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サン・ジョセフは丘陵の傾斜のきつさで有名だが、ドメーヌ・クルビスの畑は圧巻という他ない。車で山の奥側へと進んで行くと突然、世界遺産かと見紛うような光景が現れる。急斜面の丘陵に、2つの枝が合体したブドウの樹々が見渡す限り連なっている。この姿を眺めていると、ワインというのはまさに人間と自然が共に作り上げた文化だというのを思わずにはいられない。広大な自然の中に位置するが、野生のままの姿ではなく、人が手をかけてはじめて素晴らしいテロワールとワインが出来上がるのだ。 ドメーヌ・クルビスは16世紀からの畑を持つワイン生産者。昔は様々な果樹を栽培していたが、60年代から本格的にワインの道を進めていき、今ではサン・ジョセフとコルナスに35haの畑を所有する。「基本的にはビオに近い栽培方法をとっています。でも全ての畑に傾斜があり、急すぎるところはそこまで行き着かないことも」とローラン・クルビスさん。傾斜がゆるければ小型トラクターを使えるが、傾斜がきついと馬すら使えないという。実際に畑に足を踏み入れると、何かにつかまらないと滑り落ちそうなほど。「ここでの作業は収穫以外も全て人力。大変とはいえ、日当たり抜群で水はけが良いのが特徴の素晴らしい畑です。雨が降っても水分がうまく下に流れてくれるため、ブドウの樹が余分な水分を吸い上げないのです。土壌に水分が多くなると、ブドウの実が膨張して糖分の割合が下がってしまい、皮も破れやすくなり、カビもつきやすくなるんです。」収穫前のシラーを口に含むと糖分がギュギュッと凝縮しているのがわかる。「でもまだ皮が固いから、もう少し柔らかくなるまで収穫は待たないと。」 丘陵地で35haもの畑を維持するのは簡単ではないとはいえ、ローランさんがこの道に進むのはごく自然なことだった。「小さい時からこの環境に馴染んでましたし、祖父母がやってきた偉業をバトンタッチするような感覚です。自分のテロワールへの愛着もあるし、この自然の真ん中で素晴らしい景色を味わえる。ワイン生産者というのは人を豊かにする仕事だと思います。それに私は醸造の仕事の方が多いんですが、畑に行くのはちょっとした気分転換にもなるんです。」まさに山奥、といった表現がふさわしいローランさんの畑では鳥たちが鳴き、心地よい風が吹きぬける。収穫を待つ白ブドウのマルサンヌはキラキラと黄金色に輝いており、樹齢80歳を超えるものも。 マルサンヌ98%、ルーサンヌ2%の白ワイン、「Saint Joseph…

フランス第2の規模を誇るAOCワイン産地、コート・デュ・ローヌはリヨンの南からアヴィニヨンまで、南北に約250㎞渡って広がっている。ローヌ川はリヨンの市街地を横切り、マルセイユの西で地中海に注ぐ広大な河川。この地でのワイン造りは、マルセイユがローマ帝国の植民地だった紀元前600年から始まり、北部でも1世紀にはワイン造りが始まった。 ローヌ川沿いに広がる産地は北部と南部に大別され、それぞれ8つのクリュ(特に秀でたAOCワイン産地)が存在する。「セプタントリオナル」と呼ばれる北部は、リヨンの南、ヴィエンヌ付近から始まり、ローヌ川沿いに「コート・ロティ」、「コンドリュー」、「サン・ジョセフ」「エルミタージュ」などの高名なワイン産地が続く。これら偉大なワインは赤の場合はシラー、白はヴィオニエやマルサンヌ、ルーサンヌという品種を使用。赤はもっぱらシラーといっても、AOCやテロワールごとに味わいは多様な表情を見せ、力強さだけでなく、うっとりするようなエレガントさを兼ね備えており、鴨や子羊、ジビエに至るまで、さまざまな肉料理と見事に調和する。北部のブドウ畑は立つのもやっとという急勾配のローヌ渓谷に段々に広がり、機械の使用が難しく、収穫はもちろんほとんどの作業が人力となる。そのため収穫量も限られ、値段も1本15€を超えることが多くなるが値段以上の深い味わいを楽しむことができるだろう。パリのほとんどのスーパーやワインショップでは「クロズ・エルミタージュ」や「サンジョセフ」など、北部のワインも扱っている。 一方、南部のアヴィニヨン周辺には、AOC「コート・デュ・ローヌ」や「コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ」が広がっている。こちらは主にカフェやビストロで気軽に楽しむタイプの若くてフルーティなワイン。リーズナブルで味わいが良く、パリのビストロで昔から愛されている。近年では特にカフェ、レストラン業界でローヌの赤ワインの需要が高まり、AOC「ボルドー」に続いてAOC「コート・デュ・ローヌ」は2位の地位を占め、約70%の店のワインリストに掲載されるほど。 とはいえ南部にも「ジゴンダス」、「ヴァケイラス」のようなクリュもある。特に有名なのは「シャトー・ヌフ・ド・パプ」で、1309年から1418年までアヴィニヨンに移住していたローマ法王の名にちなみ、「シャトー・ヌフ・ド・パプ(法王の新しい城)」という名になった。この地のワインラベルに天国の守護聖、サン・ピエールの鍵と教皇の紋章が描かれているのはそうした歴史的経緯によるものだ。「シャトー・ヌフ・ド・パプ」はパワフルでスパイシーさを感じるワインで、日本の百貨店のワイン売り場でも大抵は扱っている。 コート・デュ・ローヌでは、南に下っていくほど、シラーに加えて黒ブドウのグルナッシュやモルベードルが一緒に使われるようになる。「GSM」と呼ばれる、グルナッシュ、シラー、モルベードルの組み合わせはあまりに成功したため、オーストラリアでも再現されている。ローヌでは画一性を好まない生産者にも選択肢が多くあり、優しい味わいのサンソーやクノワーズはじめ、約20品種の使用がAOCで認められている。そのため、コート・デュ・ローヌは幅広いスタイルをもったワインとなり、愛好者に好まれている。また、ローヌの白は全生産量の7%とはいえ、繊細で複雑な味わいがあり、高級フランス料理に合わせるのに優れたワインとして重宝されている。…