11月30日、フランンスのプロヴァンス、アルプ、コート・ダジュール地方のミッション団が来日し、東京のフランス大使公邸でプレスイベントが開催された。この地方はプロヴァンス、南アルプス、コート・ダジュールという3つのデスティネーションを含む観光資源が豊富な地方で、フランスでもパリに次いで観光客が多く、訪問者は年間1000万人を超えている。
コート・ダジュールの中心地、ニースはツーリズムという概念を生み出した場所であり、冬でも太陽があり、過ごしやすかったこの土地には19世紀半ばからイギリス人、ロシア人やイタリア人、芸術家たちが冬に訪れるようになる。世界的に有名な海岸沿いの「プロムナード・デ・ザングレ」も、イギリス人の散歩道という名の通り、イギリス人がつくったものだという。
ニースには現代美術の聖堂のようなホテル、ネグレスコはじめ、数々の高級ホテルが立ち並ぶ。実は訪問者の7割は夏のハイシーズン以外に訪れているそうで、観光局はクリスマスや2月のカーニバルなど、冬季の観光にますます力をいれている。南仏の光に惹かれて移り住んだ芸術家は数多く、ゴッホ、ゴーギャン、シャガール、マティス、ルノワールなど枚挙にいとまがない。ニース近郊には「国立シャガール美術館」「マティス美術館」、ルノワールが晩年を過ごしたカーニュ・シュール・メールには「ルノワール美術館」がある。
南仏ならではの食材も豊かなニースには数多くの名物がある。トマト、卵、オリーブを使った著名な「サラダ・ニソワーズ」、ひよこ豆のガレット「ソカ」や、ピザのような薄い生地に玉ねぎをのせて焼いた「ピサラディエール」、トマトをはじめ地中海の野菜に詰め物をした「ファルシ・ニソワ」、パスタとともに味わう牛肉の煮込み「ドブ・ニソワ」。食に誇りのあるニースは、1998年に「キュイジーヌ・ニサラード」という認証マークをつくり、地元の産物を使って作られたニース料理を提供するレストランを探すための目印となっている。
プロヴァンス地方といえばロゼ・ワインも有名で、ロゼはプロヴァンス発祥だそう。ニースやエクサンプロヴァンス周辺にも数々のワイン生産者が存在し、特に人気があるのが「シャトー・ラ・コスト」。こちらはワイン生産者という粋を超え、アートを愛する人たちから国際的に評価されているシャトー。ワインだけでなく、アートや文化が総合的に楽しめるようになっており、敷地内には安藤忠雄氏が設計したレストランを含む5つのレストランがあり、ルイーズ・ブルジョワの作品やジャン・ヌーヴェルの建築もあり、2年に一度著名なアーティストが制作しにやって来るという。
まさにプロヴァンスらしい絵に描いたような街並みのエクサン・プロヴァンスはセザンヌの故郷として知られ、2025年はセザンヌ・イヤーということで特に力を入れている。グラネ美術館ではセザンヌの絵100点を世界中から集めた展覧会が6月から10月まで開催される。昔からあるセザンヌのアトリエは全面的に改修されてモダンになり、セザンヌが40年間過ごした家では、改修時に、若い時にセザンヌが描いた絵が見つかり、そちらも見学できるようになる。セザンヌが好きな方はぜひ2025年のエクサン・プロヴァンスを目指してみてほしい。
エクサン・プロヴァンスに近い、フランス第2の都市マルセイユは2013年に欧州文化首都に選ばれた。これを機に中心市街地の改革が進み、モダンな外観のヨーロッパ・地中海文明博物館「MUCEM」が旧港の入り口にオープン。海沿いには自転車道の整備も進み、中心市街地は歩行者空間化が進んでいる。ル・コルビジェがマルセイユ市に依頼されて建てた「輝く都市」はユネスコの世界遺産に登録され、日々多くの人が訪れている。4階には見学者が中に入れるスペースもあり、コルビジェがどのような視点でこの空間を作ったのかを体感しながら味わえる。マルセイユ観光局は土曜を除く毎日ツアーを開催している。ニューヨーク・タイムズの「世界で行くべき50の都市」に選ばれたマルセイユは、2024年のパリ五輪でアテネからの聖火リレーをフランスで最初に海から受け入れる都市でもある。五輪を機にますます盛り上がりを見せることだろう。
また、南仏プロヴァンスでいつか訪れたい場所といえばラベンダー畑。世界的にも有名なのはリュベロンで、こちらはユネスコのジオパークと生物圏保護地域という世界遺産にダブルで登録された貴重な地域。ラベンダーの時期は6月末から7月末の1カ月間で、世界中から人が訪れる。リュベロンはラベンダーの他にもフランス流の暮らしの哲学、アール・ド・ヴィーブルや美食、トリュフやワイン、オリーブオイルなどで知られており、日常のせわしなさから逃れるスロー・ツーリズムに力を入れている。メゾン・ドットやヴィラ、パラスなど、レベルの高い宿泊施設も多く、プロヴァンスの自然を大切にし、菜園で取れる野菜を使ったミシュランの一つ星のレストラン「ラ・フェニエール」も存在する。祖母の代から三代続くシェフのナディアさんも来日し、2023年のフランス観光親善大使となった、ラグビーワールドカップ元代表で、料理が得意な大野均さんとともに、ひよこ豆を使った料理のプレゼンテーションをしてくれた。祖母が日本好きだったというナディアさんは、ひよこ豆を使って味噌も作っているという。リュベロンまでは、アヴィニヨンからバスで日帰り可能。
フランスに憧れる人が一度は行きたいと願うプロヴァンスとコート・ダジュール。夏は観光客でごったがえすが、ニース観光の発端は冬だったという。だからこそ、あたたかい日差しとゆったりした時を楽しめるこれからの時期にあえて訪れてみてはどうだろう。
by Miki IIDA