ワインが好きな方なら一度はテイスティングをしたことがあるでしょう。
ではコーヒー好きの人は?同じ店で別の日に何種類か試してみることは
あったとしても、コーヒーを数種類飲み比べする機会は意外と多くないものです。
ところが日本スペシャリティコーヒー協会主催のイベント「SCAJ 2012」では、
様々なコーヒーを味わうことができるのです。
スペシャリティコーヒーとは、流通経路が明確な豆の香味をカッピングテスト
により採点し、80点以上を獲得した特に上質な豆のこと。SCAJはそんな
スペシャリティコーヒーに特化した日本最大級のイベントで、年に一度、
東京ビッグサイトで開催されています。このイベントにはコロンビア、
ジャマイカなど各国の生産者からコーヒーマシーン業者、焙煎機業者、小売店や
コーヒー関連の書店まで、コーヒーに関する幅広い業者が集まります。
会場内に足を踏み入れるとすぐに、カッピングの光景が目に飛び込みました。
カッピングとは、コーヒーの格付けをする際に専門家たちが行う、コーヒーの
テイスティング。専門家でなくても可能なの?と、早速係の方に教えてもらい、
ホンジュラスなどのコーヒーのカッピングをさせてもらいました。
コーヒーは生産者ごとにカップが分けられ、1種類につき1~2個のカップが
用意されています。カップの中はコーヒーの粉にお湯が注がれた状態になっていて
いつも目にするコーヒーとは様子が違います。カッピングスプーンをお借りしたら
カッピングの始まりです。まず気になるコーヒーの上澄みをすくい、香りを嗅いで
ズッと勢いよく口の奥まで含みます。それから飲んでも吐いてもいいそうですが、
私は吐きだすことでコーヒーの香りを堪能することができました。口に入れた時には
ピンとこなくても、吐き出した後には後味が口一杯に広がります。それからまた
次の生産者のカップ、その隣のカップへと移動をしていきます。同じ生産国の
コーヒーでもフルーティなもの、チョコレートのようなもの、スモーキーなもの
から赤い果実を思わせるものまで実に様々な味わいがあるというのが実感として
わかります。
酸味、複雑さ、果実味、ヘーゼルナッツやスモーキー、会場で耳にした言葉は
まさにワインのテイスティングで耳にした言葉と同じもの。生産者のこだわりが
質の高い商品を生み出すことや、味わいの表現方法まで、美味しいコーヒーと
ワインには共通項があるようです。ところがコーヒーが難しいのは、同じ人が
同じ豆を使っていても、抽出方法や保存状態で味が大きく変化してしまうこと。
会場内で試飲させてもらえるコーヒーはエスプレッソ、カプチーノ、シロップ入り
ドリンクやハンドドリップコーヒー、サイフォン、ポットで保温されたコーヒー
までありました。スペシャリティコーヒーばかりとはいえ、やはり目の前で
抽出してくれたものと、長時間ポットで保温されたものとでは味わいが大きく
異なります。
そんな中特にハッとさせられたのは、小川珈琲のブースで試飲した風変わりな
器具で抽出したコーヒー。「エアロプレス」というその器具は、空気の圧力を
使ってコーヒーを抽出するのだそう。半透明の筒状の器具を2つ重ね、その上から
手でゆっくりと圧をかけてコーヒーを抽出します。今回試飲させてもらったのは
「パナマ・ドンペペ」という豆で、一口飲んだ瞬間に香りがバァーッと広がり、
最大限に引き出された豆の良さが口中に大きく広がっていく印象でした。20種類
程試飲した中でもしっかりと訴えかけてくる味わい深さには驚きを隠せません。
生産者、中間業者、小売り業にカフェで働くバリスタやスタッフ達。世界にも、
日本にも、本当に美味しいコーヒーを味わってほしいと情熱を傾けている人が沢山
います。一杯のコーヒーにかける情熱と探究心。少しでもいいものをとこだわりぬく
姿勢。ああ自分が求めていたのはこれだった、と思えるコーヒーに出会うことが
できたなら、思いもよらない幸せな日常が流れていくのかもしれません。