日本にはパリの情報が溢れてる。レストラン、パティスリー、ブランジェリー、パリジェンヌの生き方に至るまで、これでもか、というくらいにガイドの類が存在する。だが掲載されている情報が必ずしも本当のパリを映し出しているとは限らない。
パリに着き、有名雑誌やガイドが謳う店に足を踏み入れると、驚くことにそこはパリではないかのようだ。ガイド片手にやってきた世界中の観光客、流暢な英語を話す店員たち、そして目を疑いたくなるような高価な値段がそれらの店の特徴だ。パリのビストロに来たはずなのに、ニューヨークにでも来たのかと思うほどインターナショナルな店内にはパリジャンたちの姿はあまり見受けられない。それもそのはず、彼らはそんな店にはほとんど行かないからだ。
その理由の1つは高すぎて、コスト・パフォーマンスが悪いこと。何故「ラザール」の朝食は、クロワッサンとジュースとカフェ・オ・レだけで10€もするのだろう?クロワッサンはサクサクで素晴らしいかもしれないが、何故か紙袋に入って提供されるのも興醒めだ。オデオンにある有名店、「コントワール・デュ・ルレ」のメインは昼でも1皿20-25 €前後だが、この値段を出せば多くの店では前菜かデザートも食べられるし、特に感動するほどの味わいというわけでもない。観光客でごったがえす店内ではギャルソンは注文をしっかり把握する余裕すらみせられない。ビストロとして著名な「ポール・ヴェール」や「シース・ポール・ヴェール」は土曜には1皿25€の予算では何一つ食べられない。
そんな値段をパリジャンたちがさらっと払えるかといえば、答えは「ノン」に決まってる。だからこうした店は本当に特別な時にしか使われないが、こだわりのあるパリジャンたちが特別な時にお金を払うなら、もっと観光客が少ない自分好みの店を選ぶだろう。そういうわけで、これらの店に入るのは大抵がガイド片手の観光客と、田舎から上京してきたフランス人、そしてそんな店に普通に入れるスノッブなパリジャン、という構図になってしまう。そんな人が多くなると店員も上から目線で注文をとってただ運べばいいという感じになりがちで、店の雰囲気も心地よいものとはいえなくなる。常連客を大切にする個人経営の店と、一見の観光客が集まる慌ただしい雰囲気の店とでは、同じお金を払ったところで得られる満足感には雲泥の差があるものだ。
観光客が多すぎたパリは高めの値段設定でもなんとかやってきた。だがテロの影響で観光客が減った今、こうした値段設定の店は自分たちの首をしめつつあり、空席が目立つ店も増えている。パリまで勇気を振り絞って行った今、私たちが望むことは何だろう?観光客向けのやたらと高い店で英語にまみれて過ごすこと?日本人だからといって、誰しもが昼食に4千円も払えるほど裕福だろうか?せっかくだからパリジャンたちの日常に溶け込みたい、と思ったなら、彼らが通うビストロやカフェに足を踏み入れた方がよいのでは?Paris-Bistro.comは基本的に個人経営で情熱のある主人やシェフのいる店しか扱わない。それらは日本のガイドブックには載っていないかもしれないが、扉を開けたとたんに雰囲気の違いを感じる店だ。そこではいつもフランス人たちがリラックスして、友人や店員とのコミュニケーションを楽しんでいる。英語メニューがあったとしても、いきなりハローと言われることはまずないだろう。パリには今でも、できる限り美味しいものを手に届く値段で提供したいと日々努力しているビストロの主人やシェフが存在する。そこにはまるでフランス映画に出てくるような日常のワンシーンが存在し、ああまさにパリに来たという気持ちになれる。せっかくだから気取らないパリの日常を味わいたい、そんな人には是非私たちのおすすめビストロを訪れてみてほしい。きっと他のガイドとはまた違う、緊張してた気持ちも和らいでしまう、そんな店に出会えるはずだから。