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東京に飲食店は星の数ほどあれど、リーズナブルで本当に美味しいフレンチを見つけるのは至難の技だ。広尾の「ラ・トルチュ」はそんな類い稀な一軒で、スープを一口味わっただけで、この店は違う、というのが伝わってくる。とうもろこしの冷製スープの複雑で繊細な甘み、アクセントになる塩気の効いたベーコンとの抜群の相性の良さ。これは凄い・・・という驚きは有難いことにデザートまで続いてくれる。肉の焼き加減からクレームブリュレの表面のパリパリ感に至るまで、すべてが絶妙という他なく、フランスで美味しいものに出会った時の湧き上がるような喜びが、東京に居ながらにして味わえる。 「ラ・トルチュ」は見た目は小さな個人経営のレストランだが、実はパリでも高名な日本人シェフ、吉野建氏の店だと聞けばこの質の高さに納得がいく。吉野氏が監修するフレンチが東京に3軒ある中で、「ラ・トルチュ」は一番カジュアルなビストロで、ランチは2400円から、ディナーは4200円からと、値段もいたってリーズナブルだ。 この店で腕をふるうのはパリでの修行後、タテルヨシノで5年間働いてきた猪口玄洋シェフ。「ラ・トルチュでは、テロワールを感じられる料理、つまり自然や大地を意識し、食材や伝統も大切にした料理を提供するように心がけています。素材をあまり複雑にしずぎず、食材に敬意を抱いて、気持ちをこめて料理をしています。」そんな猪口シェフが今情熱を注いでいるのが前菜の「季節の野菜と穀物のテリーヌ50」だ。こちらは50種類もの野菜や穀物をびっしり詰め込んだテリーヌで、食べただけで肌がツヤツヤしそうなほど健康的。もやしやごぼう、オクラなど、1つ1つの味わいはハッキリと個性が異なっており、複数の野菜を口に含んだ時にはじめて味わいが重なりあって溶けていく。それもそのはず、「野菜はゆで時間が違うので1つずつ茹でるんです。この下ごしらえだけで1時間半くらいかかったこともありました」とシェフ。大変でもあえてその手間を惜しまないことで、素材の持ち味が存分に伝わる料理になるのだろう。 前菜には牛タンのスモークとフォワグラのムースをミルフィーユ状に重ねた「牛タンとフォワグラのルクルス」も人気がある。こちらも少し口に含んだだけで、どれほど丁寧に作られているかが伝わってくる。とろりとした牛タンと、クリーミィでコクのあるフォワグラのムースの異なる個性が口の中で混ざり合い、絶妙なハーモニーを醸し出していく。 メインのおすすめはスコットランド産のサーモンをオーブンで数分だけ焼いた「サーモンのミキュイ」。脂がのってとろりとしたサーモンが非常に柔らかく、優しい味わいで、エシャロットやディルが入って少しピリッとしたクリームと見事に調和。他にもパテ・アン・クルートや、秋から冬にかけてはイノシシ、野鳥、鹿などのジビエも堪能できる(サーモン以外は基本的に夜のコース)。…