11月8日、東京、渋谷でボルドーワイン委員会主催の白ワインのアッサンブラージュ・ワークショップ「芸術のワイン Bordeaux White」が開催され、白ワインに情熱を傾ける若手生産者が来日した。ボルドーといえば重厚な赤ワイン、というイメージが根強いが、今回の主役は最初から最後まで白。何故ボルドーであえて白なのだろう?
「実はボルドーは1970年頃までは白ワインの生産の方が多く、赤がメインになったのは意外と最近の出来事なんです。白ブドウの代表的品種、ソービニヨン・ブランもボルドー原産と言われており、ボルドーには素晴らしい白ワインをつくる高度な知識と技術が昔から存在するのです」とボルドーワイン委員会プレス担当のセシルさん。フランス最大のAOCワイン産地、ボルドーには65のAOCがあり、そのうち13の産地で白ワインが造られている。主な品種はソービニヨン・ブランとセミヨンで、栽培面積は約半々。ロワール地方やニュージーランド、オーストリアなど、世界各地で栽培される、白ブドウの代表的品種のソービニヨン・ブランは柑橘系、白い花を思わせる豊かな香りで、心地良い酸が特徴的だ。それに対してセミヨンはグラーブの白ワインに代表される、独特のリッチさ、クリーミーな味わいが特徴的で、ヘーゼルナッツや、はちみつをかけたトーストのような香りがする。フランスでのセミヨンの栽培面積は8千ヘクタール、そのうち6千ヘクタールをボルドーが占めているというからボルドーならではの品種といえるだろう。対照的なこの2つの品種をどうアッサンブラージュするかは醸造家の腕の見せ所。「アッサンブラージュというのは音楽のようなもの。様々な楽器を組み合わせることで美しい音色が生まれるように、複数の品種をブレンドすることで、より味わい深いワインが生み出されていくんです」とセシルさん。28歳という若手の女性生産者、ポリーヌさんは「アッサンブラージュは一人で頭を悩ませて行うものではなく、チームであれこれ考えながら追求する仕事」と言う。では実際にチームを組んでブレンドすると、どんなワインができるのだろう?
我がチームはソービニヨン・ブランとセミヨンを半々にすることから実験開始。半々にしたものを試飲すると、なるほど、足して2で割ったような味わいだ。どちらの良さもそれなりには出ているものの、美味しいというほどでもない。ではセミヨン:ソービニヨンを6:4にするとどうだろう?すると香りがふわっと華やかになり、後味も少し華やかで、甘さが増したよう。とはいえ塩気の足りない料理のように、どうも何かが欠けている。ではそこにソービニヨン・グリを足すと?ソービニヨン・ブランの突然変異で生まれたソービニヨン・グリはボルドーでも栽培面積が415ヘクタールと少なく、基本的には味を補完するのに使われるため、単一品種のワインを探すのはボルドーワイン委員会ですら至難の技だった。100%のソービニヨン・グリはオレンジピールのような香りで、グレープフルーツの白い皮のような独特の苦味が感じられる。さて、そんなソービニヨン・グリをほんの数滴先垂らしてみると、驚くことに香りに複雑味が増し、味がキュッと引き締まり、後味が非常に華やかに変化する。まるでグラーブの高級ワインのような豊かな味わいが目の前のビーカーで作れたことに驚きを隠せない。
一方でソービニヨン・ブラン:セミヨンを6:4と先ほどと逆の比率で作ってみると、白い花の豊かな香りが漂い、生き生きとしたフレッシュなワインができあがる。とはいえまだ少しドレッシングを思わせる強い酸味があるため、試しにソービニヨングリをほんの少しだけ注いでみると、きつい酸が中和されて華やかさが増し、ぐっと飲みやすくなっていく。このように、補完的な品種というのは決して無視できるものではなく、その数%が絶妙な塩加減のように引き締まるワインを造ってくれるのだ。