ボルドーでワインを造る。それは豊かで美しい生き方だ。広大なぶどう畑に囲まれ、日々自然と触れ合える。食卓には高品質のワインが日常にあり、ワインを介して沢山の人との出会いに恵まれる。ワインを売り込むためには世界に目を向け、販売促進のために様々な国におもむく必要がある。自分の愛する土地にしっかりと根を張りながらも同時にインターナショナルであり、地道でありながらも華やかだ。ワイン造りは非常にやりがいがありそうな仕事だが、1つだけ大きな問題がある。それが天候不順である。
これまでブドウ畑といえば、上に挙げた写真のように、表面がカラッと乾燥し、ゴツゴツした小石が表面に出ているぶどう畑が主流だったが、今では下に載せた写真のようにボルドーの85%のぶどう畑の土の部分は下草で覆われ、様々な虫の住処となっている。また、農薬使用を減らすため、ぶどうの実に害を与えるハマキガを捕食するコウモリについての研究が進んでいるという。コウモリは一晩で約2千もの害虫を捕食するため、生産者たちはぶどう畑にコウモリの定着をすすめるための環境整備に取り組んでいる。農薬の使用に関しては、ボルドー、ボルドー・シューペリウールのAOC規定により、畑全体に向けて除草剤を使用することを禁じ、除草剤が使用できる場所を限定した。それだけでなく、今後の気候変動に対応するため、新たに気候変動に耐性があると思われる7品種をAOCの規定にいれることを許可。これらはあくまでも補佐的な品種とはいえ、「これだけ対策をしているから、100年後にも絶対ボルドーワインは生き残るわよ」とマリー=キャトリーヌさん。ボルドーといえば伝統的、というイメージが強力だが、ボルドーをよく知る二人によれば、実際は、ボルドーにおける伝統とは、時代に合わせて変化、適応していくものだという。戦後は様々な作物とともにブドウを育て、1980年ごろまでは白ワインがメインの産地だったように、ボルドーは刻々と時代に合わせて進化を遂げてきたからこそ、世界に誇るワイン産地であり続けることができたのだ。
65ものAOCをもつボルドーはその環境への取り組みも、トップクラスであろうと努力している。大西洋が近く、大河もあるため湿気の問題が根強いボルドーは、はじめから農薬不使用の栽培に適したような場所ではない。だからこそ、ここでの困難の乗り越え方や研究成果は、今後フランスだけでなく、多くのワイン産地に影響を与えていくことだろう。下草が生え、蜂や蝶が舞うブドウ畑は楽園のように美しく、心洗われる光景だ。食の遺産を守るために私たちができることは何なのか、フランスきってのワイン産地、ボルドーから学ぶことはまだまだ沢山ありそうだ。(下草の写真はボルドーワイン委員会提供)