12月7日、フランス大使公邸にてボルドー&ボルドー・シューペリュールワイン ソムリエコンクール2017決勝が開催された。日本初となるこの大会の優勝者はボルドー&ボルドー・シューペリュールワインを日本で広める大使として認定される。予選に参加した60名あまりのソムリエの中から、ティエリー・マルクス・ジャパンの谷川雄作さん、筥崎宮迎賓館の千々和芳朗さん、ロオジエの井黒卓さん、ホテルニューオータニの野坂昭彦さん、Clos Yの中西祐介さんの5名が決勝進出。一人、また一人と緊張した面持ちで決勝審査に向かっていった。

ソムリエコンクールというとワインの産地やブドウ品種、生産年度を的確に当てるイメージだが、主催がボルドーのワイン組合というだけあって、提供されるワインは全てボルドー産だ。そのため、ボルドーワインについてのプレゼンやマリアージュの提案の的確さも重要な判断基準となっていた。まず1つめの課題は、ボルドー、ボルドー・シューペリュールワインの大使になったとして、英語またはフランス語でセミナーを開くというものだ。この課題は1週間ほど前に告げられたといい、普段仕事でパワーポイントを使わないソムリエたちは随分苦労したという。相当な語学力も要求される上、誰もが知っていることを述べてもつまらない。セミナーの中では居酒屋の料理とのマリアージュ、大学生にもっとボルドーを広めるべき、おひとりさまをターゲットにすべきなど、個性的な視点があった。2つ目の課題はグラスに注がれた赤ワインの味わいを選択言語で分析的に述べるもの。こちらは普段からコンクール慣れしているソムリエ達だけあって、外観から香りの印象、空気接触後の香りの変化、味わいや熟成期間や方法まで、事細かに上手に述べていた。
3つ目の課題は4種の白ワインの中から、”Huître Merguez”と”Agneau de Lait”に合うワインを選び、その理由を日本語で述べるもの。これは割と難題で、「ユイットル」がフランス語で牡蠣というのはすぐにわかるが、そのあとの「メルゲーズ」が何を意味しているのかは多くのソムリエも、フランス人の参加者ですらわからない。5番目に出場した、ボルドーのレストランで働いていたという中西さんが「ユイットル・メルゲーズとは、生牡蠣に羊肉のソーセージのグリルを添えたもの」と説明したことで会場もようやく納得。また、「アニョー・ド・レ」もアニョーがフランス語で仔羊というのはわかるが、その後の「ド・レ」というのがどういう意味かは知らないとわからない。これは母乳で育った、という意味であり、素晴らしい肉質の貴重な仔羊のことを指している。ミルクやクリームがかかった料理を想像してしまいがちだが、そうではなく上質な肉の質感を活かして焼いたもので、味付けは塩コショウやハーブ程度だという。どちらも難問とはいえ、聞いてすぐにわかるだけのベテランとしての素質が試されたということだろう。
4問目は黒いグラスに注がれたワインをフラッシュでテイスティングし、ビーガンの客に向けてこのワインに合った料理を提案するもの。ビーガン、というテーマにソムリエたちも一瞬目を丸くし、会場もざわついた。5人ともワインがボルドーのロゼであるということを見事にあて、それに合う野菜中心の料理を提案したものの、それにクリームをかけてというコメントや魚料理にというコメントも何度か飛び出した。ビーガンにも定義は様々あるようだが、厳しいビーガンの場合は絶対菜食主義者で肉はもちろん、乳製品も魚も食べないという。これはかなりの難問とはいえ、「2020年のオリンピックに向け、海外から多くのお客様がいらっしゃる中、世界の食文化の潮流を知っておくことは非常に重要。ビーガンは特殊とはいえ知っておいて欲しかった」と審査委員長で日本ソムリエ協会常務理事の森覚さん。最後の難関はホストのカトリーヌさんを含めた10名のお客様にマグナムワインを提供するもの。こちらは流石プロ、皆仕事にとりかかる手つきが慣れており所作もとても美しい。とはいえマグナムワインをデカンタージュし、試飲し、ホストの外国語での質問に答え、女性客から注ぎに行き、ときちんとしようとすればする程時間が足りず、時間内で注ぎきれたのは5人のソムリエのうちたった一人。途中でデカンタの底からワインが漏れるなど、ハプニングもある難問だった。(写真左から中西祐介さん、井黒卓さん、野坂昭彦さん)
今回決勝に出場した5名は日本が誇る若きトップソムリエたちで、審査委員長の森さんは「彼らは全日本最優秀ソムリエのファイナリストでもおかしくないような顔ぶれ」であり、彼らゆえに問題の難易度も高く設定したと述べていた。外国語でのプレゼンテーションから味の分析、優雅で間違いないサービスまで、全てを高度にこなさなければいけないソムリエ達はどれほどの能力が要求されていることか。