11月20日から21日の2日間、東京のフランス大使公邸で「第2回フランス美食の余韻 FOOD EXPERIENCE」が開催された。「フランス美食の余韻」は高品質で多様性があるフランスの高級食材や飲料に特化した商談展示会。より多くの日本人に自社製品の魅力を味わってもらうため、クッキー、バター、シャンパーニュ、チーズ、チョコレートなどの24ブランドが参加した。また、今回はフランス料理の新しい食のトレンドとして、進化しつつある植物ベースの加工食品なども取り上げられた。
会場の奥ではプレス向けのデモンストレーションが開催された。ひとつめは東京の学芸大学に新店舗「グテ」をオープンしたばかりの、セバスチャン・ブイエ氏によるプレゼンテーション。実力と想像力に溢れたリヨン出身のパティシエ、ショコラティエの彼は、リヨンに拠点を置く一方で、18年も前から日本で活動を続けてきた。
「グテ」は子供時代のおやつの時間を思い起こす、どこか懐かしく、遊び心のあるパンや焼き菓子を中心にし、一日中焼きたてのあたたかいお菓子を提供する店だ。セバスチャン氏の父親もパティシエで、彼の父や祖母が作っていたシンプルで美味しいお菓子や家族で食べたお菓子の時間の思い出を大切にしたいという。
今回提供された「クッサン・ルージュ」はクロワッサン生地にクレーム・パティシエール、リヨンのプラリネ、フランボワーズのコンフィチュールを使用。生地は想像以上にパリパリ、サクサクしており、真ん中にある赤いコンフィチュールが口の中でとろけ、カリッとしたプラリネとともに素晴らしいアクセント。ブラウニーとクッキー生地をかけあわせた「ジェニー」は、大ぶりのクッキーとブラウニーを足して2で割った感じで、歯ごたえはサクッと、中身はブラウニーの柔らかさ。しっかり甘みが効いているので、頭が疲弊した午後のコーヒータイムにおすすめだ。
ふたつめのプレゼンテーションはボルドーから来たアスナ・ショコラのアスナ・フェレイラ氏。モロッコ出身の彼女は2009年にフランスに住み、数々の仕事を経験した後、本当に自分のやりたいことは何か自問自答し、ショコラティエの学校に通った後で自分の店を立ち上げた。2014年、30歳の時に起業し、たった2年後の2016年にはフランス最高ショコラティエに選ばれたというから驚きだ。彼女は2017年に来日し、ボルドーと書かれた箱に入ったショコラを販売しながら、日本のお客さんに「ボルドーって書いてあるけどワインはどこ?」と言われたという。それがインスピレーションの源となり、ワイン風味のショコラの開発を手掛け、今では数多くの格付けシャトーとコラボして、テロワールの味わいを感じられるショコラを作っている。
彼女のショコラに使われるワインは、樽熟成される前のワインの澱なため、樽香がついておらず、ブドウ本来のテロワールの味わいが表現されている。試食したボルドー右岸、サン・テミリオンのショコラは、優しい甘味と軽めのタンニンが感じられる深みのある味わいだ。ボルドー左岸のメドック、サン・ジュリアンのショコラは、だいぶコクがあって味が濃い。カベルネソービニヨンの力強さがよく現れており、ショコラの濃さとワインの濃さが絶妙なハーモニー。「ワインのテロワールを表し、そのワインの親善大使となるようなショコラを作りたい」とアスナさん。
最後はフランスが誇る料理学校、ル・コルドンブルーのエグゼクティブ・シェフ、ジル・カンパニー氏による料理のデモンストレーション。フランスの伝統的な料理「卵のミモザ風」を、会場で出展している企業の食材を使ってモダンにアレンジ。ジルさんはビーツやマルセル・センチュウ社のビーツのケチャップをふんだんに使用しながら、ゆで卵の表面をピンクに色付け、黄身も黄色ではなく少しピンクがかった色に変え、球体形成という技術を使ったイクラ状の食品「フレーバーパール」を紫色に色付ける。ユーモアを混じえつつ、料理のコツをわかりやすく教えてくれ、話す一方でどんどん調理は進んでいく。デーツのケチャップにこだわったのは、酸味と甘味のバランスが絶妙で、色も美しく、ナチュラルな味わいだから。ケチャップといえば普通はトマトケチャップで、ありきたりの工業製品といった味わいだが、デーツのケチャップはフレッシュで自然な味わいがあり、料理をより洗練してくれる。
確かな技術と溢れるユーモア、流石コルドンブルーと思わせる、上質で洗練された味わいの「鶏の卵ビーツ仕立て 白バルサミックビネガー&トリュフのフレーバーパールをあしらって」をいただくと、そういえば自分もコルドンブルーで勉強したかった・・・という忘れかけていた夢がつい芽生えてきてしまう。世界20ヵ国に広がるコルドンブルーには料理、パティスリー、ブランジェリーのディプロマだけでなく、ワイン&マネンジメントや植物ベースの料理のディプロマもあるという。基礎のインテンシブコースは6週間で受講可能。
会場には試食しきれないほど多くの食品が並び、フランスの食の豊かさがこれでもかというほど表現されていた。美食の国、フランスはたった1日では理解できないほど奥が深く、現地に行くとその深みに圧倒されるものである。単に食べ物が単体で美味しいというだけでなく、やはり誰かと一緒に食を囲む時間を楽しむという食文化あってこその奥深さ。フランスの美味しい食べ物を通じて、少しでもそんな美食の余韻に触れてみてほしい。
by Miki IIDA