淹れたての珈琲というのは大抵それなりに美味しいものだ。だが少し時間がたつと味はすぐに変化する。冷めても美味しいという珈琲には滅多にお目にかかれな い。ワインだってもちろんそうで、それがスパークリングワインなら尚更だ。しっかりと冷やされた始めの一口はまあいけるかな、と思っても、グラスに残った 液体が最後まで美味しいことは滅多にない。
だがここのシャンパーニュは別物だ。グラスから溢れるレモンやグレープフルーツの香り、口一杯に広がっていくフレッシュな酸味。軽やかでさわやかな余韻 が口の中に心地よく残ってくれる。グラスの底からどこまでも立ちのぼる美しく気品のある泡。午前中私たちが試飲をしたグラスにはまだ少し液体が残り、テー ブルの上にずっと置かれたままだった。夕方に挨拶に戻って来た時、驚くことにそのグラスからまだ泡はしっかりと立っていた。同じくテーブルに置かれ、栓の 空いたままのシャンパーニュを再び試飲。そのしっかりと美味しいこと・・・!置き去りにされてものぼり続けるけなげで美しい小さな泡。条件が悪くなっても 決して失わないその気品。本当に美味しいものは時間が経っても人を感動させる力を持っている。
シャンパーニュ・ジャン=ピエール・マルニケは「レコルタン・マニュプラン(RM)」と呼ばれる、ブドウ栽培から醸造、出荷までを自社で行う小さなメゾ ン。1929年にジャン=ピエールさんの祖父が1ヘクタール半からはじめ、現在はヴァレ・ドゥ・ラ・マルヌに7ヘクタールの畑を所有。息を飲む程美しいブ ドウの丘ではシャルドネの収穫が始まっていた。「収穫は30人で12日間かけて行うんだ。白ブドウの収穫はちょっと難しいんだ。葉っぱの色とブドウが似て るから摘み残しやすいんだ。」まだ初日のこの日、収穫されたブドウをチェックしてはジャン=ピエールさんからの指示が響く。「収穫するときは斜面の下から 上に向かって。上まで来たら、今度は下に向かって摘み残しがないかチェックするんだ。」栽培方法はアグリクルチュール・レゾネで、出来る限り自然に負担を かけないように心がけている。
収穫したブドウは一定量に達するとすぐトラックでメゾンに運ばれる。4000キロのブドウが揃ったら圧搾開始。シャンパーニュ地方ではブドウは房のまま 圧縮機にかける。フォークリフトで2階部分に運ばれたブドウがバルーン型の圧縮機にザーッと入れられる。「まず一番はじめのキュヴェが2550リットルに なるまで、ゆっくりと5回くらい搾るんだ。それからまた別に2番搾りを500リットル。1番搾りのキュヴェが最上の品質で、これを12時間くらい置いてか ら、ステンレスタンクで9ヶ月程醗酵させる。そしてできた白ワインをアッサンブラージュしてからボトルに詰めて二次醗酵させるんだ。」醸造所のすぐ向いに あるカーヴに案内してもらう。扉をあけ、地下に降りると鳥肌が立つ程冷えている。「ここは自然の温度でいつも8~10℃くらいに保たれているんだよ。」 アッサンブラージュしたワインを瓶に詰め、カーブで12ヶ月から4年ほど熟成させる。その後リュミアージュ(動瓶)して澱をとり、門出のリキュールを加え て完成となる。醸造所の隅では出来あがった数本のボトルにカシャカシャとラベルが貼られてく。
家族経営のジャン=ピエール・マルニケがつくるシャンパーニュは年間約6万本。主にオーストラリアやアメリカに輸出 している。パリではブローニュのMon bistro、メトロ、パスツール駅付近のAu Métro にて味わえる。フランス国内、海外向けの直販も行っている。いつまでもグラスを手にしていたくなる、さわやかで気品のあるシャンパーニュ。本当におすすめ したい一品だ。
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