料理やガストロノミーの分野でさえ、フランス人は指標を見失うことがあるようだ。フランスでは調理済食品を卸業者から購入し、温めなおして提供する飲食店が増えている。そのため、フランス政府はメニューに自家製と表示する際、偽装しないことを義務づけた。この法律は完璧とまでは言えないが、来店した者はメニューに「フェ・メゾン(自家製)」の鍋マークが表示されていることで、それが料理人によって調理されたものだとわかる仕組みになっている。他のラベリングとして、シェフ達の仕事がきちんとしたものと評価されると与えられる、「メートル・レストラトゥール」という呼称がある。それ以降、彼らは自分の店のメニューは全て自家製だと言い張ることもできるのだ。
アラン・デュカスやヤニック・アルノのような偉大なシェフたちは、自らラベリングを創ることを選び、新たに「レストラン・ド・カリテ(質の高いレストラン)」というラベルを立ち上げた。とはいえ、またしてもラベルが増えるのは、フランスのガストロノミーを一層ややこしくするとは言えないだろうか。それに加え、彼らは自分たちと提携している生産者を認定する「アルティザン・ド・カリテ(質の高い職人)」というマークも創ったのだ。これでレストランの扉にますます多くのシールが貼られることになるが、それが消費者にとってわかりやすいとは言えないだろう。
偉大なシェフ達が質の良い生産物を大事にするとはいえ、彼らは巨大農産物企業にいつも立ち向かうわけではなく、共に仕事をすることさえある。フォワグラ、コーン、ブドウ畑に、遺伝子組み換え大豆で育った家畜など、小規模生産者の傍らには、自然を痛めつける大規模農業が存在する。フランスの農薬使用率は世界第3位となっている。その結果、蜂達が不気味な減少を続けている。フランス人は美しい風景と自然と美食文化とを上手く結びつけていないようだ。大規模集約型農業の問題については、残念ながら偉大なシェフ達からの声はあまり聞こえない。