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コート・デュ・ローヌ北部のワイン産地 AOCサン・ジョセフ Saint-Joseph Cru des Côtes du Rhône

コート・デュ・ローヌのワイン産地は南北に大きく分かれており、南と北では味わいや生産方法も異なっている。南部は赤の場合、いくつかのぶどう品種をアッサンブラージュするのに対し、北部はシラーのみを使用。シラー?あのコショウの香りでパワフルな?とあなどることなかれ。ローヌ北部のシラーは計り知れない魅力に満ちている。力強そうなイメージとは裏腹に、驚くほどのエレガントさと柔らかさをあわせ持ち、鴨から子羊、ジビエに至るまで、どんな肉料理もより豊かで味わい深くさせてしまう。北部でも特に高品質でコストパフォーマンスの良さで知られるAOCサン・ジョセフ。今後のワイン選びのために、是非この名を覚えていてほしい。

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ローヌ北部には8つのクリュという、特に品質の優れたワイン産地が存在する。その中で一番南北に長く、規模が大きいのがAOCサン・ジョセフ。サン・ジョセフは高名なコート・ロティやコンドリューの南から、高級ワイン産地、エルミタージュの対岸を通り、コルナスの北まで、ローヌ右岸の花崗岩主流の丘に約50キロにかけて続いている。サン・ジョセフの地形の特徴は何といっても急斜面。ローヌ川と、その支流沿いに連なる丘の、立っているのもやっとなほどの急斜面にブドウ畑が広がっている。水はけがよく、日照量にも恵まれたこの土地のワインづくりの歴史はフランスでもダントツに古く、ギリシャ時代からブドウ栽培を行っていた。ミストラルという北風がぶどうの木についた湿気を乾かしてくれるため、病気にもなりにくく、ビオへと移行する農家も増えている。あまりに急斜面なので、トラクターや収穫機を通すことは不可能で、作業は人手に頼らざるをえない。結果として質のよいブドウだけが収穫され、サン・ジョゼフのワインは非常に高品質なワインとしてパリでも認知度が高まっている。

ローヌ北部ではネゴシアンの役割が重要だ。パリのワインショップでローヌ北部のワインを探すと、ネゴシアン名が書かれているものが半数以上を占める。もともとネゴシアンは農家が生産したブドウを購入するか、醸造されたワインを樽で購入し、ネゴシアンの名前で瓶詰め、販売する形をとっていた。次第にネゴシアンはその経済力を活かしてより大きな役割を担うようになっていく。南北に長く広がる産地の中で、客観的で広い視点を持ちながら、上質な畑を見極め、購入するのも、世界に向けてこの産地の名を広めていくのもネゴシアンの役割だ。最近ではネゴシアン自体が巨大な生産者のように、畑を持ち、ブドウ栽培から深く関与する形が増えている。

1834年創業の伝統的なネゴシアン、ポール・ジャブレ・エネ(Paul Jaboulet Aîné)の場合、2006年にファミーユ・フレイというネゴシアンに買収されたが、ジャブレのブランドを保ちつつ、全ての畑の大規模な改革を行った。「よいワインを作るためには土をしっかり手入れしないといけません。ファミーユ・フレイの指揮下に入ってからは、除草剤もやめ、すべての方法を変え、ビオに変更していきました。するとできあがったワインの味に変化が現れたんです。より深みが増し、生き生きしたというか、今までになかったものが浮き出てきたような。それにビオに移行してからの方がタンニンがしっかりしており、今までよりもっと熟成に耐える気がします。」とジャブレ代表のジャックさん。「エルミタージュやサン・ジョセフでは馬も活躍しています。ボルドーにも馬がいるけど、あれは宣伝用ですよ。こちらはトラクターが通せず、曲がりくねった道も多いので、土を耕すために馬を必要としてるんです。」ネゴシアンはこの土地のワインを広く一般に伝えることにも長けており、エルミタージュに畑を所有するジャブレは、エルミタージュの麓に自社のワインが味わえるビストロをオープン。あくまでもワインを実際に味わってもらうため、という目的のビストロだが料理の質は驚くほど高く、子羊とサン・ジョセフのシラーが見事に調和。「ここはレストランというよりは私たちのワインの展示場。試飲もできるし、美味しいご飯と合わせられるし、ワインを購入することもできるんです。」ネゴシアンだからこそできることがあり、それが消費者にきちんと還元されている。そんな見事な例がこの街にある。

ブドウ収穫の合間を縫って来てくれたジャブレ代表のジャックさん

一方、フェラトン(Ferraton Père & Fils)は小規模なネゴシアンだが、多くのワインをビオディナミで生産する程のこだわりようだ。「ビオディナミは2002年から実践しており、ラベルにこそ記載していないものの、ほとんどの畑がビオディナミです。私たちにとってこれは素晴らしいブドウをつくる最善の方法で、例えて言うならホメオパシーと抗生物質のようなもの。病気になってから抗生物質で戦うか、ホメオパシーで生き物自体の力、自然治癒力をつけて病気を予防するかということなんです。ビオディナミは植物自体を元気にしてくれるので、ワインに一層のエレガントさが生まれます。」とフェラトンの販売代表のパトリックさん。「サン・ジョセフでは、白はマルサンヌがメインで、ルーサンヌを加えることも。北部の白はまだ過小評価されていますが実に味わいが深いんです。」まさにその通りで、マルサンヌ100%の白「Saint-Joseph La Source ラ・スルス」はハッとさせるような味わいがあり、爽やかで穏やかな酸味が前菜のサーモンと抜群の相性だ。「これは私たちのテーブルワイン」と微笑む妻のクロードさんの暮らしがとても羨ましい。マルサンヌの白はシェーブルなどのチーズとも非常に相性がよく「チーズには赤ワインって言われていたけど絶対白が合うわ。」とクロードさん。ルーサンヌが50%入った 「Saint-Joseph Les Oliviers レ・ゾリビエ」はほんのりと甘みがありコクがあってとろけるよう。フォアグラやクリーミィなソースによく合う、まさに美食向きの白ワイン。赤も2013年のものですでに非常にエレガントで優しい味わいがあり、どれも間違いない質の高さにただ驚きを隠せない。

サン・ジョセフにおけるネゴシアンの役割を力説してくれたのがAOCサン・ジョセフの共同代表で、大手ネゴシアン、デュラス(DELAS)代表のジャックさん。「ここにはわざわざ国外にワインを売りに行く気持ちも必要性も感じていない小規模生産者が多いんです。サン・ジョセフは急斜面で栽培面積が限られているため、生産量があまり多くありません。だからどうであれ、生産したものは大抵売れてしまう。そのおかげで質にこだわる余裕が生まれるわけですが、きちんと質の良さをわかってくれる消費者にこそサン・ジョセフのワインを届けることが重要だと思うのです。だから私たちは海外でもサン・ジョセフの味わいを伝えるために様々な活動をしています。サン・ジョセフはブルゴーニュほど知名度が高いわけではないので、ブランド名で購入されるわけではありません。サン・ジョセフは中身で勝負しているのだから、質の良さを追求し続けていくことが何より大切です。ボルドーも良いとはいえ、ガストロノミーやビストロノミーにもっとよく合い、ボルドーより安く手に入る素晴らしいワインがあるのです。サン・ジョセフは特別な一握りの人のためではなく、上質な食事をより美味しくしてくれる、ちょっとした休日向けのワイン。そういうことをより多くの人に知ってもらえればと思います。」

デュラスのシラーの奥深さといったらため息が出るほどで、特に「Saint-Joseph  Sainte-épine サンテ・エピンヌ 2013」は非常に香り高く、柔らかく、しなやかでうっとりするほどエレガント。時間の経過とともに香りはどんどん深みを増していく。2013年のワインでここまで奥深さが出てしまうのかと驚きだ。「こんなに美味しいワインを飲んだらもう、『美味しい・・・!』以外に何の言葉もでませんよね。」とジャックさん。普段からこれほど上質なワインを飲み、素材の味わいをしっかり感じる、まさにビストロノミーな料理を食べている人たちがいる。上質なものが当たり前の暮らしの中で生み出されていくAOCサン・ジョセフ。その味わいは、彼らにも似て、決してスノッブではなく、肩肘はらず、自然体だが、本物とは何かを理解し、それを大事にしようとしている、そんなスタイルが伝わってくる。サン・ジョセフは赤、白ともに15€程度から40€程。収穫も手入れも全て手作業で、この質を考えると決して高いとは言えないだろう。フランス料理を食べる時、ブルゴーニュでは弱すぎて、ボルドーでは強すぎると思ったら、是非一度サン・ジョセフやローヌ北部のシラーに挑戦してみてほしい。あれ、少し若い?ともし感じたら、開栓したまま15分ほど待てばいい。時が経つほどに驚くほど味わい深く変化し、うっとりするような余韻とともに、これまでとは違ったシラーの奥深さに気づくことができるだろう。

ジャブレのワインが味わえるビストロ
VINEUM ヴィネウム
25 Place du Taurobole, Tain l’Hermitage
04 75 09 26 20
ワイン付メニュー 30€〜
前菜、メイン、デザート
レストランはランチのみ営業

 

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