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ワインの世界には「テロワール」という言葉があるが、テロワールとは何かを理解するには時間がかかる。だがローラン・コンビエの畑を訪れ、ローランさんの説明を聞くうちに、テロワールとは日本語で言うと「大地」なのだと腑に落ちた。テロワールを感じるというのは、それが育った大地の力強さを感じ、味わうということなのだ。だからこそ、ブドウの生育環境をどう扱うか、それがワインの味に直結するのだろう。 ドメーヌ・ローラン・コンビエはローヌ北部、クロズ・エルミタージュを中心に50haもの畑を持つが、この規模で全て有機栽培というから驚きだ。「もうビオを始めて46年になります。父はフランスの有機栽培のパイオニアの一人で、クロズ・エルミタージュでは初のビオ生産者。今でこそビオも増え、認められるようになりましたが、当時はおかしい人だと思われてたんです」とローランさん。彼らがビオにこだわるのは、最高のワインの原材料を求めているからだ。「ブドウの樹や土壌が元気になり、健康でバランスのいいブドウができると、ワインの味わいも良くなります。土壌が生き生きしていると、ワインに一層のミネラル感が生まれます。土の良い状態がブドウの樹に伝わって、テロワールの特徴をブドウに伝えていくのです。」祖父の代に植えたというブドウ畑に入ると土のふわっとした感じがわかる。「土を耕し、空気を取り込むことが大切です。土が固いとブドウの根が深く入っていきません。根は地中15mまで張ることもあり、ブドウの樹は根を通して大地のエネルギーを吸収しています。樹の方は毎日太陽にさらされて、太陽のエネルギーを浴びています。ブドウの樹はその周りの自然にとても影響を受けているのです。」 黒ぶどうのシラーを収穫中のローランさんが醸造のこだわりも教えてくれる。「とにかくワインの原料であるブドウの状態が大切です。クロズ・エルミタージュは平地なので収穫機も通せますが、うちは全て手摘みにします。ブドウの房部分も取り除き、その後のブドウの選別も人手で行います。ブドウをタンクへ入れる時も、チューブではなくコンベアを使い、ブドウが傷つかず、繊細な味わいを守るために細心の注意をしてるんです。」醸造にはコンクリートタンクも使用し、熟成には卵型のタンクも使う。「シラーは酸素を必要とする品種です。コンクリートタンクはステンレスよりもワインが呼吸しやすく、壁も厚いため温度変化もゆっくりです。この卵形のタンクは99年から使っています。地球の自転にそって中の液体がゆっくりと回転し、自然にバトナージュをしてくれるんですよ。」 ローラン・コンビエのワインを口に含むと、なるほどと身体で合点がいってしまう。シラー100%の赤、「Crozes…

コート・デュ・ローヌのワイン産地は南北に大きく分かれており、南と北では味わいや生産方法も異なっている。南部は赤の場合、いくつかのぶどう品種をアッサンブラージュするのに対し、北部はシラーのみを使用。シラー?あのコショウの香りでパワフルな?とあなどることなかれ。ローヌ北部のシラーは計り知れない魅力に満ちている。力強そうなイメージとは裏腹に、驚くほどのエレガントさと柔らかさをあわせ持ち、鴨から子羊、ジビエに至るまで、どんな肉料理もより豊かで味わい深くさせてしまう。北部でも特に高品質でコストパフォーマンスの良さで知られるAOCサン・ジョセフ。今後のワイン選びのために、是非この名を覚えていてほしい。 ローヌ北部には8つのクリュという、特に品質の優れたワイン産地が存在する。その中で一番南北に長く、規模が大きいのがAOCサン・ジョセフ。サン・ジョセフは高名なコート・ロティやコンドリューの南から、高級ワイン産地、エルミタージュの対岸を通り、コルナスの北まで、ローヌ右岸の花崗岩主流の丘に約50キロにかけて続いている。サン・ジョセフの地形の特徴は何といっても急斜面。ローヌ川と、その支流沿いに連なる丘の、立っているのもやっとなほどの急斜面にブドウ畑が広がっている。水はけがよく、日照量にも恵まれたこの土地のワインづくりの歴史はフランスでもダントツに古く、ギリシャ時代からブドウ栽培を行っていた。ミストラルという北風がぶどうの木についた湿気を乾かしてくれるため、病気にもなりにくく、ビオへと移行する農家も増えている。あまりに急斜面なので、トラクターや収穫機を通すことは不可能で、作業は人手に頼らざるをえない。結果として質のよいブドウだけが収穫され、サン・ジョゼフのワインは非常に高品質なワインとしてパリでも認知度が高まっている。 ローヌ北部ではネゴシアンの役割が重要だ。パリのワインショップでローヌ北部のワインを探すと、ネゴシアン名が書かれているものが半数以上を占める。もともとネゴシアンは農家が生産したブドウを購入するか、醸造されたワインを樽で購入し、ネゴシアンの名前で瓶詰め、販売する形をとっていた。次第にネゴシアンはその経済力を活かしてより大きな役割を担うようになっていく。南北に長く広がる産地の中で、客観的で広い視点を持ちながら、上質な畑を見極め、購入するのも、世界に向けてこの産地の名を広めていくのもネゴシアンの役割だ。最近ではネゴシアン自体が巨大な生産者のように、畑を持ち、ブドウ栽培から深く関与する形が増えている。 1834年創業の伝統的なネゴシアン、ポール・ジャブレ・エネ(Paul Jaboulet…