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シャンパーニュ・アカデミー

一口にシャンパーニュ、と言っても飲み比べると、どれも味わいが違って奥深い。日本には約300種類のシャンパーニュがあり、そのうち25種類をゆっくりと味わってみようというのがシャンパーニュ・アカデミー。プロではなく、消費者がもっとシャンパーニュのある暮らしを楽しめるようにという目的の講座の様子を伺った。

雨の降りしきる東京の午後、ホテル・ニューオータニの庭園に面したフランス料理店に集まった女性たちが、じっくりとシャンパーニュのグラスを眺めている。10月5日はシャンパーニュ委員会日本事務局主催の「シャンパーニュアカデミー基礎クラス」の1日目。高級フランス料理店、トゥール・ダルジャンが会場という優雅な会では、参加者たちが、沢山のグラスを前に真剣な表情で色合いを眺め、口に含んで味わいを表現し、味わいをメモしている。

このアカデミーは今年で13回目を迎えている。「日本にはソムリエやワインエキスパートの試験に合格するためのコースはいくつかあっても、プロでなく消費者が賢くシャンパーニュを楽しむためのクラスというのがなかったんです。このアカデミーはあくまでも消費者のためにつくられていて、次の3つのポイントを大事にしています。1つ目は銘柄から自由になり、それぞれの味わいを楽しむこと。2つ目はシャンパーニュが温度の変化や料理との組み合わせでいかに味わいが異なるかを知ってもらうこと。3つ目はプロのようにではなく、自分の感覚を大切にして味を表現すること」とシャンパーニュ委員会代表の川村玲子さん。各回につき5銘柄、全5回で25銘柄を楽しめるこのアカデミーは、シャンパーニュ好きに愛されており、もう6回目だという方も。いくら好きでも高くてなかなか買えないシャンパーニュをこうして沢山試すことができるのも、アカデミーの人気の秘訣。それでもシャンパーニュには5千社があり、1社2銘柄だとしても1万くらいは種類があるので全て試飲しようと思うと途方に暮れそうだ。

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コースはトゥール・ダルジャンのソムリエ、森覚さんによるシャンパーニュの説明で始まった。シャンパーニュというワインは次の3つの条件を満たしていないとシャンパーニュいう厳しい品質表示を許可されないという。1つ目に、フランスのシャンパーニュ地方で造られている発泡性のワインであること。2つ目に限定されたブドウの品種を使用すること。3つ目にシャンパーニュ方式の醸造法で造られていること。

シャンパーニュになるぶどうは全て手摘みで収穫され、いい部分だけが出て来るように贅沢に圧搾される。搾られたブドウは、イースト菌や酵母を入れて畑や品質ごとにタンクで一次発酵される。次に、アッサンブラージュといって、異なる畑、品種、や収穫年のワインをブレンドする。シャンパーニュは他のワインと違い、基本的には2−3年分のワインを調合してそのメゾンにあった味を調合するのが特徴的だ。ここでどんな味わいが出せるかが各メゾンの腕の見せ所。アッサンブラージュのあとは、酵母と糖分を加えて瓶詰めする。
瓶に詰められたワインは瓶内で二次発酵される。これもシャンパーニュの大事な特徴で、通常のシャンパーニュで最低15ヶ月、「ミレジメ」と呼ばれるその年のヴィンテージワインだと最低3年間地下の貯蔵庫で寝かせる。その後、ワインの澱を瓶の口の方に貯めていく作業をし、マイナス20度くらいの塩化カルシウム溶液に栓をつけ、凍らせて一気に澱を取り除きます。最後に、ドザージュといって、リキュールを加える作業をして終了。シャンパーニュは手摘みな上にこれだけの手間がかかっているので値段が高くなるわけだ。

さて、お話の後は待ちに待ったテイスティング。森さんによるテイスティングのルールはというと、「欲望のままに飲まない」こと。驚いたことにシャンパーニュ好きの人たちばかりであろう会場に溢れたグラスの多くは終了間近になってもかなりシャンパーニュが残ったまま。静寂な雰囲気の中、真剣に味と向き合い、比較し、言葉を探す。楽しむ、とはいえしっかりと学ぼうとする雰囲気なのはさすがアカデミー。「グラスは足の方を持つ」「あまりグラスは回さない」「泡をよく見る」などのポイントを教わっていざテイスティング開始。

テイスティングのコツはというと、とにかく経験だという森さん。「ソムリエは悪いことは絶対言わないんですよ。例えば「酸っぱいシャンパーニュ」って言われてもあまり飲みたいと思わないですよね?それが「酸味が豊かなシャンパーニュ」だとほめてる感じに聞こえませんか?なるべくほめる。いいことを言う。これがコツです。「こもったような・・・」を「ミステリアスな」って表現してみると何となくよく聞こえるでしょう?」森さんの面白いお話の中、一人一人が感想を表現していくと、言葉少ない人もあれば、慣れた感じで「エルダーフラワーのような」とか「グレープフルーツを切った時の感じ」、「泡立ちがクリーミーできらめいている」と表現する人も。テイスティングというのは表現力の勉強でもあるのだと実感。今回は5種類のうち2つずつ、同じメゾンのものが含まれていたものの、糖の加え具合、酸化防止剤のあるなしで味も色合いも全く異なっていて、シャンパーニュの奥深さに驚かされた。

「シャンパーニュは水の何倍も値段がします。だったら水と同じようにただ「美味しい」と言うだけじゃなく、それなりのコメントをしてあげた方がシャンパーニュも喜ぶと思いませんか?」と森さん。こうして比較し、言葉を考え、誰かの表現にヒントをもらって味わいを的確にし、自分の頭にストックしていく。こうすることで次に飲むときにより味わい豊かに感じられるようになるという。シャンパーニュは確かに高い。だからこそ、その一杯をより味わい深く楽しめるように、アカデミーが存在するのだろう。

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