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東京で最もフランスに近い神楽坂には、フランス料理店やビストロがひしめきあっている。そんな中でもダントツにフランス気分に浸れるお店が、ビストロ・ル・パリジャンだ。店内ではフランス語が飛び交っており、扉を開けると異世界に紛れ込んだよう。 とはいえビストロ・パリジャンの良さは単にフランス的な雰囲気が味わえるだけではない。何より驚きなのはリーズナブルな価格設定なのに、食事はボリューム満点で、どれも絶品だということ。一度この店に行ってしまうと、他の店をあえて選ぶのが難しい。それほどにコスパが高く、間違いのない店なのだ。 東京広しといえども、やたらと高級なフレンチか、ビストロという名のもとに単なるボリューム勝負になっている店の多い中、なぜこの店はリーズナブルな価格で質の高い料理を提供できるのだろう? フランス語と日本語で気さくにコミュニュケーションをとるオーナーのナビルさんは、パリの老舗カフェ、クローズリー・デ・リラで8年にわたってメートル・ドテル(給仕長)を勤めていた人物だ。クローズリー・デ・リラは20世紀初頭の世界中の芸術家や、ヘミングウェイが通ったことで知られる店。ナビルさんが勤めていた頃のクローズリー・デ・リラはパリでトップのレストランとして名をはせ、大統領や著名人が次々とやってくる店だった。クローズリーやホテル・ムーリス、タイユバンなどのシェフと共に働き、サービスの腕を磨いたナビルさんは、日本人女性と結婚したことを機に来日する。 その後、フランスに旅行した気分なれる店を作りたいとの想いで、2013年にビストロ・パリジャンをオープンした。それゆえ、この店は何もかもがフランス式で本格的。たとえば鴨のコンフィは日本では鴨の脂以外で調理されることが多いそうだが、この店では高くても鴨の脂にこだわりつづける。長年パリの一流店でシェフと働いてきたナビルさんは、肉の微妙な焼き加減にもこだわりが強い。だからこそ、マグレ・ド・カナールは血が滴るほどではない絶妙なロゼで、側面はカリッと焼き上げられた絶品となる。…

表参道の住宅街に、リーズナブルでとびきり美味しいビストロがある。1品目に出されたはずのサラダや前菜は、メインと間違えたかと思うほどのボリュームだ。色鮮やかなサラダは見た目の美しさだけでなく、シャキッとカリッと歯ごたえもいい。それもそのはず、シェフの吉田佑真さんは週に3度も築地に通って新鮮な野菜と魚を仕入れ、野菜は2日で使い切るよう心がけているという。新鮮さだけでなく、素材の持ち味をしっかり引き出すよう、野菜を別々にゆでる手間も惜しまない。 ボリューム満点のサラダにステーキ、牛赤ワイン煮込みや仔牛と豚のパイ包みなど、フランス帰りの人にとっては「これぞフランス!」という気持ちになれるビストロ・ル・マンだが、実はシェフはフランスに行ったことがないというから驚きだ。「営業を頑張っていたら行く機会を逃してしまって・・・」と笑う吉田さん。とはいえ、行かずして何故、本場顔負けの味わいを作ることができるのだろう?「料理の世界に入ったのは20歳の時からです。初めて働いた飲食店がフレンチで、やっていくうちにフレンチの魅力を感じてこの道でいこうと決めました。熊本の田舎出身で、10代の頃はフランス料理もほとんど食べたことがなかったんですが、働きながら美味しいものを沢山発見し、この仕事いいなと思ったんです。」探究心旺盛な吉田さんは、休日に先輩シェフの店を訪ね歩くだけでなく、上京後は魚屋でも働いた。「魚にもそれぞれ旬やおろし方があり、脂ののり方も旬かどうかで違います。それらをしっかり学ぼうと思って1年と期間を決めて、魚屋で働くことにしたんです。」 そんな吉田さんの作る魚料理は絶品だ。ホタテ1つにしても、身がふっくらしてジューシーで、外側は香ばしく焼かれており、今まで食べてきたホタテは何だったのかと思うほどの味わい深さ。魚だけでなくお肉も焼き加減が絶妙でボリューム満点。それでも意外とペロリと食べられるのは、全て自家製だからだろう。「今年はナチュラルをテーマに、手作りにこだわっています。パイ生地、アンチョビ、ソーセージやベーコン、ソースやコンソメも全部自家製。もちろん手間はかかりますが、そこだけは味として自分も好きだし、譲れない点なんです。うちでは旬を大切にしたいので、年中これがうり、というのは特にありません。築地で仕入れた野菜や魚を使った本日のおすすめを是非味わっていただけたらと思います。」 4年前から2日に1度は欠かさず通っているという築地市場では、新鮮な魚だけでなく野菜も仕入れている。 「築地には和の食材だけでなく、ヨーロッパ野菜を扱う店や良質なアスパラを扱う店もあり、多くの料理人が通っています。築地で扱っている食材は、そもそもお店の方が選んでいるので、品質の優れたものが多いんです。ここまで買いに来るのはいいものを安く提供したいのと、実際に自分の目で見て買いたいから。素材から料理の発想が湧くこともありますし、お店の方に調理法を教えてもらうこともあります。」魚も野菜も、旬の素材を大切にしている吉田さんは、フレンチの枠にとらわれず、くわいやむかご、ユリ根など、いかにも和食といったイメージの食材もメニューに使用したという。スーパーで普段目にするのとは随分異なる食材が溢れる築地だが、「すごく珍しいものは別にして、ひと通りの野菜は使いました」と笑う。…

東京に飲食店は星の数ほどあれど、リーズナブルで本当に美味しいフレンチを見つけるのは至難の技だ。広尾の「ラ・トルチュ」はそんな類い稀な一軒で、スープを一口味わっただけで、この店は違う、というのが伝わってくる。とうもろこしの冷製スープの複雑で繊細な甘み、アクセントになる塩気の効いたベーコンとの抜群の相性の良さ。これは凄い・・・という驚きは有難いことにデザートまで続いてくれる。肉の焼き加減からクレームブリュレの表面のパリパリ感に至るまで、すべてが絶妙という他なく、フランスで美味しいものに出会った時の湧き上がるような喜びが、東京に居ながらにして味わえる。 「ラ・トルチュ」は見た目は小さな個人経営のレストランだが、実はパリでも高名な日本人シェフ、吉野建氏の店だと聞けばこの質の高さに納得がいく。吉野氏が監修するフレンチが東京に3軒ある中で、「ラ・トルチュ」は一番カジュアルなビストロで、ランチは2400円から、ディナーは4200円からと、値段もいたってリーズナブルだ。 この店で腕をふるうのはパリでの修行後、タテルヨシノで5年間働いてきた猪口玄洋シェフ。「ラ・トルチュでは、テロワールを感じられる料理、つまり自然や大地を意識し、食材や伝統も大切にした料理を提供するように心がけています。素材をあまり複雑にしずぎず、食材に敬意を抱いて、気持ちをこめて料理をしています。」そんな猪口シェフが今情熱を注いでいるのが前菜の「季節の野菜と穀物のテリーヌ50」だ。こちらは50種類もの野菜や穀物をびっしり詰め込んだテリーヌで、食べただけで肌がツヤツヤしそうなほど健康的。もやしやごぼう、オクラなど、1つ1つの味わいはハッキリと個性が異なっており、複数の野菜を口に含んだ時にはじめて味わいが重なりあって溶けていく。それもそのはず、「野菜はゆで時間が違うので1つずつ茹でるんです。この下ごしらえだけで1時間半くらいかかったこともありました」とシェフ。大変でもあえてその手間を惜しまないことで、素材の持ち味が存分に伝わる料理になるのだろう。 前菜には牛タンのスモークとフォワグラのムースをミルフィーユ状に重ねた「牛タンとフォワグラのルクルス」も人気がある。こちらも少し口に含んだだけで、どれほど丁寧に作られているかが伝わってくる。とろりとした牛タンと、クリーミィでコクのあるフォワグラのムースの異なる個性が口の中で混ざり合い、絶妙なハーモニーを醸し出していく。 メインのおすすめはスコットランド産のサーモンをオーブンで数分だけ焼いた「サーモンのミキュイ」。脂がのってとろりとしたサーモンが非常に柔らかく、優しい味わいで、エシャロットやディルが入って少しピリッとしたクリームと見事に調和。他にもパテ・アン・クルートや、秋から冬にかけてはイノシシ、野鳥、鹿などのジビエも堪能できる(サーモン以外は基本的に夜のコース)。…