11月24日〜25日、東京の浜松町で、第10回イタリア料理専門展、 »ACCI GUSTO »が開催された。アッチ・グストは日本イタリア料理協会主催の、イタリア全20州を感じる食の祭典。ここに来ると「イタリアの食はやっぱりすごい!」の一言だ。

アッチ・グストのすごさは、食の展示会の中でも飛び抜けて出展者の気前がいいことだ。イタリアのマンマの食卓のように、「これでもか!」という程、美味しいものが待っている。上質なチーズにワイン、信じられないほど美味しいナポリのピザに、冷凍でも非常に質の高いティラミスや、感動的なエスプレッソ。そしてもちろんここで味わうパスタの茹で加減や美味しさは、そこらのカフェと比べ物にならない。イタリアの食文化に魅了され、それを追求し続けた料理人が集まる場だからこそ、ここには優れたものが一堂に会するのだろう。とはいえプロが集まるからといって閉鎖的な雰囲気ではなく、大きなサークルのように和気あいあいとした雰囲気なのがとてもイタリアらしい。ここでは、その中でも特に印象に残ったものをご紹介したい。
まずはイタリアで有名なビール「ペローニ ナストロアズーロ」。ペローニは1864年に創られた歴史ある会社で、ローマ、パドヴァ、バーリに工場がある。このビールは口当たりがとても軽く、普段はビールが苦手な人でも飲みやすい。軽やかさとほんのりした苦味が心地よく、うまみのあるパスタや塩気の効いたピザ、そして魚介類に合いそうだ。ちなみに本場イタリアでは、ピザを食べる時に飲むのはワインではなくビールであり、ペローニは日本のピッツェリアを中心に展開している。瓶だけでなく、生ビールの扱いもあり、泡立ちのきめ細やかさは写真の通り。軽やかで料理に合わせやすいビールだけに、もう少し広まってほしいものだ。
また、香川県の小豆島でオリーブを生産している、高尾農園のオリーブオイル、「高尾農園のオリーブ畑」の試飲もあった。このエキストラバージン オルーブオイルは驚くほどコクがあり、とろりとして濃厚だ。オリーブのフレッシュさだけでなく、後味にはほんのりと辛さもあり、複雑な味わいが楽しめる。高尾農園は2006年に高尾豊弘さんが一人で山を開墾し、ギリシャのオリーブの苗を植えて始めた農園だ。長男の高尾耕大さんによれば、一番のこだわりは妥協しないこと。しんどいから、面倒臭いから、と何かを妥協すると、品質に大きな影響が出てしまう。こだわりぬいたオリーブオイルは、すでにイタリアやフランス、ニューヨークなどのオリーブオイルのコンテストで金賞や最高位1位を取得しているそうだが、味わってみると納得がく。いつものパンに塩とこのオリーブオイルを塗るだけでごちそうになる。パスタに使用する場合は最後の仕上げにかけるのがおすすめだそう。年間に生産するのは10000本ほどで、東京では浅草橋の金田油店やオンラインショップで購入可能。
同じく3階に出展していたフードライナーさんのピスタチオペーストは、ピスタチオ好きにはたまらない。イタリアのジェラート屋ではピスタチオはマストアイテム。そんなピスタチオの1番の産地はシチリア島だ。イタリアにはDOP(原産地呼称)が沢山あるが、唯一のピスタチオのDOPが、シチリアのブロンテ産のDOP ピスタチオ・ヴェルデ・ディ・ブロンテ(Pistacchio Verde di Bronte)。イル ピスタッキオ社のピスタチオペーストは、口に含むとあまりに濃厚で、唇がくっついて離れない。その後香ばしい香りが口いっぱいに広がり、驚くほど長く心地よい余韻に浸っていられる。ピスタチオってやっぱり美味しい!とその深みのある味わいを再発見できる。最近は日本でもジェラート屋でピスタチオがブームになり、このペーストが重宝されているという。同じアイスクリームといっても、ピスタチオっぽい?というものもあれば、濃厚な香りと味わいがたまらないものがあり、良質なものに出会うのは簡単ではない。質の良いピスタチオペーストを探している方には間違いなくおすすめだ。お菓子の詰め物やアイシングにも使用できる。
また、3階ではイタリア料理の著名なシェフによるデモンストレーションも開催されていた。イタリア料理の巨匠、リストランテ アルポルトの片岡護シェフは「菜園風スパゲッティ オルトナーラ ラルド添え」を会場で解説しながら調理してくれた。シェフによれば、イタリア料理の特徴というのは中華料理のように強火を使わず、弱火でじっくり炒めたり、ことこと煮込むこと。たとえばオイルに入れたニンニクも、ゆっくり弱火で狐色になるまで待つのが重要だ。美味しいイタリア料理というのは家庭料理であり、手間ひまかけて、愛情をかけてつくるもの。かつては旦那さんがお昼に家に戻り、奥さんのご飯を食べていた。奥さんの料理がうまければ旦那さんは家に帰ってくるし、そうでなければ愛人のところに行ってしまう。浮気されたくない妻にとって、美味しい料理を作ることは必要不可欠だったという。
そんな愛情をこめて時間作る料理なので、「オルトナーラ」も玉ねぎ、ピーマン、パプリカなどを30分じっくり炒める必要がある。ここまでしないと美味しいソースにならないからだ。また、パスタを茹でる時の塩加減は1%がよいそうだ。じっくり煮込んでいるだけあって、野菜のうまみがしっかり出ており、それが細い麺に絶妙に馴染む。暖かい母の手料理のように、まろやかでほっとする味だ。
2階にもオリーブオイルの試飲商談会や500度で一気に焼きあげるナポリピザはじめ、様々な出展があり、その中でも特に印象的だったのがイリーのエスプレッソだ。イタリアといえばエスプレッソの国だが、残念ながら、日本ではなかなか美味しいエスプレッソに出会えない。とはいえアラビカ種100%のこのエスプレッソは、デカフェであっても驚くほどコクがあり、口いっぱいに心地よい豊かな香りが広がってゆく。砂糖との溶け合い方もまた見事としか言いようがない。イリーカフェは、illy CAFFE 有楽町イトシア店はじめ、全国に6店舗あり、ここなら美味しいエスプレッソに出会えるだろう。
イタリアの食文化がもつ懐の深さと感動に包まれるアッチ・グストは年に一度開催されている。美味しいだけでなく陽気で楽しいイタリアの食の奥深さ。街中の飲食店でもより一層身近に、質が高く、本場に近いイタリアの食が気軽に味わえる日が来て欲しい。
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