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時代に合った新しいフランス料理の形 〜サステナビリティとラグジュアリーは両立可能?〜

環境問題が深刻化する中、環境への配慮は避けて通れない問題であり、日本でも近年SDGsという言葉をよく目にする。東京のフランス料理界でもサステナビリティをとりわけ真剣に考え、奮闘しているのが帝国ホテル 東京料理長の杉本雄シェフだ。13年間パリで働き、本場のフランスで料理だけでなく、そのバックグラウンドとなる考え方も習得してきた杉本シェフの話を聞くと、この人は本気だというのが伝わってくる。

12月13日、帝国ホテル東京で「食のサステナビリティフォーラム 〜ラグジュアリー×サステナビリティ両立への挑戦〜」が開催された。ホテルは豪華な非日常を提供する空間であり、サステナビリティは道徳的な考え方。この2つのベクトルは一見違う方向を向いているようだが、食を通してそれをどう両立するかが今問われているという。

帝国ホテルの革新的な取り組みの歴史

帝国ホテルは1890年、日本史の教科書に登場する鹿鳴館の隣に誕生し、外国からの賓客を受け入れ、宿泊できる迎賓館として機能してきた。初代会長である渋沢栄一は、「企業は利益の追求だけでなく、社会の公益にも努めるべし」という理念を持っていた。だからこそ、実は帝国ホテルは単なるラグジュアリー・ホテルではなく、先進的で社会的な取り組みを数多く行ってきた。1923年にフランク・ロイド・ライトの設計したライト館がオープンし、開業レセプションの予定日に関東大震災が起こったものの、すぐに被災者を受け入れた。また、寺社が破壊されて結婚式ができなくなった人に対して、ホテルでの挙式から披露宴、写真撮影までの流れをセットで提供したのが日本のホテル・ウェディングの始まりだった。時代の流れをいち早く読み取り、伝統と革新を大切にし続けてきたからこそ、帝国ホテルにはバイキングやホテルショップ、ディナーショーなど、日本初の取り組みが多く存在する。

そんな帝国ホテルの食の軸となってきたのがフランス料理。「フランス料理というのは地方料理の集合体であり、食材を甘すとこなく使い切る料理。たとえば肉料理を作る時、骨などでブイヨンを作り、それをソースにして肉とともに味わうことで、一皿で食材を堪能できる。ヨーロッパには食事だけでなく、日常においても、古いものや愛着のあるものを大切にし、無駄にせず最後まで使い切るという精神が根付いている。フランス料理を中心に営んできた帝国ホテルだからこそできることがあるのでは」と杉本氏。

写真のパンはレシピ上不要となった生地から新たに作られたもの

具体的な取り組みは、フェアトレードのコーヒーやチョコレートの使用、バイキングではタブレット端末での注文による食品ロス削減、パン製作時に不要となる生地を集め、新しいパンを生み出す。料理に使用しないポテトの皮を集めて低温でじっくりローストし、塩とブレンドしたサステナブルソルトの製作、販売などである。また、できるだけ無駄や廃棄を出さない調理法やレシピの開発にも取り組んでいる。

じゃがいもを味わい尽くすポテトサラダ。じゃがいもの皮で作ったゼリーにポテトサラダが包まれ、仕上げにカリッとした皮のフライを添えて。
スプーンには絶妙な美味しさの、ポテトの皮からできたサステナブルソルト。

フォーラムでは、ラグジュアリーブランドの専門家、中野香織さんとの対談も。「ファッション界には信念をもってチャレンジし、新しい時代を創っていった例がいくらでもある」と中野さん。「食の世界同様に、アクセサリーにも天然信仰があったが、ココ・シャネルは本物の貴金属とアクリル等をミックスさせたコスチューム・ジュエリーを創ることで天然信仰を打ち破った。日本のフランス料理は、希少性、非日常性、特権性というカトリック的なラグジュアリーな側面が強いとはいえ、現在それは変わりつつあり、若い世代にはテーマやストーリーを含めて味わいたい人が増えている。」

今後のフランス料理の形も、キャビアやフォアグラ、高級な和牛のステーキなど、希少な高級食材のオンパレードではなく料理人の想いやストーリーを大事にした料理に変わっていくのかもしれない。日本のフレンチは大衆的なビストロか、やたら緊張感ある高級フレンチという両極端の傾向があるが、パリの「ビストロノミー」のように、シェフの想いが詰まった美味しい料理や、素材の味わいそのものに感動でき、肩肘張らず、ちょっとした非日常感の味わえる店も増えて欲しい。パリのフランス料理は時代に合わせてどんどん進化を遂げてきた。サステナビリティとラグジュアリーが両立し、これからの時代に合った新しいフランス料理とは一体どのようなものなのか、日本で最先端を形作ってきた帝国ホテルのこれからに期待したい。

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