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ブルゴーニュ地方の州都、ディジョンは近年フランスでも注目されている人口16万人の小さな街だ。それは単にワインや美食が有名だからではなく、都市改革に成功した街として知られているからだ。ディジョン市長は20年前からより住みやすいヒューマンスケールな街を目指して改革を始め、今では中心市街地の大半が歩行者空間化され、フランスでも先端をいく街なのだ。 私が初めてディジョンを訪れた時、中世の建物に囲まれ、独特のゆったりとした雰囲気のなか、人が幸せそうに街を歩く姿に、タイムトリップしたかのような気分になった。今回訪れた際は平日の木曜の夕方だというのに人が溢れ、街角ではレベルの高い音楽の生演奏が至る所で繰り広げられ、一体何のお祭りなのかと思ったほどだ。それほど人で賑わい、楽しい雰囲気で満ちているディジョンは、コロナ禍でパリから移り住む若い世代も増えたという。 ディジョンは昔からワインの街として知られ、ブルゴーニュのグラン・クリュ街道の起点となっているだけでなく、ディジョン市内もかつてはブドウ栽培が盛んだったという。ワインによって豊かさを築いたこの街には数多くの邸宅、「オテル・パルテキュリエール」が立ち並び、ブルゴーニュ特有の色とりどりのタイル屋根の建物や、中世のお金持ちの特徴である階段が残っている建物も。 ディジョンの中心点は市民に愛されているリベラシオン広場。カフェやレストランが立ち並び、真ん中には子供たちがはしゃぎ回る噴水があり、カフェの横では音楽を演奏する人がいる。リラックスした雰囲気のこの広場だが、実はかつては駐車場と化していたというから驚きだ。ディジョン市の都市改革の第一歩はここを2000年に歩行者空間化することから始まり、徐々にメイン通りが歩行者空間化され、バスも自家用車も追い出され、その代わりに主要地点にトラムを通していった。また、歩行者空間には無料で市内中心部を巡れる小さなバスも運行している。 ディジョンの名物といえばマスタードとパン・デピス。マスタードというと辛いイメージだが、実は粒を潰すことで辛くなるため、粒が残っているものよりも、ペースト状のものの方が辛いという。普通のマスタードからカシス味まで様々なものがあるが、IGPとして認定されているのは「ムタール・ド・ブルゴーニュ」で、こちらはブルゴーニュ産のマスタードを使用し、白ワインの中で粒を砕いて作ったもの。マスタードは日本ではまだまだ馴染みが薄いが、実はフランス料理になくてはならない食材で、肉料理に添えるだけでなくドレッシングを作る時にも使うのだ。…

2022年5月、ブルゴーニュ地方の州都、ディジョンに、「美食とワインの国際博物館」がオープンした。ディジョンはユネスコの文化遺産にダブルで登録されたという世界的にも珍しい都市だ。博物館の構想は2020年にフランスの美食がユネスコの無形文化遺産に登録された時にさかのぼる。フランス政府は美食の文化を伝えるための都市を募集し、ディジョン、トゥール、パリ郊外のランジス、リヨンが選ばれた。その中でも突出してフランスの美食文化を世界に発信しようとしているのがディジョンである。 2015年には「ブルゴーニュワイン産地のクリマ」がユネスコの文化遺産に登録された。「美食とワインの国際博物館」がある場所は、ブルゴーニュワインの偉大な産地をめぐる道、グラン・クリュ街道(Route des Grands Crus)の出発点でもある。ディジョンに来てよく耳にするのが「ブルゴーニュではクリマという時、上を見上げるのではなく、下を見つめる」という話。クリマは気候を意味するフランス語だが、ブルゴーニュの場合はミクロクリマと呼ばれる、小さな区画ごとに異なるテロワールのことを差している。…