11月8日、東京ステーションホテルにて、ボルドー甘口ワインマスタークラスが開催された。ボルドーから生産者たちが来日し、彼らの造るワインと和食とのペアリングを楽しむというものだ。ペアリングを提案したのはトップクラスの若手ソムリエ、銀座ロオジェの井黒卓さんと、東京ステーションホテル総料理長の石原シェフ。
ボルドーの甘口といえばソーテルヌという印象が強いものの、実際には上記写真が示すように、甘口ワインはカディヤック、ルピアック、セロンスなど、8つのAOC産地で造られており、ソーテルヌに比べてリーズナブルだ。また、ボルドー甘口は日本では手に入りにくく、高級で年代物のソーテルヌしか見当たらないようにも思うが、実は日本はボルドー甘口ワインの6番目の輸出先だという。ひとくちにボルドー甘口、といっても貴腐菌ではなく完熟したブドウで造るものもあり、控えめな甘さから極甘口まで甘さの度合いも様々である。
控えめな甘さのワインは酸と甘みのバランスがよく、意外なほど和食に合っている。それもそのはず、スイート・ボルドーの味わいは梅酒と共通点が多いのだ。熟したあんずや年代物の梅酒、干し梅と似たニュアンスをもつスイート・ボルドーは、実は白ワイン以上に伝統的な和食に向いているかもしれない。「柚子豆腐 クリームチーズ 東京べったら漬け」と「Château Laurette シャトー・ロレット2016」のペアリングでは、ワインのもつ柑橘系の爽やかさと甘みが、カリカリっとしてほんのり甘みがある漬物と見事に調和。何度も日本に来日しているルーピアック・ゴーディエのニコラさんが造るワイン、「Château Loupiac Gaudiet シャトー・ルーピアック・ゴーディエ2017」のアンズのようなさわやかな甘さは、「白もろこし寄せ はちみつ風味の干し柿添え」のアンポ柿の甘さやデザートのクリーミーな食感を上手に和らげてくれ、絶妙に合う。
往々にして甘口ワインは甘ったるく、重いため、食事には不向きではと思われがちだが、実は料理をより軽やかに味わえるような、心地よい酸のある甘口ワインも数多く存在するのである。うまみのある和食やみりんを使った料理、酢を使って酸味を効かせた和食にも、スイート・ボルドーは絶妙にマッチする。「スイート・ワインはアペリティフにも向いており、氷を入れて飲むのもおすすめ」と井黒さん。氷を入れたらますます梅酒ロックのようではないか。懐石料理の店にもいつの日か、日本酒やビール、白ワインに加え、スイート・ボルドーがメニューに載る日が来るだろうか。ペアリングの相性の良さを知れば知るほど、そんな日が来るのも近そうだ。