
マルトゥリス、ラット・モールやシャ・ノワールはじめ、モンマルトルのカフェでは、このモダンで刺激的な飲物は印象派 のドガやマネ、ゴッホ、ゴーギャンたちの気を動転させる、かつ魅惑していった。ゴーギャンは叫ぶことはしなかった。「私はドアのところに腰を掛け、煙草を くゆらし、アプサンをちびちび飲みながら、残りの世界を気にかけることもなく日々を尊重している。」画家達は皆、彼に何枚かの絵を捧げた。
ニコール・キッドマンが演じている映画、ムーラン・ルージュの世界は現実からほど 遠いものではない。モンマルトルにいたトゥルーズ・ロートレックは1889年に、若い娘達の顔を赤らめるカクテル、「サヴァン・メランジュ」を開発した。 これは爆発的なアプサン、マンダリン、赤ワイン、極上のブランデーとシャンパンでつくったカクテルである。
アプサンは同様に、オスカー・ワイルドやランボー、ボードレール、ジェームス・ ジョイス、ヘミングウェイ、エドガー・ポーなど青い目の小説家たちに霊感を与える存在となった。オスカー・ワイルドは、アプサンのことを「ザ・グリーン・ フェアリー」、つまり緑の妖精と命名し、「アプサンは物事を忘れさせてくれるが、その後頭痛の報いも受けることになる。1杯目のアプサンは、物事を見たい ように見させてくれる。2杯目ではそれがありえない様子で示される。3杯目以降になると、それを真の姿で見ることができる。」と証言している。

カフェやビストロ、キャバレーの発展とともに、アプサンは非常に早く大衆化され、アプサンの値段がワインよりも安くなった1880年には国民的飲料になった。
しかし、アプサンに含まれているティヨンヌが、感覚を興奮させ、精神錯乱を引き起こすと言われはじめた。こうしてアプ サンは19世紀末の労働者階級の人々のアルコール中毒の主な原因として責め立てられることになる。そしてこの飲物は1915年には製造と販売が禁止された のである。
1988年からは、ティヨンヌの使用を10%以下にしたアプサンベースのスピリッツの製造が認められた。今日ではアプサンがパリのいくつかのカフェで、再び姿を現している。





