フランス語で「ピノ・グリ」と呼ばれ、イタリア語では「ピノ・グリージョ」という品種の白ワインをご存知だろうか。華やかでフルーティ、一口飲むだけで心地よい気分にさせてくれるピノ・グリージョはアメリカを中心に世界的ブームとなっている。とはいえ世界的なワインの潮流と日本は異なることが往々にしてあるようで、日本ではまだまだ一般的には知られていない。

ピノ・グリージョはブルゴーニュで生まれた品種だが、現在は世界での生産量の44%がイタリアで、フランスは5%のみ。ピノ・グリージョは主にイタリア北部のヴェネト、フリウリ=ヴェネチア・ジュリア、トレンティーノ・アルト・アディジェの3つの州をまとめた「トリ・ヴェネト」と呼ばれる地域で生産されている。イタリアワインは呼称が複雑でわかりにくい一方で、トリ・ヴェネトは国際的にわかりやすいように「ピノ・グリージョ・デレ・ヴェネチエ」という呼称を作って世界中に輸出している。
12月2日に都内で開かれたSimply Italian GREAT WINES TOKYOの中で開催された「ピノ・グリージョDOC デレ・ヴェネチエ」マスタークラスは、イタリアワイン大使の宮島勲さんが講師をつとめ、ピノ・グリージョの魅力と現状をテイスティングとともに解説してくれた。
そもそもピノ・グリージョは今では白ワインとしての扱いだが、ブドウ自体は黒ブドウでも白ブドウでもない、ピノ・ノワールの変異からきたグリブドウという変異種で、見た目も少し黒ブドウに近く、そのまま醸造するとロゼに近い色になるという。それを戦後白ワインとして売り出して成功し、シャルドネに飽きてきたアメリカ人の心をとらえ、世界的ヒットを遂げた。トリ・ヴェネトの中でも圧倒的な栽培面積を誇るのがヴェネト州で、世界的に人気のあるプロセッコとピノ・グリージョの輸出に注力。
今回は6種類のピノ・グリージョを試飲させていただいた。全体的な特徴としては香り高さやトロピカルなフルーツを思わせる果実味が挙げられる。味わいはわりと濃く、塩味が感じられるものも多いため、塩味の効いた魚介のパスタやドレッシングの効いたサラダ、ペッコリーノなどのチーズやナッツと合わせるとよいだろう。
宮嶋さんの解説には、アメリカ人に大いに受けたピノ・グリージョの軽やかさやフルーティさが日本のワイン通に受けるかは疑問だが、トリ・ヴェネトのピノ・グリージョは一般受けするワインなので、ワインをあまり飲まない人向けに居酒屋で出すといいというお話があった。ワインも文化も、100人が触れても、その上の世界にまで行こうとする人は10人もいないわけであり、まずは一般の人により気軽に親しんでもらう姿勢が必要だ。
トリ・ヴェネトの生産者たちはその姿勢を大切にし、あえて一般の人向けに飲みやすく、わかりやすく親しみやすい気軽なワインを生産している。ボジョレー・ヌーヴォーがワインの裾野を広げたように、軽快なピノ・グリージョもワインに対する裾野を広げてくれるのではないだろうか。トリ・ヴェネトのピノ・グリージョは低価格で質の高いものが多いため、心地よい気分になりたい時にぜひ一度試してみてほしい。
By Miki IIDA