11月30日〜12月1日の2日間、東京、広尾のフランス大使公邸にて「フランス、美食の余韻 Food Experience 」が開催された。このイベントは、フランス高級食材のストーリーを、味わいながら知ってもらうもの。初回の今年はシードル、バター、チーズ、ビスケット、ジュースやチョコレートなど15のブランドが集結し、生産者も多く来日。「日本とフランスではガストロノミーという点で共通点が多い。日本には厳しい目をもつ消費者が多く、ミシュラン星つきレストランの数も世界でトップクラス。質が高く、安全で手頃な価格のフランスの食品は日本の消費者の高い期待に応えるものだ」と主催のビジネス・フランス代表のティボーさん。その中でも特に印象に残ったものをご紹介したい。
まずは個別セッションにて紹介された、ハチミツを発酵させたお酒のミード。2020年創業という新しい会社のブル・ド・リュッシュは新感覚のスパークリングミードを造っている。ミードは紀元前1万年以上前から存在したと言われる、人類最古のお酒で、古代ギリシャ神話でも神のお酒として崇めらてきた。こちらのミードはハチミツに水と酵母を入れて発酵させ、最後に炭酸を加えて造ったもの。アルコール分は4.5%程度と軽やかで飲みやすい。解説を行ったファビアンさんの原点は、バカンス先で母親の思いつきで13種類のハチミツの食べ比べをしたことだ。テロワールや花によって味わいが全然違ったことを今でも鮮明に覚えているという。会社は新しいものの、フランスではすでにヒットしており、著名な星つきレストランでも提供されている。
試飲した「ブル・ド・リュッシュ・ラベンダー」は南仏プロヴァンスのIGP認証を受けたラベンダーハニーを使用。ラベンダーの苦味やチーズを思わせる独特の香り。口に含むと、薄いハチミツの味とラベンダーの軽やかでエレガント、ほんのりした苦味が感じられる。「ブル・ド・リュッシュ・ライチ」は、マダガスカル産ライチハニーを使用しており、ライチとハチミツを足して割ったような香りで、ゲブストラミネールのワインを思わせる。味わいはラベンダーに比べてハッキリしており、芳醇でマスカットのニュアンスがある。ソムリエの田邉公一さんは、ラベンダーには、とろっとしてコクがあり濃い味わいのバノンという南仏のチーズを、ライチにはシャインマスカットを合わせることを提案した。
また、フランス西部の港町、ラ・ロシェルと橋で繋がっているレ島で生産されている「イル・ド・レ・ショコラ」も非常におすすめ。フランスにおける天然の海塩の表面、フルール・ド・セルの三大産地はゲランド、カマルグ、レ島であり、レ島は伝統は長いものの、生産量は一番少ない。フルール・ド・セルは素材の味わいをしっかり活かすのが特徴で、チョコレートに独特の甘塩っぱさを与えてくれる。また、ラ・ロシェルを囲むポワトー・シャラントはAOPバターの一大産地で、「イル・ド・レ・ショコラ」はフルール・ド・セルやAOPバターを活かしたショコラを造る家族経営の会社である。
数多くのショコラの中でも特におすすめなのが、真珠のような形の白いトリュフ。日本用に作られた特別なトリュフで、AOPバターを使用しており、ふくよかでリッチな味わいだ。中にはプラリネも入っており、そのカリカリ感と、フルール・ド・セルの塩気が非常に心地よい。はじめは口の中で甘くとろけ、最後に塩味の効いた余韻が長く続く。様々な味わいが一粒で楽しめ、驚きや発見のある味わいだ。「イル・ド・レ・ショコラ」はカカオの品質にこだわり、カメルーンから直接調達し、現地での生産をサポートしながら信頼できるカカオづくりを行なっている。どれも甘さと苦さのバランスが絶妙で、カカオの上質さ、丁寧な仕事、ショコラティエの舌の素晴らしさが、一粒のショコラから伝わってくる。日本での直営店はまだないが、来年1月からのバレンタインの催事場を中心に販売するという。これだけの質の高さと心地よい余韻なのに、価格は驚くほどリーズナブル。見つけたらぜひ手にとってみてほしい。
美味しいショコラがあるとコーヒーが飲みたくなるが、そのお供といえば上質さで知られるラ・ペルーシュ。エッフェル塔が完成したパリ万博で、すでに金賞を受賞していた歴史あるラ・ペルーシュは、エスプレッソやコーヒーを絶妙なほろ苦さに調節してくれ、数多くのレストランやカフェで愛されている。
また、フランスで有名なガレットの生産者、サン・ミッシェルはマドレーヌを提供。こちらのマドレーヌは業務用で、冷凍されたものをオーブンやトースターで190度で3分半〜4分半焼くだけで出来上がる。焼き上がると周りの皮がこんがりカリッとし、中はふんわりと、フランス産のコクがあるバターたっぷりで、まさにコーヒーによく合う味わいだ。
日本でも非常に人気のバター、エシレは無塩バターと有塩バターを食べ比べできるブースを出していた。エシレはエリゼ宮御用達のバターであり、エシレ村から半径50キロ以内の契約生産者の生乳でバターを造っている。無塩と有塩を食べ比べると、同じバターとパンであっても、たった2%の塩を加えるだけで、いかにバターにコクや風味が感じられ、バターやパンの味わいがくっきりするかというのに驚かされる。塩というのは素材の輪郭を際立たせるという話があったばかりだが、なるほどと納得する経験だった。
バターは他にも3%程度のフルール・ド・セルを加えたラ・バラット・ボルドレーズがあり、こちらは非常にクリーミーでやわらかく、とてもまろやか。最高の美食をボルドーに取り戻すという意志で生まれたバターで、乳酸発酵のゆっくりとした熟成と、シャラント・ポワトゥーの厳選されたクリームを組み合わせ、伝統的な方法で製造している。エシレよりも塩分が控えめに感じられるため、塩気の効いたパンにも非常によく合いそうな上質感溢れるバター。
美食の国フランスの美味しいものを食べ始めたらキリがないが、美味しいのはその裏に作り手のこだわりがあってこそ。バターや砂糖という身近なものでも、量産品で安いものを使うのと、フランスのこだわりの製品とでは、毎日のパンやコーヒーの味わいが大いに変化し、毎回の幸福感にも差が出るものだ。せっかくなら少し高くても美味しく幸せな時間を味わいたいという人に、ぜひ味わってほしいフランス食材。上記は本当におすすめなので、見かける機会があればぜひ試してみてほしい。
【問い合わせ先】
イル・ド・レ・ショコラ ジェイ・インターナショナル株式会社
ラ・ペルーシュ アルカン
エシレ 片岡物産
By Miki IIDA