとさせる味わいのあるワイン。こちらは37ヘクタールとサン・テミリオンでは大規模だが、ブドウ栽培に非常に気を使い、農薬や化学物質を使わずに育てているという。ビオとしての認定は受けていないものの、環境マネンジメントシステムの国際規格、ISO14001を取得しており、厳しい環境基準の中でブドウを育てている。ブドウは全て手摘みで、最先端の機械を使用してブドウを選別し、樽醗酵も行っている。2008年の品種はメルロー85%、カベルネ・フラン10%、カベルネ・ソーヴィニヨン5%。楽天などインターネットサイトで入手可能。 18あるブースの中で一番最後に位置していたシャトー・ヴィルモリーヌは7ヘクタールという小さなシャトー。こちらの2010年のワインはグラスに注がれた瞬間から熟れた果実の香りが豊かに広がる。女性的な柔らかさを感じさせるワインで、口の中で様々な味わいが穏やかに変化していく。品種はメルロー95%、カベルネ・フラン5%。2008年のワインは12000本のみと小規模生産だったため、フランスにもう6本しか残っていないという。フランスでは1本約45ユーロ。日本では銀座のレストラン、ベルジュにて味わえる。…

サン・テミリオンがフランスのワイン産地として初めて世界遺産として登録されたのは1999年のこと。今年1月、フランス政府はブルゴーニュのブドウ畑と丘陵地帯、シャンパーニュのメゾンやカーヴをユネスコの世界文化遺産リストの候補地として挙げた。フランス文化省はこの2地域はユネスコの世界遺産委員会によって2015年に審査予定だと述べている。「ディジョンの街とボーヌ(コート・ドール)の街と縁の深いブルゴーニュのブドウ畑のクリマは、特徴的なクロや建造物とともに文化遺産の候補地となるだろう」と文化省。 ブルゴーニュのブドウ畑は沢山のリューディや多様性に富んだ日照条件や土壌の異なる区画が特徴的で、それらがブドウ品種の個性を引き出し、ブルゴーニュワインの国際的評価を高めている。低い壁で区切られたリューディや畑の小区画はクリマと呼ばれる。 シャンパーニュの丘陵地帯やメゾン、シャンパーニュを生産している村々、醸造所や地下カーヴの数々は文化遺産の中の文化的景観というカテゴリーの候補地となるだろう。

シャトー・トロロン・モンドはサン・テミリオンの小高い丘の頂にそびえ立っている。グラン・クリュ・クラッセ(特別級)として格付けされたトロロン・モンドはサン・テミリオンでも一番大きなシャトーの1つで計33ヘクタールを所有。品質向上の目覚ましいシャトーとしても有名だ。シャトーのすぐ隣にあり、サン・テミリオンの街を見下ろす斜面は日当りも水はけも抜群に良く、糖分の凝縮したメルローがすくすく育つ。シャトーの隣にはサン・テミリオンでも名高いレストラン「レ・ベル・ペルドリ」がある。ここではブドウ畑を見下ろすテラス席や豪華なインテリアが目をひく店内で、採れたての野菜を使った料理が味わえる。シャンブル・ドットも併設されたこちらのシャトーはさながらサン・テミリオンの贅沢な観光拠点のよう。モダンで洗練されているのはなにもレストランや外観だけではない。醸造所に足を踏み入れるとピカピカに磨き込まれたステンレスタンクが並ぶ。その奥ではブドウの選果が始まっている。ブドウは機械と何人もの人手を使って選りすぐりの粒だけ使用。 トロロン・モンドでは樽醗酵も行っている。「この樽を使い始めて今年で5年目となります。中には水が通る管が入っていて、温度を一定に保てるようになっています。樽の上は開閉可能になっていてガスを逃がすことができます。手でピジャージュもできるんです。この樽のいい点は少量ずつ分けて醗酵できるから、畑ごとに醗酵させやすい点ですね。」と醸造長。600リットルのこの樽は1つ20万円以上するといい、裕福なシャトーが多いサン・テミリオンの中でも特に恵まれたトロロン・モンドだからこその選択ともいえる。熟成はもちろん樽熟成。しんと深く眠りこけたような樽が並ぶ貯蔵庫の電灯をオンにすると、ロウソクの火のような薄明かりがぼうっと灯る。樽に入ったワインは美しく整然と奥まで並ぶ。2012年の樽は瓶詰めされていない状態で全て購入済だという。トロロン・モンドでは昔からネゴシアンを通して販売しており、広報担当のミリアムさんは「ネゴシアンのいい点は、彼らのお陰で私たちはワイン造りに集中できるということです。自分たちで売ろうとするとワイン造りとは全く別の仕事ができますからね。」と語る。試飲したトロロン・モンド2006は鼻の奥まで熟した黒果実の香りが漂ってくる。甘さを感じ、わりと軽やかで心地よい余韻が長く続く。こちらはメルロー90%、カベルネ・ソービニヨン5%、カベルネ・フラン5%。日本でもエノテカや三国ワイン、ネット通販などで手に入る。 レストランのランチは35ユーロ〜。予約をしないと入りづらいという人気のお店でサン・テミリオン気分を満喫してみては。ブドウ畑のすぐ隣にある優雅なシャンブル・ドットは1泊160ユーロ〜。

サン・テミリオンの市街地から少し車を走らせるとクロ・デ・ジャコバンに到着する。目の前には平地となだらかな丘が広がり、夕焼けにそまったブドウ畑が見事に美しい。 優しい笑顔で迎えてくれるティエボーさんは、2004年からこちらのシャトーを所有。もともとサン・テミリオンのグラン・クリュとして格付けされていたこのシャトーを見事にその名にふさわしいものに立て直したティエボーさん夫妻。二人はブドウ畑に面したお家でわんぱくな子供達を育てながら、いつでもワインとブドウのことを考えている。 2004年に父親とともにシャトーを購入したティエボーさんはもともとは商業を学んでいたという。「でも昔から自然が好きで、もっと土に触れていたかったんです。僕みたいに農業が好きで、食に興味があり、ワインも好きな人間にとって、最高にうまく結びついたのがワイン生産者という仕事なんですよ。」6ヘクタールの畑を自ら手入れし、ワインの品質を向上させ、センスの光る食卓でワインを楽しみ、商業の勉強も活かせるという仕事は彼にうってつけだった。「それにサン・テミリオンはポストカードのように美しいでしょう」と目をキラキラさせて語るティエボーさん。彼の生き様は、まさに夢が実現したらこうなるというのを示しているようだ。 とはいえワインの仕事には心配がつきものだ。ブドウづくりは天候に左右され、夫妻は雷が遠くで光る度に空を見上げ、心配そうに眺めている。一番熟成度合いが素晴らしいはずの収穫日を決めたものの、雨やあられにやられてしまうと元も子もなくなってしまう。とはいえ焦って収穫すると味はぶれてしまうだろう。我慢か、それとも動いてしまうのか。稲妻が遠くで光っても「もう決めたんだから」と腹をくくってみるしかない。シャトー暮らしは夢のようだがお金もかかる。所有者になってから醸造所に大きな木製のタンクを新設するなど、初期投資も相当なものだった。「シャトーを買ってなんとか収支のバランスがとれるようになるには10年かると言われます。」それでも一歩ずつ、着実に上を向き、素晴らしいものを生み出していく。そんな姿勢が二人の丁寧な暮らしぶりから伝わってくる。…