ボジョレーといえばボジョレー・ヌーヴォーが思い浮かぶとはいえ、実はボジョレーという産地はそれ以外にも大きなポテンシャルを秘めている。美食の地として知られるリヨンはボジョレーと近く、切っても切り離せない関係だ。パリのビストロでもグラスワインによくボジョレー産のワインが使用されている。そのワインというのは「ボジョレー」という耳慣れた名前ではなく、ブルィやムーラン・ア・ヴァンなど、クリュ・デュ・ボジョレーと言われるものだ。
ボジョレーには新酒としてのボジョレー・ヌーヴォーだけでなく、非常に高品質でそれぞれ味わいがことなる10のAOCが存在する。それらは総称してクリュ・デュ・ボジョレーと呼ばれている。ボジョレーワイン委員会は5月25日にフランスと日本をつなぐウェビナーを開催し、クリュの魅力を教えてくれた。
テイスティングと解説を担当するのはボジョレーのレストランでシェフ・ソムリエを務める石塚裕介さんだ。ボジョレーの帝王と呼ばれたジョルジュ・デュブッフ氏の孫のアドリアンさんもテイスターとして参加。日本はボジョレーヌーボーの世界トップの輸出先であり、2位のアメリカを2倍以上引き離す、ボジョレーにとってのお得意様だ。とはいえ、ボジョレー地区の中でも新酒の生産量は減り、クリュの魅力を伝えようと何年も前からキャンペーンを続けている。実際、様々な工夫を凝らしたヌーヴォーがあるとはいえ、それだけでボジョレーを知った気になるのは本当にもったいない。なぜならクリュ・デュ・ボジョレーはかなりポテンシャルが高く、値段も手頃な優れたワインであり、軽やかで、日本の食卓にもすんなりと馴染むからである。
ムーラン・ア・ヴァンはクリュの中でも昔から知られ、1936年の原産地呼称の法律が施行される前からその質の良さが知られていたという。長期熟成に耐えるため、クリュの王とも呼ばれている。長めにマセラシオンを行うため、フルーティなだけでなくきめ細かなタンニンの味わいも特徴的である。
ブルィイはパリのビストロでもよく提供されているワインであり、クリュ・デュ・ボジョレーの中で最大の産地。ブルィイ山を囲んだ6つの村で生産され、大きく2つの異なる土壌で生産されているため、味わいも様々だ。何年か後には1級畑も認められる可能性があるという。
日本の蒸し暑い夏に向かって、重めの赤ワインを避けがちなこれからの時期、クリュ・デュ・ボジョレーはおすすめだ。フルーティで軽やかなものが多いため、豚肉や鶏肉にも合う。冷蔵庫で少し冷やして飲むのもいいという。ボジョレーはヌーヴォーしか知らないという方はぜひ一度 »Moulin-à- vent »や »Brouilly »と書かれたラベルを見つけたら手にとってみて欲しい。ラベルにはボジョレーと書かれていないので、見分けるのが難しいかもしれないが、ワインショップにいけば1本くらいは扱っているし、ソムリエに聞くと喜んで教えてくれるかもしれない。