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FOODEX JAPAN 2019で出会ったフランス・イタリアの食文化

今年もFOODEX JAPANが幕張メッセで3月5日から8日まで開催された。日本中だけでなく、世界中から食品、飲料の生産者や販売業者が一同に会すこのイベントでは、数多くのセミナーも開催される。

フランス・テイスティングルームで開催された「フランス料理は(実は)簡単!」というアトリエは、簡単なフランス料理のデモンストレーションかと思いきや、出展企業10社の製品を説明付きで味わえるものだった。フランス料理というと難しそうで、前菜からデザートまでのおもてなしは料理に自信がない者には敷居が高い。しかし、料理研究家の脇雅世さんによれば、母親になっても働くことが主流のフランスでは、帰宅後に簡単に作れる料理が注目されているという。その助けとなるのが、自然解凍するだけで食卓に出せる冷凍食品である。

左から冷凍のカナッペ、テリーヌ、マッシュルームのピクルス、カヌレ、マカロン、ミニバゲット

冷凍食品といっても、パーティに使えるカナッペから、オーブンで焼き上げるタイプのバゲット、カヌレや1口サイズのケーキに至るまで、非常に高品質で見た目も美しい。特に驚きなのがブリオッシュ・パスキエ社のマカロンで、こちらはラデュレのマカロンと言われてもそうかと思えるほどの美味しさだ。外はサクッと、中はふんわり口の中でとろけていくのに、ポロポロとこぼれ落ちることもない。「マカロンはマリー・アントワネットなどが食べていたこともあり、手に入りやすくなったとはいえ、今でも高級デザートとして認識されています。きちんとした格好でパーティに行った時、ボロボロこぼれて服を汚さないようにというのも考えて作られているんですよ」とピエール・パスキエさん。パスキエ社の冷凍マカロンは保存料も着色料も使用せず、甘さもフランスの一般的なマカロンより控えめだ。ボリュームがあるので1個食べるだけで随分幸せな気持ちになれる。美味しさだけでなく価格も衝撃的で、1箱12個入りで1400円程度で買えるというから、人を呼んでおもてなししたい時のデザートにピッタリだ。もちろんコーヒーとは相性抜群である。

趣向をこらしたフランスのデザートを味わった後、コーヒーが飲みたくなったら訪れるべきはイタリア館のエスプレッソコーナーである。「IIAC 国際カフェテイスティング協会ー日本」が運営協力しているこちらのブースでは、まるでイタリアに来たかのように、とびりき美味しいエスプレッソが味わえる

今回はイタリアの北から南まで、味わいの異なる9種類のエスプレッソのテイスティングを行っていた。日本のバリスタ界の権威であり、協会本部認定講師の横山千尋さんによれば、エスプレッソは頭の回転を良くし、リラクゼーション効果が高く、がんの予防効果も普通のコーヒーより高いという。蜂蜜のようにとろっとした粘度で抽出されたエスプレッソはヘーゼルナッツ色で光沢があり、味わいは非常に濃いが、カフェインはブレンドコーヒーよりも少ないそうだ。砂糖としっかり馴染んだ最後の一口はまさにチョコレートのようにほんのり苦くて甘く、次のブースへと向かう気力を与えてくれる。ブースで接客するイタリア人たちも一息つきにこぞってやって来る。そんな人たちと挨拶を交わすのもFOODEXならではの楽しみだ。

今年のイタリア館はチーズに力をいれており、DOPチーズの試食も充実していた。なかでも素晴らしかったのが、日本ではなかなか出会えないイタリアチーズ30種が一同に会した、イタリア産チーズ特設コーナーである。

ここでは2013年に世界最優秀フロマジェコンクールで優勝した村瀬美幸さんによるセミナーも開催されていた。セミナーでは4種類のイタリア産チーズを食べ、説明をきくことができる。カチョカヴァッロ・シラーノという瓢箪のような形をしたチーズは、イタリアでは屋台に吊るされており、あぶったところをカットして食べるという。独特の弾力と塩加減が特徴的だが、焼くことでスモーキーさが増し、よりもっちりして美味しさが増すそうだ。黄色い色が特徴的なピアチェンテイーヌ・エンネーゼはサフランで色付されており、黒こしょうが効いている。しっかりとした味わいがあり、色も目をひくため、チーズプレートの一員にアクセントとして混ぜるのに最適だ。

デザートを食べるとコーヒーが欲しくなり、チーズを食べるとワインが飲みたくなってくる。イタリアチーズのすぐ近くには生ハムもあればフランスワインの試飲もできるのがFOODEXのすごさである。フランスからはAOCボルドー、ボルドー・シューペリュールワインの生産者も多く来日し、プレス向けの試飲会も別途開催された。ボルドーというと日本ではまだまだ高級ワインというイメージが根強いが、格付けワインはボルドー全体のほんの一握りであり、実際には低価格で日常使いのワインが多く生産されている。ボルドーで1位、フランス全土で2位の大きさを誇る生産者協同組合(コーペラティブ)、プロダクタ・ヴィニョーブルが造るワインは低価格なのに素晴らしい味わいだ。ソーヴィニヨン・ブラン100%の白ワイン、「グランド・アントワーヌ Grand Antoine 2017」は、酸がとてもわさわやで、後味もスッキリしており、マリネ料理や南蛮漬けなど、酸味を効かせた料理におすすめだ(三国ワイン 1380円)。2万ヘクタールという広大な面積をもつ一方で、9ヘクタールという限られた土地でほぼビオディナミの畑で作った赤ワイン、「シャトー・ラ・ローズ・ブルデュー Château la rose bourdieu 2016」は少しスパイシーなニュアンスがあり、力強さとエレガントさを併せもつ、ポテンシャルの高いボルドーワイン。ローストビーフなど、少し胡椒のきいた肉料理に合わせるのに最適だ。ビオ認定されているにもかかわらず、フランスでの価格は11ユーロ程度と非常にお手ごろだ。

プロダクタ・ヴィニョーブルのアントニーさんとオリヴィアさん

フランスで生産されるアルコールはワインだけに限らない。食後酒にはコニャックやカルヴァドスなどがあり、フランス館では「多様性を楽しむフレンチスピリッツ」という講座も開催された。講師はボルドーワイン委員会国際講師の五鬼上泰樹さん。蒸留酒は、一度ワインをつくり、それを熱してアルコールだけを気化、冷却することを繰り返して作ったアルコール度40%以上のお酒のことだ。フランスで一番有名なのがコニャックで、白ブドウのユニ・ブランからつくられる。ノルマンディ産のカルヴァドスも造り方は同様だが、原料の70%以上はりんごであり、洋梨を混ぜることもあるという。10年以上ねかせることもあるコニャックは非常に味わいが濃く、口いっぱいにバーッと薫香とアルコールが広がっていく。カルバドスはコニャックよりはさっぱりしており、外側をカリッと焦がしたカヌレとの相性が抜群だ。「ワインは開けて10日もすると味わいが落ちてしまうけれど、蒸留酒は悪くならないのでちょい飲みの晩酌向き」と五鬼上さん。カルバドスは蕎麦かりんとうや芋けんぴとも合いそうで、疲れた夜の晩酌用に1本あってもよさそうだ。

世界中から生産者が一同に会し、あらたな食の世界を発見できるFOODEXは食を愛する人にはまたとないイベントだ。幕張は確かに遠いとはいえ、このために10時間以上飛行機に乗ってくる人たちも多いことを思えば、遠いからという理由で1年に1度の機会を諦めるのはあまりにもったいない。来年のFOODEXは3月10日から13日に開催される。

※パスキエのマカロンは楽天ショップ「あぐりの匠」で購入可能

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