ボルドー、サン・テミリオンのビニョーブル・ジャドが所有する、シャトー・フルール・ド・リッスの扉を開けると 、目に飛び込むのは開放的な空間に整然と並んだワインの本と、その奥の棚にずらりと並ぶワインの瓶だ。その反対側には美しいブドウ畑が広がっている。
キャロリーヌ・テシュネさんが社長を務めるビニョーブル・ジャドは、1837年から続く家族経営のワイン生産者。家族経営といっても、単なる小規模生産者ではなく、ここには隅から隅までキャロリーヌさんのこだわりが詰まる。ビニョーブル・ジャドはボルドー右岸のサン・テミリオンに合計32haを所有し、2016年から有機栽培とビオ・ディナミでブドウを育てている。
黒ブドウのカベルネ・フランが育つブドウ畑に行くと、ブドウの樹の間には下草が生えている。80年代のボルドーでは下草を生やすのはもっての他だったが、今日では栄養になるとして重宝されている。ビオ・ディナミでは月の暦を大事にしており、それに合わせてカモミールなどを使った肥料を撒く。また、フランスのワイン産地でよく目にするオレンジ色の「コンフュージョン・セクシャル」も活躍中。これはカプセルが蝶のフェロモンを発し、蝶を混乱させることで、ブドウに卵を産ませないようにするものだ。
ビニョーブル・ジャドは家族経営とはいえ、並々ならぬこだわりがあり、収穫後にはブドウを2日間冷やしてから発酵させる。皮についている埃を冷たくすることで取り除き、8日ほどかけてゆっくりと発酵させるのだ。
こちらのシャトーで何よりも見応えがあるのは美術館のような醸造所。2020年に完成した醸造所は、パーセルと呼ばれる小区画ごとにきめこまやかな醸造ができるよう、あらゆる工夫がされている。分厚いステンレスタンクの中には内部を仕切る蓋があり、小さなタンクとしても機能。全てのパーセルはそのブドウに最も適した形で醸造され、最後にアッサンブラージュされる。最新型のステンレスタンクは壁が非常に分厚く、壁の内部に水を流すチューブを通すことで、0.1℃単位での細やかな温度管理が可能となった。ビオ、ビオディナミでブドウを造るだけでなく、畑の特徴を最大限に活かすようにという細やかな心遣いが至る所にみてとれる。
整然として美しい醸造所は、イタリアの建築家チームが建てたもの。どこのシャトーでもタンクの上はルモンタージュ等のために生産者が登れるようにハシゴがついているものだが、こちらは回廊すら存在し、来訪者が上から見れて廻れるようにあえて設計されている。
教会を思わせるカーヴはひんやりと15℃に温度設定され、管理されている。そうしないと、年間5%ほどワインが蒸発してしまうからだ。全て新樽を使うというわけでもなく、味わいに合わせて新樽利用の比率も決める。全てが新樽だと樽香が強くなりすぎ、テロワールの味わいを最大限に表現することができないからだ。
こちらではテラコッタのアンフォーラで発酵させたワインも作っている。樽の場合はオリが下に溜まってしまうが、アンフォーラの形状はワインが自然に動くようにできているため、オリが溜まらない。また、樽によるタンニンや樽香もないため、よりフレッシュでミネラル感が感じられるという。
AOC サンテミリオン・グラン・クリュのシャトー・フルール・ド・リッスChâteau Fleur de Lisse 2019は、95%メルロー、5%カベルネ・フランで、フルーティで滑らか。タンニンも軽やかでバランスがとれた、まさに美しいサン・テミリオンという味わいのワイン。2016年からビオ・ディナミで、18ヶ月樽熟成されている。アンフォーラで創られたシャトー・ラ・ルビエール Château la Loubière 2021は、フレッシュな酸味と柔らかさ、まろやかさが共存した素敵なワイン。100%メルローで、アンフォーラで7ヶ月熟成させている。ビニョーブル・ジャドのワインは並々ならぬこだわりが詰まっているわりに、値段は意外とお買い得。ワインバーや料理とワインのアトリエなども開催しているそうなので、サン・テミリオンに行く際にはぜひ訪れてみてほしい。
Vignoble Jade ヴィニョーブル・ジャド
Château Fleur de Lisse, wine bar and boutique
Lieu-dit Gaillard 33330 Saint-Hippolyte
Tel 33 (0)5 33 03 09 30
mail: contact@vignoblesjade.com