2022年5月、ブルゴーニュ地方の州都、ディジョンに、「美食とワインの国際博物館」がオープンした。ディジョンはユネスコの文化遺産にダブルで登録されたという世界的にも珍しい都市だ。博物館の構想は2020年にフランスの美食がユネスコの無形文化遺産に登録された時にさかのぼる。フランス政府は美食の文化を伝えるための都市を募集し、ディジョン、トゥール、パリ郊外のランジス、リヨンが選ばれた。その中でも突出してフランスの美食文化を世界に発信しようとしているのがディジョンである。
2015年には「ブルゴーニュワイン産地のクリマ」がユネスコの文化遺産に登録された。「美食とワインの国際博物館」がある場所は、ブルゴーニュワインの偉大な産地をめぐる道、グラン・クリュ街道(Route des Grands Crus)の出発点でもある。ディジョンに来てよく耳にするのが「ブルゴーニュではクリマという時、上を見上げるのではなく、下を見つめる」という話。クリマは気候を意味するフランス語だが、ブルゴーニュの場合はミクロクリマと呼ばれる、小さな区画ごとに異なるテロワールのことを差している。
グラン・クリュ街道を訪れると、似たような傾斜状の景色の中に、これでもかというほど葡萄畑の海が広がっており、かつ栽培されているブドウ品種も単一なため、そんなに違いがあるのか不思議に思えてしまうものだが、実際には同じブドウ品種で大差ない醸造方法であっても、道を一本隔てただけでも大いに味わいが異なるのがブルゴーニュワインの醍醐味であり、これはクリマが異なるからだという。
「美食とワインの国際博物館」には、そんなブルゴーニュワインについて、圧倒されるようなブルゴーニュのイメージに浸りながら体感的に学べるブルゴーニュワインスクールの分校も存在し、解説を聞き、試飲しながらクリマや異なる産地による違いを実感できる。
博物館は、1204年に建てられ、ブルゴーニュ市民に昔から愛されてきた病院の移転に伴い、病院や教会をリノベーションしてつくられた。6.5haという広大なスペースを持ち、フランスの美食文化やパティスリーについて学べる展示も充実。
五感を使って学ぶコーナーでは、スパイスの香りを嗅いで、それが何かを当てるもの、タッチパネルを使い、指定された料理に必要な調味料を集め、料理体験をするコーナーなど、博物館大国フランスの先進的な展示が実感できる。
ワインに関しては教会を改装した場所がブルゴーニュワインとクリマに関する展示室になっており、さまざまなイメージとともにブルゴーニュワインのあり方が学べるようになっている。しっかり見ようと思えば3時間ほど必要だ。
「美食とワインの国際博物館」は観光客だけでなく、ディジョン市民の憩いの場としても設計され、映画館も新設された。美食の村「ヴィラージュ・ガストロノミック」はディジョンだけでなくフランスの美食を代表する店を選りすぐり、種類の豊富なチーズ店や、ディジョン名物のパン・デピスの店、料理関係の本に特化した本屋、様々なレストラン、カフェもある。
そんな博物館の目玉といえば、なんといっても「カーヴ・ド・ラ・シテ」。扉を開けると目に入るのは高い壁いっぱいに敷き詰められたワインのボトルの数々。ここにはブルゴーニュワインだけでなく、フランス、世界のワインが3000種類集められ、常時200種類程度のワインがグラスで試飲可能。
とはいえせっかくここまで来たのだから、飲んでみたいのはブルゴーニュワインだろう。ブルゴーニュだけでも10種類以上は試飲ができ、サイズも30mlから予算に応じて選択できる。日本ではなかなか飲めない高価なブルゴーニュワインを現地で飲めるというのは感動的だ。こちらの試飲代は博物館の入場料には含まれず、カウンターで自分の指定したい金額をカードに入金してから試飲する仕組み。
地下には圧倒的なグラン・クリュのカーヴもあり、こちらも一部は試飲可能。良質なブルゴーニュワインが思いっきり飲みたい!という人にとって夢のような空間だ。
ディジョンはブルゴーニュワイン産地巡りの起点でもあり、ディジョン観光局は、6人乗り程度のミニバンでのツアー、自転車でグラン・クリュ街道を巡る旅など、様々なツアーを提案している。ディジョンに来たからにはワイン産地が見たい!という方はぜひディジョン観光局に問い合わせてみてほしい。
「美食とワインの国際博物館」はTGVが停まるディジョン・ヴィル駅からトラムで2駅、徒歩10分程度。パリからディジョンまではTGVで1時間半なので日帰りも十分可能だ。
美食とワインの国際博物館
住所:12 Parvis de l’UNESCO 21000 Dijon
開館時間:9時半〜19時半 月曜休
料金:13€ 週のおすすめワイン、グラス2杯の試飲込み
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by Miki IIDA