日本在住46年というコラスさんは流暢な日本語で思い出を語ってくれる。「このビルを建てるとき、何かテナントを入れるのではなく、自分の考えで店をやりたいと思ってパリの3つ星を全部巡ったんです。あの時は楽しかったなぁ。それで一番考え方や価値観が合うと思ったのがデュカスさんなんです。この人は分野は違うけれども同じ言葉を使っていると。」シャネルとアラン・デュカスのレストランに共通するもの、それは伝統を尊敬しながら現代性を求めることだという。ベージュはまさにそれを具現しており、前菜からデザートに至るまで、料理に通底するのは繊細で、かつ記憶に残る深い味わいだ。アラン・デュカスの料理哲学を受け継ぐ総料理長の小島景さんが、伝統を大事にしつつも、珍しい穀物やこだわりのソースを皿の上で組み合わせ、繊細でモダンな味わいを表現する。選び抜かれた食材の組み合わせが、目や舌に心地よい刺激を与えてくれる。
来日したアラン・デュカス氏にもお話を伺った。アラン・デュカス氏は、高級フランス料理だけでなく、パリのビストロの擁護者としても有名なのだ。「私はレストランもビストロも両方好きで、どちらも経営しています。レストランはビストロよりフォーマルで、より美食が追求される場所。ビストロの特徴は伝統的なフランス料理、温かみのあるもてなし、お客さん同士の和気あいあいとした雰囲気、カジュアルさだといえるでしょう。ビストロはフランス社会において重要な役割を果たしていると思います。ガストロノミーやフランス文化への入り口という点で、特に外国人にとってはレストランより入りやすい。ビストロはフランスのエスプリに直に触れられる場だと思います。」デュカスさんは近々ビストロについての本も出版するという。「パリの130のビストロやシェフを紹介する本を間もなく出版します。その名も”Bistro de Paris”(パリのビストロ)。パリのビストロをユネスコの文化遺産に、という動きにも共感し、支持しています。フランス文化やフランスのエスプリを保っていくのにとても大事なことだと思いますから。」
パリでは今日本人シェフが注目されているが、この傾向は今後も続くのだろうかと尋ねると「日本人シェフは一過性の流行ではありません。日本人は料理へのこだわりが強く、フランスの食材が好きな方も多いので、季節感に溢れて食材の多様性があるパリのレストランで働くのが性に合っているのだと思います。3年間ベージュで働いた関根拓シェフは、今ではパリのDersouという店のオーナーシェフです。私たちのグループ全体では日本人が20人近くいるんですよ。」ビストロは伝統を追求し、ベージュは現代性を求めるレストランだとアラン・デュカス氏。しっかりとした伝統の基礎を生かしつつ、私たちの目と舌に新鮮な驚きを与えてくれるベージュの料理。とはいえこの店が一番大事にしているのは、おいしい食事とワインを囲んで、大事な人との楽しい会話が生まれる至福の時間を提供することなのだろう。日本のモード界を変えていったコラスさんの大奮闘記を聞きながら、まさにこうした楽しい時間を共有するためにこの店が生まれたのだと腑に落ちた。料理もワインも空間もスタッフも、さりげない繊細さの中に裏打ちされた経験がある、そんな店だからこそできる話や起こる経験、それがここにはありそうだ。
ベージュ アラン・デュカス 東京
東京都中央区銀座3−5−3 シャネル銀座ビルディング10階
電話:03 5159 5500
ランチ 11h30-16h (LO 14h)
5900円(平日のみ)、9000円(税込・サービス料別途)
ディナー 18h-23h30 (LO 20h30)
16000円、20000円、24000円(税込・サービス料別途)
月・火 夏季、年末年始休
屋上テラスは9月26日から10月31日まで期間限定オープン
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