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ラングドック・ルシヨンはフランスで一番ブドウの耕作面積が大きい地方。年間315日以上もの日照に恵まれ、いつだって風の吹いているこの地方はブドウ栽培に適している。レストランのテラスで時を過ごす。髪の毛はたえず揺れ、気がつけば膝に置いていたはずのナプキンが飛んでいる。ラングドックで何よりも大切なのは北西からの風と海からの風。いつも存在している風のお陰で乾燥しているこの地方では湿気で虫がつく心配もほとんどない。そのため農薬を使う必要性もあまりなく、ビオワインの生産もフランスで一番盛んだ。 ラングドック地方のブドウ栽培の歴史は紀元前にさかのぼる。ローマ時代に非常に栄えた港町、ナルボンヌは当時からワインの輸出港として有名だった。ブドウ栽培に適していたこの地では現在に至るまで大量にワインが生産された。日常づかいのテーブルワイン生産地としての知名度が高かったたラングドック・ルシヨン地方。1960年代からはフランスでのワイン消費が、量よりも質重視に変わっていったため、ラングドックのワイン生産は打撃を受けた。そのため放棄されるブドウ畑も多くなったたが、その地に新たなブドウ品種を植え、新しいワインづくりに挑戦する人たちが登場する。 現在のラングドック・ルシヨンを表すのは多様性と自由だろう。「旧世界の中の新世界」と言われ、今まさに未来に向かって大きな挑戦をしているこの地方の生産者たちは既成概念に縛られない。ここではあえてAOCを取得しようとせずに、自分がこれだ思う品種をブレンドし、高品質なのにヴァン・ド・ターブルとして販売する者もいる。「AOCだと伝統的な品種しか使えません。それに対してIGPだと世界中の品種が使えます。IGPだと伝統的な品種と新世界の品種をアッサンブラージュできるんです。その方が生産者は自分のワインの表現方法を広げることができるんです。画家が自分の表現したいものに合わせて画材や表現方法を選ぶような創造性がこの地方にはあるんです。」と、ボンフィス社のジル・セイサックさん。 現在ではかなり高品質なワインを生産しているものの、かつてのイメージによってフランスはもとより世界にもまだ壁はある。しかし実際に味わってみるとその質の高さとコストパフォーマンスの高さに驚かされる。 ラングドック・ルシヨン地方は広大で、品種やテロワールも多様なため、一言で特徴をいい表すのは難しい。基本的には日照に恵まれているため糖分が多くなり、アルコール度数が高めで、重厚感のあるワインがつくりやすい。とはいえ地中海に近いところもあれば山側の畑もあり、地区ごとに畑の様子も非常に異なる。あえて奇をてらうわけではないが、自然と多様性のあるワインが生まれてしまう。それがラングドックらしさだろう。…

モンペリエ市街からほんの少し離れたところに、別世界のような場所がある。プラタナスの葉がさわさわと揺れ、木陰にはレストランのテラス席。その裏手に広がる巨大な庭園には、世界中の植物や竹林、それから五感の庭がある。 ここは17世紀末からあるというシャトー・ド・フロジェルグ。現在はピエール・ド・コルベールさんと息子さんが中心になって経営している。「40年前に私たちがここに来たときに妻と決めたことがあるんです。ワイン生産者がすべきこととは?人に喜びを与えること。私たちは美しいものと美味しいものの2つを通してそれを実現しようと決めたんです。どうです、このシャトーと噴水の眺め、美しいと思いません?それから美味しいものは、ワインの試飲だけでなく、3年前には素晴らしいシェフと出会ってレストランを開くことができました。今ではワインとともに食事を楽しめるようになったんです。」   庭を案内しながら「五感の庭はね、テイスティングの前に五感を開くための場所。それにカシスの香りって言ったって、実際にカシスを食べたことがなかったらわからないでしょう?だからここでは実際にその味を知れるんです」と教えてくれる。様々なアイデアが頭から溢れるピエールさん。歴史的建造物に指定されているシャトーはワイン関係の古書や芸術品が揃い、彼の資料を見にくる研究者もいるそうだ。 尽きることのないアイデアと実現力でここを唯一無二の場にしていく彼。このシャトーにはレストラン、お庭の他にも試飲室、ショップ、企業に貸し出し可能な会議室まであるという。「うちで会議して、それが終わったらレストランの美味しいご飯とワイン。隣にホテルがあるから宿泊だって可能です。結婚式にも使われますよ。」…