パリ10区、サン・マルタン運河は若者で賑わう地区だ。夕暮れ時にはカフェのテラスは人で溢れ、席を見つけるのも難しい。アラン・ヤン氏のワインバー、「オー・ケ」は運河から一本入った落ち着いた通りにあるヴァン・ナチュールの専門店。ヴァン・ナチュールはありのままの自然なワインという意味で、農薬を使用せずに育てたブドウを使い、醸造時に酸化防止剤を加えないワインのことだ。
「美味しいワインはつい沢山飲みたくなるけど、飲み過ぎると次の日頭が痛くなるのが玉に瑕。でもうちの店のワインは翌朝頭痛がしないんです」とアランさん。香り高く、軽やかでフルーティさに溢れる「オー・ケ」のヴァン・ナチュールはどれを飲んでもワインって素敵と感じる美味しさで、つい普段より飲んでしまう。そして不思議なことにアラン氏の予言通り、その晩も翌朝も、悩みの種の頭痛は訪れず、ワインの心地よい余韻に包まれたまま。なんだか魔法にかかったような感覚だ。
「アグリクルチュール・ビオロジック(AB)」のワインはブドウは有機栽培ですが、醸造もビオかというと必ずしもそうではありません。ヴァン・ナチュールは有機栽培な上、醸造方法にもこだわっています。つまり、醸造時に通常使用する酸化防止剤を全く使わない、もしくは、ほんの少しだけにするのです。酸化防止剤をほんの少しでも使ったものをヴァン・ナチュールというかという議論もありますが、僕の店では両者ともに扱います。ヴァン・ナチュールはこうした製造方法のため、生産量もごく限られます。小さな区画で丹念に愛情をこめて造られたワインなんですよ。」
酸化防止剤が頭痛の元という説はフランスでも大いに意見の分かれるところで、酸化防止剤無添加なんてワインではないという生産者も多くいる。ワインは放っておくと酸化して酢になってしまうからだ。だからヴァン・ナチュールは酸っぱいとか不思議な味と言われがちだが、この店のワインは非常に香り高く、ワインが花開いている印象で、質の高いものをセレクトしているのがよくわかる。
ワインショップ兼ワインバーの「オー・ケ」ではワインの購入のみも可能。壁一杯にならぶワインのほとんどがヴァン・ナチュールというから圧巻だ。店内では白、赤ともに常時1種類のグラスワインのセレクトがあり、1杯4€で味わえる。ボトルワインを店内で開けたい時はボトルの価格+6€。いずれもシャルクトリの盛り合わせ又はチーズの盛り合わせ(6€)を一品注文する必要があり、添えられるパンはグルテン不使用というこだわりだ。店内は仕事帰りに友人との時間を楽しむ人たちで賑わい、気さくな店主のアラン氏との会話を楽しんでいる。美味しいものに目がない彼は、今まで食べたものの写真を嬉しそうに見せながら「これと赤ワインを合わせた時といったらね~!」と目を細め、最高の味わいを思い出す。そんな彼の何よりの楽しみは、大事なお客さんの誕生日に2kgもの牛肉の塊を焼いて皆で食べること。本当に美味しいものを大好きな人と分かち合う喜びが、この店の根底に流れてる。そして、美味しいワインを囲むうち、次第に誰かと打ち解けて、帰るころには仲良くなれる。ワインの魔法にかかりたい気持になったら是非「オー・ケ」を目指してみてほしい。
オー・ケ Au Quai
住所:15, rue Alibert 75010 Paris
電話: 33 6 16 23 62 09
メトロ: 11番線 Goncourt