Browsing: パリのビストロ

パリにカフェのテラスは山ほどあれど、緑に囲まれてのんびり過ごせるカフェはそう多くない。パリ20区、ペール・ラシェーズやナシオンからほど近い「ヴァンティエーム・アール」は、絵画のように美しいパリを 体現したビストロだ。立ち並ぶ樹々が心地よい木陰を作っているこの店が一番愛されるのは、涼を求めたくなる夏の時期。 今年の6月からディレクターに就任したシャルルさんは、パリの名門のホテル・飲食業の学校、エコール・フェリエールを卒業し、21歳という若さで経営者になった。2015年からここで働いており、以前の経営者が店を離れることになったため、店の運営を任されることになったという。 快適なテラスが多くの人に愛されている「ヴァンティエーム・アール」だが、魅力はテラスだけではない。野菜は毎日パリの卸売市場、ランジスに仕入れに行き、食事も全て店で手作り。メインの鶏肉や魚介の串刺し(ブロシュール)はプレゼンテーションがお見事だ。会話に夢中のフランス人も、ブロシュールが運ばれてくると思わず歓声を上げてしまう程。ブロシュールは野菜を中心とした2品の付け合わせが選べるが、メインといえそうな程のボリュームがあり、味わいも繊細で食が進む。 フランス随一の美食の専門学校でガストロノミーやワインの知識を身につけたシャルルさんはワインにもこだわりがあり、ビオワインやヴァン・ナチュールも多く扱う。グラスワインは5-6€とリーズナブル。 フランスのレストランはどこもボリュームが多く、日本人の胃には辛いこともあるが、この店は前菜だけでもメインだけ頼んでもよく、融通が聞くのが嬉しい。お昼のメインの日替わりメニューは13.5€、メイン+前菜、メイン+デザートのセットは15.5€、前菜+メイン+デザートのセットで18.5€。パリのビストロがどこもかしこも高い中、相当リーズナブルで、きちんと美味しいものが食べられる。夜の一人当たり平均予算は30〜40€。…

ビストロ・パピヨンの日本人シェフ、高柳好孝さんは独特の雰囲気がある。柔らかな物腰、料理や自分について淡々と語る姿勢。そこから彼の情熱を読み取るのは難しい。だが彼の料理を口に含むとなるほど、と合点がいくようだ。研ぎすまされた感性、お皿に盛られた食材たちの見事な調和。何一つ無駄なところもやりすぎなところもない。「彼は完璧主義者。休みの日だって試作しに来る程ね」とオーナーのローランさん。 33歳の若きシェフは素晴らしい経歴の持ち主だ。2007年に渡仏し、ビストロ・パピヨンの料理長になる前は3つ星レストラン、ルドワイヤンにてヤニック・アレノ氏の下で副料理長として働いていた。ヤニック・アレノ氏とはそれ以前にもオテル・ムーリスで、その後はアラン・デュカス氏とも仕事をしていた。偉大なシェフと働いて何か感銘を受けたことは?という質問に対し、彼はさらりとこう言った。「グランシェフ達と働いて、正直そこまで感銘は受けなかったです。今まで色んなシェフと働いてきたけれど、すごい衝撃を誰かから受けたかというとそうでもありません。やはりいいところもあれば悪いところもあるんだとわかりました。」彼がそう言えるのもきっと類いまれな腕と感性を持ち合わせていたからだろう。料理との付き合いは今に始まったものではない。「料理は母の影響で、昔から好きでいつも手伝いをしていました。ただ高校は進学校だったので、大学に行くのが普通な環境だったんです。浪人した時にやはり自分の好きなことをした方がよいのではと思い、調理師学校に通うことに決めたんです。」 東京のフレンチで働いた後、ワーキングホリデーで渡仏。その後有名シェフの下で働き、2015年秋にはついに自分がシェフという立場になる。「シェフとして働くのはビストロ・パピヨンが初めてです。今まではグランシェフの下でその人の料理を作ることが仕事でしたが、これからは自分のスタイルが必要です。自分のスタイルをどんな風に編み出して行くのか、僕自身それが知りたいし探しています。まずは自分が一番食べたいものを作ろうと思っています。例えばお皿の中に要素を盛り込みすぎないもの。特にガルニチュール(付け合わせ)はただ今日この野菜があるから載っけてしまえ、ではなく、どうしてこの野菜を載せるかという意味が自分の中で定まったものを使おうと思っています。鴨は血の味がするので土臭いものと合うから、ベトラーヴのグラッセを合わせる、といった具合にです。」 ビストロ・パピヨンはビオ野菜やパリ近郊で栽培される野菜、信頼できる生産者の肉や新鮮な魚、ビオワインにヴァン・ナチュレルと食材に強いこだわりがある。新鮮で上質な素材を使ったシェフの料理はどれも非常に味わい深く、お皿の上のどのガルニチュールと合わせても見事な調和を保つよう計算されている。料理とワインの素晴らしいマリアージュのように、この店のメインとガルニチュールの組み合わせもうっとりするような幸福感が味わえる。「フランスの良さは自分の使いたいフレンチの材料が身近にあって何でも試せること」とシェフ。フランスの新鮮で味わい深い食材と、繊細な感覚と高度な技術の日本人シェフをかけ合わせるとどんな答えが導かれるのか。ブーダンやマグレ・ド・カナールのようなクラシックなメニューであってもここまで繊細で味わい深くなるものか、と驚きを隠せない。 Bistro…