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お洒落なカフェが立ち並び、パリジャン達に人気な北マレの一角に、日本人シェフ篠塚大さんのビストロがある。「レ・ザンファン・ルージュ」は2013年にオープンしたクラシックなフレンチビストロ。サン・ジェルマン・デ・プレの名店「コントワール・デュ・ルレ」にてイヴ・カンドボルド氏の下、副料理長を務めた篠塚さん。いかにも凄腕の料理人といった風貌だが、実は渡仏するまで料理はしたこともなかったという。 「フランスに来たのは2000年で、元々語学留学だったんです。海外に留学したいと思っていて、料理にも興味があったので、フランスに決めました。アヌシーという街で語学学校に通っていた頃、時間に余裕があって、レストランでアルバイトをしたのが料理に携わったきっかけです。」 アヌシーからトゥールに移り、トゥールのレストランのシェフがイヴ氏と知り合いだったため、パリのコントワール・デュ・ルレへと移る。カンドボルド氏の下で働くうちに、いつか自分の店を持ちたいと思うようになっていく。「今の状況を後悔すること?全然ありません。パリにレストランを開くのが夢で、それが今まさに実現しているわけですから。元々食べることは大好きでしたし、シェフは料理を作ることでお客さんに喜びを与える仕事。お客さんによい時間を過ごしてもらうために自分がいるのだと思っています。だから食事の前後にお客さんともよく会話をしています。パリに店を出せたことの良さは外国人のお客さんが多いこと。フランス人だけでなく、イギリス人、アメリカ人、オーストラリア人、日本人など、世界中の人たちに自分の料理を食べてもらえるんです。世界中の人たちに美味しかったと言ってもらえるのは料理人冥利につきますよ。」 約6年もイヴ・カンドボルド氏と共に働いて来た篠塚さん。特に影響を受けたところは?「イヴシェフはこれまで一番長く一緒に働いたシェフ。彼の背中を見てきたのはすごく大きく、大切な時間だったと思います。彼は配達された食材が思っていた状態と違うとそう伝え、ある時間に届くはずの食材が届かなかったら即座に電話するなど、理想に厳しい人でした。全てを理想通りにするため、料理の塩加減や焼き加減をいつもチェックしていました。塩胡椒はしっかりしてるか?と常に問うので、自分がつくる料理も味がしっかりしている方だと思います。」 篠塚さんの料理はクラシックなフレンチだ。「僕はフランス料理をフランスでやってきました。だからこそアンファン・ルージュのオープン当初は、日仏メランジェではなく、クラシックなフレンチが食べられる店だというのを強く示したかったんです。個人的にはフュージョンはあまり好きではなく、日本っぽさはほぼゼロです。日本の食材もこれまで全く使用しませんでしたが、最近は少しゆとりができて、デザートに抹茶を使用したり、魚に梅を組み合わせてみたことも。けれど日本の食材を全く使わなくても、日本人の作るフレンチというのが理解できると沢山の人に言われます。伝統的でクラシックなフレンチですが、ソースを軽めにしたり、味が重たすぎず、食べやすくつくるように心がけているからでしょうか。」篠塚さんは一皿ごとの酸味、塩分、食感、素材の甘みのバランスに気を使い、メインにも野菜が多く添えられ、色鮮やかだ。…

ビストロ・パピヨンの日本人シェフ、高柳好孝さんは独特の雰囲気がある。柔らかな物腰、料理や自分について淡々と語る姿勢。そこから彼の情熱を読み取るのは難しい。だが彼の料理を口に含むとなるほど、と合点がいくようだ。研ぎすまされた感性、お皿に盛られた食材たちの見事な調和。何一つ無駄なところもやりすぎなところもない。「彼は完璧主義者。休みの日だって試作しに来る程ね」とオーナーのローランさん。 33歳の若きシェフは素晴らしい経歴の持ち主だ。2007年に渡仏し、ビストロ・パピヨンの料理長になる前は3つ星レストラン、ルドワイヤンにてヤニック・アレノ氏の下で副料理長として働いていた。ヤニック・アレノ氏とはそれ以前にもオテル・ムーリスで、その後はアラン・デュカス氏とも仕事をしていた。偉大なシェフと働いて何か感銘を受けたことは?という質問に対し、彼はさらりとこう言った。「グランシェフ達と働いて、正直そこまで感銘は受けなかったです。今まで色んなシェフと働いてきたけれど、すごい衝撃を誰かから受けたかというとそうでもありません。やはりいいところもあれば悪いところもあるんだとわかりました。」彼がそう言えるのもきっと類いまれな腕と感性を持ち合わせていたからだろう。料理との付き合いは今に始まったものではない。「料理は母の影響で、昔から好きでいつも手伝いをしていました。ただ高校は進学校だったので、大学に行くのが普通な環境だったんです。浪人した時にやはり自分の好きなことをした方がよいのではと思い、調理師学校に通うことに決めたんです。」 東京のフレンチで働いた後、ワーキングホリデーで渡仏。その後有名シェフの下で働き、2015年秋にはついに自分がシェフという立場になる。「シェフとして働くのはビストロ・パピヨンが初めてです。今まではグランシェフの下でその人の料理を作ることが仕事でしたが、これからは自分のスタイルが必要です。自分のスタイルをどんな風に編み出して行くのか、僕自身それが知りたいし探しています。まずは自分が一番食べたいものを作ろうと思っています。例えばお皿の中に要素を盛り込みすぎないもの。特にガルニチュール(付け合わせ)はただ今日この野菜があるから載っけてしまえ、ではなく、どうしてこの野菜を載せるかという意味が自分の中で定まったものを使おうと思っています。鴨は血の味がするので土臭いものと合うから、ベトラーヴのグラッセを合わせる、といった具合にです。」 ビストロ・パピヨンはビオ野菜やパリ近郊で栽培される野菜、信頼できる生産者の肉や新鮮な魚、ビオワインにヴァン・ナチュレルと食材に強いこだわりがある。新鮮で上質な素材を使ったシェフの料理はどれも非常に味わい深く、お皿の上のどのガルニチュールと合わせても見事な調和を保つよう計算されている。料理とワインの素晴らしいマリアージュのように、この店のメインとガルニチュールの組み合わせもうっとりするような幸福感が味わえる。「フランスの良さは自分の使いたいフレンチの材料が身近にあって何でも試せること」とシェフ。フランスの新鮮で味わい深い食材と、繊細な感覚と高度な技術の日本人シェフをかけ合わせるとどんな答えが導かれるのか。ブーダンやマグレ・ド・カナールのようなクラシックなメニューであってもここまで繊細で味わい深くなるものか、と驚きを隠せない。 Bistro…