10月28日〜29日、東京 広尾のフランス大使公邸にて「フランス 美食の余韻」が開催された。フランスの食文化の豊かさと多様性を日本に伝えるこのイベントは、今年で3回目の開催となる。ショコラ、シャンパーニュ、フランス菓子、ジャム、ラム酒など、20社計27ブランドが参加した。
今回は初の試みであるバゲット・コンクールも開催された。1970年に日本に「日本フランスパン友の会」が設立されて以来、フランスパンの食文化の普及に努め、最近ではフランスにひけをとらないバゲットやクロワッサンなども手に入るようになってきた。フランスではフランス全土を対象としたバゲット・コンクールと、パリ市内を対象にしたコンクールが開催されており、パリ市内のコンクールで優勝したブランジェリーは大統領官邸のエリゼ宮に1年間パンを届けることになる。
フランスの食文化の象徴ともいえるバゲットは2022年にはユネスコの無形文化遺産に認定された。第一回バゲット・コンクールの会場ではフランスパン・コンテストの最終部門に残った5社のバゲットが2切ずつ用意され、食のジャーナリストや大使館関係者が最も美味しいと思ったバゲットに投票する。その結果、一位は仙台の「Boulangerie AZUR」の伊藤祐太さんの「バゲット・ナチュレール」が選ばれた。こちらは他のバゲットよりも皮が厚く、非常に香ばしくてカリッとしており、中はモチモチ。日本のバゲットは湿気との戦いだが、時間がたってもしんなりせずに、歯応えがあるのが驚きだった。
また、会場ではフランスの海外県であるグアドルプ産のラム酒を紹介する「フレンチカリビアン グアドゥルプ ラム・テイスティング・セッション」も開催された。カリブ海にあるグアドゥルプはフランスの一部であり、法律もフランスと同じで通貨はユーロ。フランスとカリブ文化の混じった個性的な島だそう。ラム酒はグアドゥルプの名産品であり生活に欠かせない。そして、グアドゥルプ産のラム酒は世間一般に出回っているラムとは異なっているという。
世の中の9割のラムは「工業生産のラム酒」と呼ばれ、サトウキビから砂糖を作った後の残りを蒸留してラム酒にするのに対し、グアドゥルプ産「アグリコル・ラム」は、サトウキビから砂糖を作らずにそのまま発酵させて蒸留することで、特徴的な強い味わいになる。来日した「ラム・ボローニュ」社はグアドゥルプで最も古い醸造所で、17世紀からラム酒を生産し、150ヘクタールものサトウキビ畑を所有。エルメスやバカラ同様に無形文化遺産企業(Patrimoine Vivante)として認定されている。こちらのラム酒は40〜50度あり、とても濃くて深い味わいだ。
ラム酒にフルーツを漬け込むことで作られる「パンチ」もグアドゥルプ土着の文化だそう。それをより洗練させた形にした「パンチ・マビ」社のパンチには、グアドゥルプで採れた生姜やココナッツ、ハイビスカスなどが漬け込まれている。最低でも6ヶ月、長い場合には10年以上寝かせることで、フルーツの甘味や味わいがラム酒に溶け込んでいる。ココナッツのパンチはトロリとしてまろやかで、水やソーダで少し割っただけで話題のアペリティフになりそうだ。
会場には様々なフランス製品が並び、特に印象的だったのはマルセイユの「ドラジェ・レイノー」社のドラジェ。ドラジェは結婚式などお祝いの場に欠かせないフランスの伝統菓子で、アーモンドに砂糖でコーティングをほどこしたもの。レイノー社は伝統的なタイプの他にも様々なドラジェをつくっており、大きめのアーモンドを上品なチョコレートで覆ったドラジェはカリッとした食感がたまらない。
ペルルという真珠型の美しいお菓子は、ショコラを砂糖でコーティングしたもの。表面がとてもカリッとしていてこちらも食感が素晴らしく、見た目の美しさからお菓子のデコレーションにも使われているという。レイノー社もフランスの無形文化財企業に登録されている。
また、ジャム職人として3度も世界チャンピオンに輝いたという「メゾン・フランスシス・ミオ」は、すでに日本で販売しているジャムの他、チーズと合わせて食べる「パート・ド・フリュイ」を紹介。くるみ風味のいちじくや、プロヴァンスハーブのフランボワーズなどがあり、ジャムほど甘くなく、煮詰めたフルーツの味わいが凝縮し、コンテやブルビなどのチーズと合わせたら、たまらなく幸せな気持ちになるだろう。「メゾン・フランシス・ミオ」は基本的に砂糖よりも果物の割合の多いコンフィチュールを作り、果物由来の甘さを大切にしている。ジャムは花の香りと果物を混ぜたものも多く、これだけで朝食の時間が一気にグレードアップしそう。
来るたびに新たな食の発見がある「フランス美食の余韻」では、まだ日本に輸入されていないフランスの食の最先端に出会えるのも大きな魅力。今回のコンクールを機に、より一層フランス質の高いフランスパンが身近なものになってほしい。
by Miki IIDA