Browsing: ビストロノミー

 高級ホテルで修行を積んだシェフたちが、上質なフレンチをビストロのような気楽な店で手頃な価格で提供することを「ビストロノミー」と言う。ガストロノミー(美食)とビストロを掛け合わせた「ビストロノミー」、「ネオ・ビストロ」の先駆けとなったシェフの一人が、15年前に「ブール・ノワゼット」をオープンさせたティエリー・ブランキ氏。それまでトゥール・ダルジャン、リッツ、ルドワイヤンなど、高級フレンチで働いていた彼は、どうしてビストロに方向転換したのだろうか。 「確かに以前は高級フランス料理店で働いてきましたが、プレッシャーもかなり強く、個人的にはそこに喜びを見出せなくなっていたんです。それに独立して自分の店を持ちたい、自分の世界観のある店を開きたいとずっと思っていたからです。」穏やかな口調のティエリー・ブランキ氏の姿勢は驚くほど謙虚で慎ましい。彼の世界観を映し出したその店も、世界的知名度とは対照的に、15区の住宅街にひっそり佇んでいる。一歩足を踏み入れると、この店がしっかり愛されているのが伝わってくる。手入れの行きどどいた小さな中庭、壁に沿ってワインボトルがセンス良く並べられた居心地の良い小空間。高級フランス料理店のよそよそしい趣とは対照的に、こじんまりした空間の至るところから静かな愛情が伝わってくる。 「僕が大切にしているのは新鮮な素材を使った、季節を感じるシンプルな料理です。ガストロノミーではなく、大切な要素だけを凝縮し、1皿に使う素材も3−4種類にとどめています。旬の変化を大切にしているので、特に看板メニューありません。肉だけでなく、魚も野菜も果物もどれも大切にしています。お昼のメニューは旬や自分の気分よって毎日少しずつ変化させています。」    フランスでは彼の店はここだけだが、日本には銀座に「ブール・ノワゼット」、大阪にも彼の監修するクレープリが存在する。「日本の企業から依頼を受けて、6年前に銀座に「ブール・ノワゼット」ができました。とはいえそこは僕がメニューを監修している店であって、自分の店、というわけではありません。日本は好きだったし、いい冒険なのでやってみることにしたんです。もちろん毎年日本に行って料理をしますが、日本とフランスでは同じ野菜1つをとっても違いがあるため、ここと全く同じ味かというとそうとも言えません。東京の店はメニューがわりと固定して、それを守っていこうと心がけているのに対し、こちらのメニューは旬や自分の気持ちによって変化し続ける点が大きな違いだと思います。日本のウィスキーにも影響を受け、ここでも食後酒としていくつか置いていますよ。」…