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ファッフェンファイムに到着し、数多くのワインを試飲した後、強く疑問に思ったことがある。どうしたらこんなにも洗練されたワインばかりを造ることができるのだろう? どれもこれも、まさに美しいという言葉がピッタリと当てはまる。アルザスのワインとはこんなにもエレガントで繊細なものだったのか?日本でこのうちの1つにでも出会っていたなら、アルザスワインに対する印象が大きく変わっていただろう。 ファッフェンファイムはアルザス地方、ファッフェンファイムという地域のコーペラティブだ。コーペラティブというと質はどうかと思いがちだが、こちらのワインはどれをとっても驚く程に美しい。アルザス地方では基本的に白ブドウの単一品種でワインを造る。リースリングという品種で造った「Riesling Traditionトラディッション2012」の青リンゴ、白い花、りんごの蜜のような香り、ゲヴェルツトラミネールで造った「Gewurztraminer Cuvée…

シュミット・キャレールのブドウは背が高く、畑に足を踏み入れると緑に包み込まれるかのようだ。朝露が残る土の上にはチョウがひらりと舞っている。畑には早朝から15人程が集まり、白ブドウのリースリングを収穫中。薄緑の小さな粒を口に含むと、凝縮された甘酸っぱい味わいが口一杯にサッと広がる。冗談を言い合いながら収穫する人の中には、ベルギーから休暇をとって参加する親子の姿も。シュミット・キャレールは、深い温かみのあるビオワイン生産者。ロランさん夫妻と娘さんを中心とした、小ぶりだけれど味わい強いドメーヌだ。 2012年からビオとして認定され、土の香りがふわっと漂う畑にはタンポポや雑草が生えている。ロランさんはビオに移行した理由をこう語る。「僕や家族にとって、ビオは自然なことでした。アルザスでは悪いものが土に染み込みやすいし、子供や次世代にいいものを残したかった。化学肥料を作り、薬品を作り、ロビーイングしてっていうサイクルで、毒まみれになるのをもうやめたいなって。」彼はもともとワイン畑出身ではないが、アルザスにブドウ畑をもつ奥さんと出会い、ワイン造りに関わるように。三人の娘が育ち、今では次女のアンヌ・セシルさんが右腕として働いている。「私にとってワインの仕事は小さい頃から当然そうなるといったもの。父は何度も『本当にいいのか?大変な仕事だぞ?』って、今ですら私に聞くんです。でも今更他に何したらいいのよ」と笑う。今の仕事が本当に幸せなのと語る、情熱的なセシルさん。まさに地に足がついた仕事をしている彼女はとても25歳とは思えない知識とやる気に満ちている。「親子で醗酵方法などで意見が異なることもあります。でも二人ともまだまだ学ぶことだらけ。ワイン造りは一生学ばないといけません。」とロランさん。今年は圧搾後に産業廃棄物となり、蒸留所に運ばれる大量のブドウの房や葉をコンポストとして利用する計画をたてている。「自分の畑で採れたんだから自分の畑に戻したっていいでしょう?でもフランスではやたらと手続きが面倒でね!」と嘆きながらも計15トンになる茎や房を畑に戻そうと奮闘中。 手で収穫されたブドウは小ロットごとに醸造され、合計30近くの種類を生産。基本的に品種のブレンドはしない。醸造所には小ぶりのステンレスタンクが並び、その上から豊富な水が流れている。「これは醗酵温度を保つための仕組みです。14~15℃になるように、醸造所の裏にある川から水をポンプでひくんです。使った水はちょっとだけ温度が高くなるけど、またその川に戻るんですよ。」と、ここでもしっかりリサイクル。ロランさんはビオに対して強い思い入れはあるものの、現在フランスで注目されている「ヴァン・ナチュール」には抵抗がある。「うちがビオにしたのはより素晴らしい品質を手にいれるため。ビオには細かい規定書があり、少量の酸化防止剤の使用が許可されています。自然食品店などで流行っているヴァン・ナチュールは酸化防止剤無添加といいますが、私たちにとって、ワインを安定させ、酢にさせないためには酸化防止剤は必要不可欠。もちろん出来る限り量は減らしています。素晴らしいワイン造りにはブドウ畑も大切ですが、今の技術、特に醸造技術は重要だと思います。 家庭的なあたたかさのある試飲室にはデンマークからやってきた賑やかな一行も。輸入業者の方がここに惚れ込み、毎年デンマーク人を連れてやって来るという。美味しいワインを通して気付けば隣人と会話している。やがてその人が収穫の手伝いにやって来る。そうして口コミで根強いファンが増えるのは、ロランさん家族のあたたかさだけでなく、やはりワインの味わいあってこそ。シュミット・キャレールのワインはどれも非常に味わい深い。凝縮して味わいのギュッとつまったブドウからできるワインはやはり違うと思わせる。 Vin…

アルザスはフランスの北東部でドイツと国境を接する地方。歴史的に豊かな鉱物資源を求めてフランスとドイツとの戦いが続き、あるときはフランス領、あるときはドイツ領となっていた。伝統的な家屋の造りは赤、黄、青など色とりどりの外壁と、それを縦横に支える焦げ茶色の太い柱が特徴的で、家の外にはふんだんに赤い花が飾られている。 おとぎ話から出てきたような可愛らしい街並の背景をよく見るとブドウ畑が広がっている。アルザスはフランス屈指の白ワインの産地として有名で、ヴォージュ山脈の丘陵地を約100キロに渡り、ブドウ畑が続いている。フランスで一番降雨量の少ない産地としても知られ、それゆえビオ(有機栽培)ワインの生産量はラングドック地方に続いてフランス第2位。アルザスワインの特徴は白ワインがメインなこと、基本的に単一品種で造られており、品種名をラベルに記載すること、それからワインの瓶がフルート型で、縦に細長いことが挙げられる。 アルザスワインの良さは何と言っても日本の食との合わせやすさ。ボルドーやコート・ド・ローヌの赤ワインと異なり、ワインのためにメニューをあれこれ考える必要もなく、普段の食事にさらっと馴染む。AOCアルザスで使用が許可されている7つの品種の中で、特に有名なのはリースリングでキリッとした酸が特徴的だ。日本の大抵のワインショップではアルザスのリースリングが1本は置かれている。とはいえ何もアルザスはリースリングだけに限らないし、リースリングも酸が特徴的なものだけとは限らない。アルザスにはよりレベルの高いワインを生み出す「グラン・クリュ」という特級畑が51カ所存在している。「グラン・クリュ」のリースリングは味わいもより豊かで丸みをおびて、特別な日の料理と合わせるのにもってこい。ほんのり香ばしい香りが特徴的なピノ・グリは和食にも軽めのフレンチにも合わせやすく、是非おすすめしたい品種の1つ。華やかでエキゾチックなアロマが特徴的なゲヴェルツトラミネールは、エスニックな料理や揚げ物にも向いている。 アルザスで伝統的に造られてきた瓶内二次醗酵のスパークリングワイン、「クレマン・ダルザス」は、フランスの発泡酒市場においてシャンパーニュについで第2位の売上高を誇る。「クレマン・ダルザス」は日本ではあまり馴染みがないものの、キリッとしたシャープな酸が喉の乾きを癒し、心地よい気分にしてくれる。コストパフォーマンスが高く、品質の優れたものが多いので、見つけたら是非一度試してみてほしい。フランスでは簡単に手に入るので、ちょっと贅沢気分を味わいたい日におすすめだ。ブドウ品種は白のクレマンではピノ・ブラン、オーセロワなどを使用。ロゼの場合はピノ・ノワール100%。…

アルザス地方のリボヴィレは、ストラスブールとコルマールの間に位置する、アルザスワインの中心地として栄えた街だ。色とりどりの花が迎える、おとぎ話のような街に到着するとすぐ、カーヴ・ド・リボヴィレの看板が目に飛び込んでくる。 街のすぐ横の醸造所からは開栓したてのシャンパーニュのような香りが漂っている。ブドウ収穫真っ最中のこの時期はトラックで次々とブドウが運び込まれ、すぐにプレスにかけられる。 カーヴ・ド・リボヴィレは、アルザス地方で最も歴史ある1895年創業のコーペラティブ。コーペラティブというのはブドウ農家が共同出資して醸造設備を購入し、各農家が収穫したブドウをまとめて醸造を行うシステム。コーペラティブはフランス全土に存在し、シャンパーニュでもメジャーなスタイルだが、消費者はコーペラティブと聞くと低く見積もりがちになる。だがカーブ・ド・リボヴィレのワインはそんな先入観を見事に覆してくれる。「うちのワインのコストパフォーマンスの高さは保証しますよ」と社長のイヴさん。2011年にアルザスの最優秀コーペラティブとして選ばれただけあり、カーブ・ド・リボヴィレのワインは味わい深く、ワインが語りかけてくる。 これからピノ・グリを収穫するというグラン・クリュ、グルットルベルグのオルリーさんの畑に向かう。ブドウ畑のある小高い丘の上からは、数々のブドウ畑と教会が見え、まさにアルザスという感じ。目の前にはピノ・グリが熟しているが、収穫は明日まで待つという。イヴさんは「カーブ・ド・リボヴィレのブドウの収穫はこのあたりで一番最後。酸と糖分が素晴らしいバランスになるギリギリのところまで待って収穫するんです」と語る。素晴らしいワインを造るには最高の状態のブドウを収穫することが欠かせない。生産者の頭を悩ませるのは、いつ、どのタイミングで収穫するか。もし待った日に雨が降ったら?オルリーさんはタイミングをどう計るのか教えてくれる。「こうやって畑のブドウを前後左右、適当にいくつか摘んで、容器に入れて潰します。それから器具に液を入れて濃度を計ります。どう、数値が見えるでしょう?アルコール度数が11,5℃以上になったら収穫可能なんですよ。」小雨の降る中、明日収穫する人がやりやすいように、とオルリーさんはブドウの房にかかる葉を黙々とカットし続ける。…

アルザス地方はフランス北東部、ドイツと国境を接する地方で現在でもドイツの影響が色濃く残る。おとぎ話に出てくるような色とりどりの可愛い街並、ヴォージュ山麓の溢れる緑、美味しい食事にワイン、それにビール産地としても有名だ。 魅力に事欠かないこの地方はパリに次いで2番目に多くの観光客が訪れる。これからの季節、クリスマス・マーケットといえばアルザスなので、12月に渡仏するなら是非足を伸ばしてみてほしい。アルザスには日本人も多く訪れ、今では年間4万5千人が滞在するという。 アルザスと日本との関わりは意外と深く、1863年にまでさかのぼる。鎖国後、大阪の商人達がアルザスの都市、ミュールーズで生産される羊毛生地に和柄を染色してもらうよう依頼しに行ったのが始まりだ。今年は交流150周年を記念して、アルザスと日本で様々なイベントが開催された。11月中旬にはヒルトン東京ベイにて「ボナペティ・アルザス・グルメナイト」が開催され、アルザス出身の総料理長と、来日したシェフ達が本場のアルザス料理をふるまった。また、今年はアルザスワイン街道と飛騨地酒ツーリズム協会との友好提携宣言や、コルマール市と高山市との経済・観光協力協定書などの経済協定も調印された。11月18日には東京で「アルザスと日本 深まるパートナーシップ」という記者発表会が開催され、アルザス人国際連盟の東京支部も設立された。今後アルザスと日本の結びつきはより一層深まることだろう。 アルザスはミシュランの星を獲得したシェフがパリに次いで2番目に多い地方でもあるという。アルザス料理というとボリューム満点の肉料理というイメージだが、実際には美しく繊細な料理を提供する店が多くあり、洗練されたもてなしのホテル業も盛んだそう。名物としては有名なシュークルートだけでなく、タマネギとベーコン、フロマージュブランをのせたピザのようなタルト・フランベ、豚のリエット、シャルクトリ、それにフォアグラ、クグロフなどが挙げられる。記者発表会ではアルザス名物と共にアルザスの白ワインも用意されていた。「シュークルートはワインと共に味わってこそ。リースリングやピノ・ブランを合わせるといいわ」とアルザス地方圏議会副議長のマリー=レーヌさん。確かにピノ・ブランの爽やかな酸味がシュークルートの味わいをキリッとひきしめてくれ、どちらの味もより引き立ってくる。ピノ・ブランはアルザスでは主要な品種で、リースリングより穏やかな味わいなので和食にも合わせやすい。香ばしく、ワインのみでも楽しめるピノ・グリや、珍しい5品種混醸のワイン、ローゼンエーゲルトも香り、味ともに複雑で非常に味わい深い。寒い季節こそシュークルートの美味しい季節。凍えそうになっていても、食べたら身体がぽかぽかになるこのメニューを見かけたら、アルザスワインとのマリアージュに是非挑戦してみてほしい。パリのブラッセリーでもアルザス料理が堪能できる。