シャトー、という名にふさわしい、18世紀の大きな建物の前では大きな黒い犬が迎えてくれる。その後に続いて大扉からゆっくり姿を現したのがキャロリーヌ・ペロマさん。
「ここは50年代に義父が買ったシャトーなんだけど、私たちが1年前に買い直したの。夫は父親のもとで30年前からブドウづくりに関わってるわ。私も昨年から本格的に始めたの。ワイン生産者になってよかったこと?そうね、家族が喧嘩しないでよくなったことかしら」と笑う。シャトー・セロンはすでに26ヘクタールものブドウ畑があり、赤ワインと白ワイン用ブドウを半々で育てている。お義父さんの代には輝かしい時代があったそうで「私たちの役割はもとあったいい状態にまず戻すこと。」そのために二人は醸造所を改良し、新しく醸造スタッフを雇い、シャトーの裏庭にはメルローの樹を植え直した。
収穫真っ最中の畑では、夫のグザビエさんがブドウについて教えてくれる。「貴腐菌がつくと糖分が2倍に増えて、ブドウの果汁が2分の1に凝縮するんです。貴腐ワインのためには凝縮した沢山の糖分が必要です。見分けどころが肝心で、皮が縮まって、でも破れない程度というのが大切です。汁が出てもだめだし、乾燥しすぎてもいけない。」乾燥して小さくなったブドウはまるで干しぶどうのようだが、口に含むと上品な甘みが口いっぱいに広がってくる。
ボルドーの左岸に位置し、皮のすぐ横手にあるこの畑はまるで日本のような湿気がある。貴腐ワインができるのは、シロン川がガロンヌ川に合流する際の温度差で霧ができるから。このあたりは朝は霧に包まれ、空気中に湿気が残る。それが自然と貴腐菌の繁殖を促してくれるのだ。土壌は茶色く湿気を含み、石灰質土壌の表面には沢山の丸い石が現れている。「一口に貴腐ワインといっても畑の場所の違いで風も違えば日当りも違う。うちの畑でできたワインはフレッシュでミネラル感があるんです。」とグザビエさん。
シャトーの中には趣のある試飲ルームがあり、一般にも開かれている。試飲を進めていくと、確かにシャトー・セロンスで特徴的なのはミネラル感だとわかる。貴腐ワインの「シャトー・ド・セロン 2007」は、口に含むとしっかりとした甘みを感じるものの、そのあとミネラル感が残る。男性にも愛されそうな後味だ。「このワインは料理がなくてもそれだけで飲める、シャンパンみたいに特別感のあるワインなの」と語るキャロリーヌさん。シックな佇まいの夫婦があえて長靴をはいてつくるワインは意外にもリーズナブル。シャトー・セロンスのワインは日本にはまだ輸出してないが、2013年11月前半のSopexa主催のグラーブワイン試飲会にて味わえる。
[pro_ad_display_adzone id= »1569″]