Browsing: espresso

12月10日〜11日、東京、港区にて「国際カフェテイスティング競技会」日本大会が開催された。会場の扉を開けるとすぐにコーヒー豆の香りに包まれる。会場には真剣な表情でカップを手にするカフェ・テイスターたち。この大会は、世界中から送られてくるコーヒー豆を、ブラインドテイスティングして評価していくというもので、年に一度開催される世界大会だ。金賞に選ばれたロースターはイタリアに本部がある国際カフェティスティング協会(IIAC)によるディプロマが与えられ、金賞のロゴを使用できるようになる。 日本語だけでなくイタリア語や中国語、韓国語などが飛び交う会場にいるのはIIACの認定を受けた30名のカフェ・テイスターたち。半分は日本人で、半分は韓国、中国、台湾から来ているという。使用する言語は異なるとはいえ、同じ認定を受けた彼らは、ネット上のテイスティングシートを使って、各ドリンクの香りや味わいを数字で評価していく。ポイントとなる観点はワインと共通点が多く、外観の色の濃さ、香りの強さや豊かさ、ボディ、酸味、苦味や香りなどについての評価である。対象となった豆は、抽出方法別にカテゴリーが分かれており、エスプレッソ用、フィルターコーヒー用、カプセルコーヒー用など様々だ。隣の部屋では熟練したバリスタ達が、同じクオリティのものを均等に出せるよう、念入りにエスプレッをを抽出する。 今回出品されたサンプルは11カ国から合計289点で、日本のロースターも5社金賞を受賞した。フィルターもしくは類似方法部門で金賞を受賞したのは、東京都のビーンズショップ珈琲楽座の「AJIWAI BLEND」、兵庫県の成田珈琲の「AMAREZZA FELICE…

東京の街角で美味しいエスプレッソに出会うのは至難の技だ。イタリアでエスプレッソに開眼し、日本でも同じ喜びを味わおうと思った途端、なぜこのささやかな願いを満たすのがこんなにも困難なのかという疑問にぶちあたる。イタリア製のマシーンは至る所に存在し、今時カプチーノが飲めないカフェのほうが珍しい。昔からコーヒーのうんちくを語る人も多く、カフェのガイドブックは毎年何冊も出版されている。それなのに、なぜ心から美味しいと思えるエスプレッソに出会うことがこうも難しいのだろう? 10月9日にACCI GUSTOで開催された、国際カフェテイスティング協会日本による「イタリアの遺産・エスプレッソ」セミナーは、長年のこうした疑問を解決してくれた。一言で言えば、エスプレッソは簡単そうに見えて非常に奥が深いということだ。イタリアで誕生したエスプレッソの文化を担うには熟練した技術と深い知識が必要であり、きちんとした基盤があってこそ、一杯で人を幸福にさせる味が作り出せるというわけだ。 イタリアで発足した国際カフェテイスティング協会(IIAC)は、イタリアのエスプレッソを検証し、定義すること、そしてエスプレッソをきちんと抽出できる人の人材育成を目的として創られた協会だ。IIACによれば、エスプレッソ・イタリアーノの特徴は主に2つあり、1つ目は豆をブレンドすることである。ここ数年、日本でもスペシャリティ・コーヒーやサード・ウェーブの影響で、コーヒー豆も、ブルゴーニュワインのように、単一品種、単一の産地のものをシングル・オリジンで飲むことが流行し、それこそがよいという風潮がある。そんな中でも、エスプレッソの本場、イタリアは、豆をブレンドすることにこだわり続けているという。数々のブドウ品種をアッサンブラージュさせ、ブレンドによる絶妙な味わい深さを作り出すボルドーワイン同様に、イタリアのエスプレッソにもブレンドの美学が貫かれているからだ。実は、イタリアでも150年前までは単一品種の豆を使用していたのだが、シングルオリジンでは複雑な味わいや余韻がどうしても生み出せないとわかり、ブレンドの伝統が生まれていったのだという。ヴァイオリンやチェンバロ、チェロなどの音が美しく重なり合うことで絶妙な深みが生まれる交響曲のように、ブレンドには様々な味わいの良さを引き立てあってバランスをとるという美学がある。イタリアでは世界的に評価の高いアラビカ種だけでなく、ボディ感のしっかりしたロブスタ種も使用するという。「日本ではロブスタ種というと缶コーヒーに使われる質の低い豆というイメージがありますが、素晴らしい品質のロブスタは質の低いアラビカよりもよほど優れているのです」とIIAC理事の横山千尋さん。アラビカ種の余韻、抑揚に、ロブスタ種のビターさ、パンチがあることで、特徴あるブレンドになるという。イタリアでは基本的には5種類以上の豆をブレンドし、13種ほどブレンドするメーカーもある。 エスプレッソ・イタリアーノの2つ目の特徴は焙煎である。日本の場合イタリアン・ローストというと、一番深く焙煎したものを指すのに対し、実はイタリアでイタリアン・ローストというと浅煎りと深入りの中間程度の焙煎なのだという。焙煎において大切なのはチョコレートを思わせる香りを生み出すことである。イタリアのエスプレッソはギュッと凝縮した味わいがあるものの、意外にあっさりしており、さらりと飲めてほとんど胃もたれすることがない。日本の場合は豆を深入りしすぎ、そのために酸化も早まり、酸化した状態の豆でエスプレッソを抽出している可能性があるという。日本で経験しがちな、砂糖を入れたところでごまかしのきかないエグミやきつい酸味は、そのあたりに由来しているようである。…