フランスはガストロノミー大国としての自覚を強めている。2015年2月2日、フランス外務省はミシュラン・ガイドの創設以来、初めてミシュラン2015の記者会見用に一室を提供し、外務大臣による演説も行われた。600人もの世界のジャーナリストを前にして、ミシュランはフランスの公式ガイドとして位置づけられたといえるだろう。仏外務省トップにとって、ガストロノミーを目指して外国人がフランスを訪れるのは非常に重要なことなのだ。ミシュランの3つ星レストラン111件の内、26軒はフランスに存在する。
2015年のミシュランにはサプライズも含まれる。3つ星と思われていたアラン・デュカスのプラザ・アテネのレストランは2つ星となり、ライバルであるヤニック・アレノのシャンゼリゼの店、パビリオン・ルドイエンが3つ星を獲得。両者とも、自然な食材にこだわり、健康指向の料理を追求している。とはいえ、この国には矛盾もある。フランス料理がフランス料理たるには、自然と生物多様性があってこそ。だが農薬に満ちた土壌でこの先もよい作物を手にすることができるのだろうか?フランスはアメリカと日本に次いで、農薬等化学薬品の使用量が世界第3位。しかも2009年から2013年にかけて、農薬使用量は年平均5%もアップしている。策定プランでは今後2018年にかけて使用量を半量にすると述べているのだが。
このままでは一体どうなっていくのだろう?画家がパレットに色がないからという理由で暗いトーンで絵を描くように、自然が豊かな味わいを与えられなくなることで、フランス料理も味わいに欠けてしまわないのだろうか?すでに蜂が大量死し、ハチミツの収穫量は減少中だ。
こうした矛盾は現在の料理業界にも横たわる。1月末には世界1の料理人を選ぶコンクール、ボキューズ・ドールが、リヨンのSIRHAという外食産業国際展示会にて開催された。だがこのサロンで一番大きなブースを出していたのは、料理に手をかけない飲食店向けに粉末ソースや調理済み食品を販売している企業達。そこれそ今フランスで問題となっており、国が法律で自家製料理を守ろうとしている時なのに。
外務大臣のローラン・ファビウス氏は »Goût de France/Good France » (フランスの味覚、上質なフランス)というキャンペーンを勧め、3月19日(木)には世界中で1300人を超えるシェフがアントナン・カレームやオーギュスト・エスコフィエ、ポール・ボキューズの祖国に捧げるメニューを自分の店で提供する。この企画はオーギュスト・エスコフィエが1912年に始めた、同一のメニューを同じ日に、世界の複数の年で大勢の会食者に供する「エピクロスの晩餐会」という行事から着想を得たものだ。日本でも銀座のオザミデヴァン、青山のブノワ、飯田橋のアンスティチュ・フランセ東京のラ・ブラスリー等、全国で61のフランス料理店が参加。参加店では基本的に、食前酒から前菜2品、ワイン、メイン2品、チーズ、デザート、最後は食後酒で締めくくるという本格的なフレンチのコースが味わえる。フランスが誇るガストロノミーを日本で満喫できる絶好の機会、フレンチ好きな方と是非楽しんでみてほしい。