5月31日、ブルゴーニュワイン委員会主催の「シャブリ・シンフォニー」が池袋の自由学園明日館にて開催された。このイベントは、かの有名な白ワイン、シャブリを音で表現するという試みだ。レカン・グループ飲料統括マネージャーの近藤佑哉さんによる解説とテイスティングの後、シャブリの音色に耳を澄ませた。
ブルゴーニュ地方の北に位置するシャブリでは、単一品種のシャルドネで白ワインを生産している。シャブリという名前は世界的に有名とはいえ、ブルゴーニュ地方の白ワインの中で、生産量は18%にすぎない。シャブリには「プティ・シャブリ」、「シャブリ」、「シャブリ・プルミエ・クリュ」、「シャブリ・グラン・クリュ」という4つのAOC(原産地呼称)が存在する。
今回の試みは、その4つAOCの違いをシンフォニーで表現するというもの。この難しい試みに挑戦したのは作曲家の松波匠太郎さん。近藤さんに直接指導してもらいつつ、その違いを肌で学んでいったという。音楽とワインという、一見関係なさそうな二つの世界だが、そこには聴五感を磨くという共通項がある。「聴覚と味覚という全く別の世界だが、感覚を研ぎ澄ましてきたという点で、近藤さんと私は同志のようなもの。話をしていくうちに、共鳴する点が非常に多かった」と松波さん。ソムリエは味わいを言葉で表現して伝え、音楽家はメッセージを音楽を通じて表現して伝えようとする。伝えるための手段は違えど、表現者という根っこは同じかもしれない。
今回のために造られたシャブリ・シンフォニーはそれぞれ1分半の4つの曲から構成され、「プティ・シャブリ」から始まっている。試飲に提供されたドメーヌ・ビヨー・シモンの「プティ・シャブリ2019」はレモンや柑橘系のフレッシュな香りで、思わずグッと飲み干したくなる心地よさ。音楽もとても軽快でハツラツとし、バイオリンの弦を指で弾くなど、軽やかで高い音を多く使用。「シャブリ」の方は、よりしっとりとした、大人の恋を思わせる甘く切ないメロディだ。「シャブリ・プルミエ・クリュ」はフランスの秋のような切なさ、大人の人生の喜怒哀楽を感じさせる。ぜひ下記の動画でその音色に触れてみてほしい。
そして最後が「グラン・クリュ」。こちらはまさにクライマックスという言葉がふさわしい、荘厳さが溢れる音楽だ。軽やかな若い娘を思わせる「プティ・シャブリ」とはうって変わって、人生のさまざまな経験を重ねた後で、成熟した大人になってからようやく華開くような、雄大なメロディ。夜がふけて、妖艶な魅力を放つベネチアのサン・マルコ広場のカフェで堂々と演奏されそうな曲である。「ストラクチャーや、奥行きを感じる味わいがある。いろんな要素が見事に合わさり、グラン・クリュのワインをそのまま音に変換したのが今の曲だと思う」と近藤さん。
コンサートの後はワインとのマリアージュも開催された。白ワインのシャブリを肉と合わせることは珍しいが、低温調理した仔牛のローストに添えられたりんごのソースと、カリンのような味わいもあり、爽やかさとまろやかさが一緒になった「シャブリ・プルミエ・クリュ・フルショーム2018 ドメーヌ・ジェラー・デュプレシ」は絶妙なハーモニー。お肉の脂をシャブリの酸がすっきりと洗い流してくれて心地よい。
魚料理には「グラン・クリュ レ・クロ2018、ドメーヌ・ウィリアム・フェーブル」を合わせて。こちらは音楽が奏でたように荘厳でストラクチャーがしっかりし、非常に豊かな味わいだ。味わいはハッキリしているが、とても飲みやすく、さまざまな料理に合わせやすい。魚料理にも合うが、シャウルスのようなクセの強いチーズにも絶妙にマッチする。シャブリのグラン・クリュは、セロン川の右岸でしか生産されず、生産量は全体のたった1%という、とても貴重な存在だ。
今回は音楽でシャブリを表現するという初の試みだったが、単なるBGMではなく、その音楽を聴きながらシャブリを理解しようとすると、頭で考えるのとは違った理解が深まり、音楽のおかげでよりイメージも鮮明になってくる。かなりの労力をかけて造られた美しいシャブリ・シンフォニー。ぜひ今後はフランス料理店などで、生演奏ととシャブリとともに多くの人に味わってもらえたらと思う。