11月28日、代官山のバンケット・パッションにて第2回シュッド・ウエストワインデーが開催された。ボルドーやブルゴーニュに比べるとまだ馴染みの薄い「シュッド・ウエスト」はフランスの南西地方という意味で、ワイン産地としてはボルドーの南、ラングドックの西側に位置する地域。ベルジュラック、カオールなど、29ものAOCを含む広大なワイン産地だ。南西部といえばガストロノミーの本場として有名で、鴨のコンフィやカスレなど、ビストロで愛される多くの料理がこの地方発祥だ。

フランスでは美食の地、素晴らしいワイン産地として知られている南西部だが、日本での知名度はどれほどなのだろう?2013年から日本でのキャンペーンを開始したというシュッド・ウエストワイン委員会。輸出責任者のナタリーさんは、「日本はシュッド・ウエストの輸出先第7位。ワイン愛好家にはだいぶ知られてきたものの、まだまだ一般消費者は知らない状況」だと語る。だからこそ一般消費者に直接ワインを知ってもらうため、ビストロでのワインと料理のマリアージュの会も開催するという。
当初からキャンペーンに協力しているソムリエの石田博さんは、今年11年ぶりに日本のワイン消費量が下がったことをうけ、その理由は特に業務用の販売が低下したこと、その原因としては内食傾向が進み、飲食店でワインを注文する人が減ったからだと分析する。「今では家に立派なワインセラーや素晴らしいブルゴーニュ、レストランよりいいグラスをお持ちの方も沢山いらっしゃいます。自宅でレストランより上質なワインを飲んでいる方が多い中、飲食店がすべきことは、一般消費者が到底家ではできないことをすることなのです。その1つがワインと食事とのペアリングだと思います。」と石田さん。また、今後は店舗に合ったワイン選びをすることが重要だと強調する。高級フレンチだけでなく、カジュアルで親しみやすいビストロも増えてきた中、店でのワイン選びはいまだに「まずボルドーにブルゴーニュ、それにシャンパーニュも外せない」という考えが主流のままだという。これからはもっと店のスタイルや料理に合わせたワイン選びに重点を置くべきなのだ。だとすれば、ビストロメニューの定番、鴨のコンフィやシャルクトリの盛り合わせ、鶏のバスク煮込みなど、南西部発祥の料理と合わせるべきは、カジュアルで食事を楽しむために作られたシュッド・ウエスト産ワイン、というのも自然な発想かもしれない。
シュッド・ウエストのワインは非常に多様性に富んでいるため、一口にこうだと語るのは難しい。土着の品種も数多く、つい聞き返してしまうような耳慣れない品種も多い。また、カベルネ・ソービニヨンやメルローなど、国際的品種に土着品種をブレンドすることも多いため、味わいも生産者ごとに様々だ。とはいえ全体的なイメージとしては、コクがあり、しっかりした味わいの赤ワインが多い地方といえるだろう。だからこそ、鴨や肉をふんだんに使ったフランスの郷土料理にぴったりとくる味わいなのだ。1970年に来日し、南西地方の料理の普及に尽力してきた「レストラン・パッション」のアンドレ・パッションさんもシュッド・ウエストワインを応援しており、この日のために料理を用意してくれた。カルカッソンヌ出身のアンドレさんにとって、南西部はフランスの中で一番美味しい料理と一番美味しいワインがある地方。店の料理はほとんど息子さんに任せているとはいえ、今でもカスレだけは自分で作るという。なめらかでとろける味わいのカスレには、シュッド・ウエストの、なめらかでエレガントな味わいの赤ワインが非常によく合っている。



バスク風オムレツやキッシュ、肉のパイ包み、ピエール・オテイザさんのシャルクトリなどには、こくのある味わいの白ワインや、他の地方に比べて味わいのハッキリとしたロゼワインがよく合っている。また、鴨のコンフィやブッフ・オ・マディロン・ブレゼなど、いかにもフランス料理といった味わいの濃いものには、さすがにシュッド・ウエストの赤ワインがぴったりだ。特にAOP マディランの赤ワイン、「シャトー・ダイディ 2012」(タナ100%、小売価格約3200円)はエレガントでコクがあり、しなやかな味わいが印象的だ。うっとりするような心地よい余韻が残り、濃いめの料理にもしっかりと合う。それもそのはず、このブドウは南向きの日当たりのいい丘に面しており樹齢30年〜50年のヴィエイユ・ヴィーニュで、かつ3年も熟成されているという。シュッド・ウエストのワインはフランス全体でみても低価格帯のものが多いため、この地方のワインで2千円を超えているのであれば、かなりの味わいが期待できるといえるだろう。素晴らしいガストロノミーとワイン産地としての伝統を受け継いできたフランス南西地方。日本ですでに著名となったこの地の料理だけでなく、ビストロに行けばシュッド・ウエストのワインもごく普通にメニューに記載されている、そんな日が早くきてほしい。
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